日比谷花壇大船フラワーセンター「ひょうたん展」で。マラカスなどは湯浅浩史先生のコレクション(2022年9月21日)

【インタビュー】植物学者 湯浅浩史 その3/5

『ヒョウタン文化誌—人類とともに一万年』(岩波新書)の著者であり、日本一ひょうたんに詳しい植物学者の湯浅浩史先生に、ひょうたん好きライターの丸黄うりほがお話をきく企画。第3回は、ひょうたん楽器についてお話をうかがいました。現在も世界の民族楽器にはひょうたんから作られた楽器がたくさんありますが、じつはほとんどの楽器のルーツがひょうたんだったとは!また、音楽とは「耳だけで聴くものではない」ともおっしゃる湯浅先生。お話は「音を奏でる器」としてのひょうたんに始まって、楽器の起源、音楽の始原にまでたどり着きます。(丸黄うりほ)

音楽は耳だけで聴くものではない

——前回までのお話では、道具としてのひょうたんには、240種類もの用途がある。しかもそれは、ひょうたん楽器を1種類として数えた場合だと湯浅先生はおっしゃいました。世界を見渡すと、ひょうたんで作られている民族楽器にはとてもたくさんの種類がありますよね。

湯浅浩史さん(以下、湯浅) そうですね。楽器は「音を奏でる器」と考えて、ひょうたんの用途としては1種類と勘定しています。楽器は、打楽器、弦楽器、吹奏楽器とか、いろんな分類ができますが、ほとんどの楽器の由来にひょうたんが関わっています。乾いたひょうたんをそのまま振ればマラカスになりますし、叩けば太鼓になるでしょう。

——はい。タネが中にいっぱい残ったひょうたんは振るとジャラジャラ鳴って、そのままでも楽器として使えますね。

湯浅 普通の太鼓には皮を張りますよね。でも、ポリネシアには皮がなかったんです。ポリネシアには家畜としてはニワトリくらいしか持っていかなかった。ハワイもそうです。カメハメハ大王の太鼓が「ビショップミュージアム」にありますけれど、それは大きなひょうたんを二つ重ねて叩きます。そういったハワイの叩く楽器は、ダンスにも使うんですね。

——フラダンスに使われる、イプですね。

湯浅 ええ。ひょうたんを二つ重ねたイプと、一つだけのイプがあります。

——二つ重ねて鳴らすのがイプヘケで、一つのがイプヘケ・オレでしたね。ハワイには皮がなかったから、ひょうたんだけで太鼓を作ったということでしょうか。マラカスと同じで、ひょうたん以外に何も使わなくても楽器になるという例ですね。

イプヘケ・オレ(2020年宇治市植物公園のひょうたん展にて丸黄うりほ撮影)2021.04.02ひょうたん日記より

湯浅 ええ。アフリカで行われる最も素朴な演奏は、ひょうたんを地面に打ちつけるだけです。ところで、みなさんは耳で音楽を聴くでしょう?でも、それだけが音楽の味わい方ではありません。

——はい。

湯浅 原点の音楽は耳だけのものではないのです。全身で味わう。たとえば足踏みをするでしょう。アフリカなどでは音に同調して足踏みの踊りをしますね。

——あっ、そうですね。

湯浅 また、いちばん古い弦楽器は弓です。弓の弦をただビンビンと鳴らすだけでした。その弓にひょうたんをくっつけて鳴らすと音が大きくなりますね、そうやって、弦楽器は弓とひょうたんを組み合わせて作られました。それが弦楽器のルーツです。

——それは、ビリンバウのことですか?

ブラジルのビリンバウ(中央)とカシシ(右)(大阪音楽大学「楽器資料館」で丸黄うりほ撮影)2020.01.20 ひょうたん日記より

湯浅 ビリンバウはもともとはアフリカから伝わってきたもので、ビリンバウの原点となった楽器はアフリカにまだ残っています。ひょうたんをおなかに当てるんですよ。お腹に当てると音が耳にも聴こえるけど腹にも響くでしょう。それがブラジルに渡ってビリンバウになった。

湯浅浩史著『ヒョウタン文化誌』岩波新書 p120より。マダガスカルの楽弓。

——音を、お腹に響かせて、耳以外でも聴くんですね。もともとアフリカの人たちがあの形の楽器を作っていて、それを持ってブラジルに渡っていった。おそらく奴隷として、ということなのですね。

湯浅 ビリンバウと一緒に振るシャラシャラなる楽器は、あれはもともとマラカスだった。その二つをくっつけたんです。ブルキナファソの楽器では底だけにひょうたんを使っています。さらにそれが進化したのがカシシで、底だけがひょうたんで両側を竹で編んだカシシもあります。音は大きいですよ。

そして、吹く楽器だと、笙があります。笙の原型では共鳴器にひょうたんが利用されています。笙自体はアジアでは最も古くから記録される楽器で、青銅で作ったものも出ていますし、雲南省では紀元前5世紀ごろの場所から青銅の笙が出土しています。

アフリカにもごくまれに、ひょうたんにリードのある単管を垂直にさし、管に穴をあけて音を変化させる楽器がありますが、それが笙の原点かどうかはわかりません。あるいは、もっとシンプルなのはインドのヘビ使いの笛です。ヘビ使いの笛はひょうたんの前方に複数の管が付けられていますが、それが上面に配置されて笙に発展したのか、というのも断定する根拠がありません。余談ですが、ヘビには耳がありませんので、蛇を操っているのは足の振動なんですね。蛇使いは足を上手に動かして振動が伝えています。

——そうだったんですか(笑)、ヘビは振動で音楽を聴くんですね。

湯浅 あるいはラッパ。ラッパもあちこちにありますが、筒状のものをそのまま吹いてもホルンみたいになりますし、あるいは竹の先にひょうたんの広がりだけつけて音を大きくする、インドのナガランドのホルンもあります。ペルーあたりには、テナーというひょうたんの細長い部分だけで演奏する楽器があります。

——鶴首とか、ロングハンドルディッパー形のひょうたんの先を切り落として、その状態で吹くのでしょうか?そのままでラッパ型ですもんね。

「ひょうたん展」展示より、ロングハンドルディッパー

湯浅 そして、ギロ。こすって演奏します。あれは中南米だけしかない。

——ギロは、ひょうたんの表面に刻みをつけて、きゅっきゅっとこすって演奏しますね。

湯浅 はい。あれはね、日本だと洗濯板。洗濯板ってわかりますか?あれと同じ。よくあんなの考えたと思いますよ。ギロはアフリカ発祥じゃないんです。

——ラテン音楽じゃなくて、オーケストラでもギロを演奏しているのをみたことがあります。

湯浅 独特の音が出るからね。キューバではウィロっていうんです。で、キューバにはチェケレとウィロの楽団があります。女性が振り、こすりながら演奏するんですよ。

——チェケレはシェケレともいうんですね?

湯浅 キューバではチェケレ、ブラジルなどではシェケレといいます。外側に網をかぶせて、結び目に音をたてるタネや、現在ではガラス管やボタンなどを利用しています。やはりアフリカが発祥の楽器ですね。

——ひょうたんの内側にタネなどが入ってるのがマラカスで、外側にビーズや豆や貝殻などがぶら下がっているのがシェケレなんですね。

「ひょうたん展」展示より、シェケレは下段右端。右から2つ目がチェケレ。

楽器の原点は、ひょうたんである

——ヴァイオリンやギターのような西洋の弦楽器も、ひょうたんのように真ん中がくびれた形をしていますよね?あれはやはりひょうたんに関係があるんでしょうか?

湯浅 私は弦楽器の原点はアフリカにあると思いますが、ヴァイオリンやギターのくびれが関係があるかどうかはわからないです。アフリカではくびれのあるひょうたんはむしろ少ないんですね。丸いのとかつぼ形とか長細いヘチマ型のが多くて、くびれがあるのは中国や日本人好みなんです。

くびれのあるひょうたんがアフリカで使われていないわけじゃないですよ。やっぱりくびれていると持ちやすいですから、何も加工しないでそのまま握ったり持ったりする場合は、途中にくびれのあるほうがいい。だからアフリカにも存在します。でも、やっぱりたくさんの容量を入れるにはくびれのあるよりは丸い方が利用しやすいから、それが主流になりました。アフリカのマリ共和国の線刻されたひょうたんを展示しましたが、ああいうくびれの長い形のひょうたんは持ちやすいですよね。

「ひょうたん展」展示より。マリ、ドゴン族の線刻。

——あれは、もともとああいう形になる種類のひょうたんですか?それとも、あの形になるように実を育てる時に型をはめたりして工夫しているんですか?

湯浅 ああいう形の種類です。亜鈴型の品種として区別します。

——日本の楽器の、琵琶はどうでしょうか?

湯浅 琵琶は完全にひょうたんがルーツです。トルコから中央アジアにかけて、ひょうたんの弦楽器がいろいろとあります。琵琶もその流れの一つですね。

インドのシタールもひょうたんの弦楽器です。シタールは、ひょうたんをふたつ組み合わせて使っています。くびれた形じゃないですけどね。

ひょうたんのくびれたのを楽器に使うってのは意外にない。でも、あの形だと音が響きやすいとかはあるかもしれない。あるいは持ちやすいということも関係があるのかもしれない。だからといって、ギターやヴァイオリンの形が、ひょうたんがモデルになっているかどうかというのは、然としませんけども。

——中央アジア、あの辺りってものすごくたくさんの種類の弦楽器がありますよね。

湯浅 馬頭琴とか。

——はい。あのあたりの地域から、逆にヴァイオリンなどのルーツがヨーロッパに出て行ったというようなことはないんでしょうか?

湯浅 ヴァイオリンの原点はやはりアフリカですよ。西アフリカにヴァイオリン的な弓弾きの楽器もありますし。

——そうなんですね。

湯浅 ハープのように奏でる楽器では西アフリカにはコラがありますね。

——コラはすごい楽器ですよね。弦の数が多くて演奏がとても難しそうです。

西アフリカのコラ(大阪音楽大学「楽器資料館」で丸黄うりほ撮影)2020.01.21 ひょうたん日記より

湯浅 コラの弦は20本くらいですね。弦の数の多さでいうとハープなんかだと100をこえるのがあるけど。シタールも20弦ほどありますが、必ずしも全部が弾くための弦ではなくて、飾りの弦もありますからね。2015年に国立科学博物館の「世界のヒョウタン展—人類の原器—」で展示したコラは、1.8メートルくらいあるコラです。

——楽器も、ひょうたんルーツのものが本当に多いんですね。

湯浅 はい。楽器の原点はひょうたんなんです。ヴァイオリンとかギターに整備されるまえの、コラのように西欧の楽器では分類しにくいひょうたん楽器がたくさんありますよ、アフリカには。

——ひょうたんルーツの楽器が多いというよりも、楽器のルーツがひょうたんなんですね!

 

ひょうたんで地を響かせる、水を響かせる

——先生はさっき、音楽は耳だけで聴くものじゃないっておっしゃいました。

湯浅 はい。もともと音楽は身体で聴くものなんです。だから、喜んでドンドンドンというリズムで踊るでしょう。そうやって飛び跳ねてもコンクリートの上じゃダメだけどね、土の上ですから体に響く。それが楽器として残っていたのはイースター島ですよ。イースター島では、地面に穴を掘って、その上にひょうたんをかぶせて、それを叩いて演奏するものがあったんです。

——イースター島にそんな楽器が?

湯浅 現地ではもう失われているから、私も伝えられた話をきいているだけですが。

——穴を掘ってそこにひょうたんをかぶせて、その空洞を響かせるわけですか?

湯浅 そう、響くと思います。ひょうたんを叩くとそこから音が出て、それを共鳴させたんでしょうね。

——文字通りの、大地の音ですね。

湯浅 まあ、でも、それが実際どういう形だったかっていうのは絵も一切残してくれてないしね。イースター島は、ヘイエルダールが乗って行ったコンティキ号のころ(1947年)には、ひょうたんがたくさんあったらしい。私が1983年に行った時にはもう、最後のひょうたんとタネがいくつか残っているだけでした。

——最後のひょうたん……。

湯浅 そのことは、『ヒョウタン文化誌—人類とともに一万年』(岩波新書)にも書いたけど。ヘイエルダールが『アク・アク』に書いていた村長の奥さんがまだ生きておられたので、ひょうたん持ってないですかと尋ねたら、もうなかった。ヒョウタン畑にも案内してもらったけど、もうどこにも残ってなかった。

——イースター島のひょうたんは、急速になくなってしまったんですね。

湯浅 ヘイエルダールがモアイの切り出し実験を行ったとき、住民はひょうたんに入れた水をかけながら石器を打ち付けています。日本でも石屋さんが石を切るとき、水をかけながら行う方法と同じです。私もささやかながら、ひょうたんに入れた水をかけてみたところ、水をかけた方が削りやすいことがわかりました。

また、イースター島には、人はマケマケの神がヒョウタンの若い果実の果肉をこねて創ったという神話があります。ヒョウタンが重要な存在であったことの裏付けになると思います。

——面白いですね。楽器の話をもう少しお聞きしたいと思います。水といえば、ひょうたんを切って水に浮かべて鳴らす太鼓もありますよね。

湯浅 ウォータードラムですね。あれはいちばんシンプルな楽器です。大きな丸いひょうたんに水を入れて、そこにひとまわり小さな丸いひょうたんをかぶせて叩く。叩くものもひょうたんなんです。その叩くほうのひょうたんがね、柄のところがつまっている、実空(じくう)ひょうたんって呼んでいるものなんだけども。

——実空ひょうたん、ですか?

湯浅 日本の鶴首ひょうたんだと首のところが空洞になっているでしょう。あれが全部つまっているんです。西アフリカ特有のひょうたんです。

——棒状のところがつまっているんですか?

湯浅 そうです。だから折れないんですよ。それでぽこぽこ叩く。

——マレットになる。そんなひょうたんがあるんですね。

湯浅 水を入れたひょうたんに浮かべたひょうたんをひょうたんで叩く。これが本当のウォータードラムですね。

——なんと、ひょうたんを3つ使って鳴らす楽器ですね!

湯浅 これは日本でもできるよ。ただ大きいひょうたんがないとダメだけど。

——そうですね、大きいのがあればできますね。

湯浅 大きいのは盥か何かで代用すればいい。すごく面白い音出るよ。ぽこぽこぽこぽこ。

——湯浅先生ご自身も楽器の演奏をされるのですか?

湯浅 いや、とんでもない。見るだけ、聴くだけ(笑)。

——音楽はお好きですか?

湯浅 現代の音楽にはついていけません(笑)。小学唱歌の世代だから。

——それにしても、ひょうたんは水などの容器になってきただけでなく、楽器の原点でもあった。暮らしを支え、芸術文化を生み出してきたものでもあるのですね。人の営みに深く関わってきた、まさに人類の原器……。

湯浅 プラスチック、ビニールができるまでは、この関係が1万年続いてたんだから。だけど、ひょうたん楽器は残るよね。たとえ作れたとしてもプラスチック楽器とは音が違う。なんでひょうたんはいい音を出すか、知っていますか?

——私がきいたかぎりでは、内側のヒダヒダにポイントがあると。

湯浅 そう。スポンジ状のやわらかい繊維が雑味を吸収して音をまろやかにするんです。画家でアーティストの秋元しゅうせいさんが、ひょうたんスピーカーを作っていますよね。スピーカーで聴く音って、普通はみんな左右から聞いているだけでしょ。でも、音というのは本来は全方向に広がって響くものなんです。秋元さんのつくるひょうたんスピーカーはぶら下げられるようになっていて、上からぶら下げると、音がわーっと広がる。

——立体的に聴こえるということですか。

湯浅 そうですね。

——ひょうたんと音の関係には、深くて長い歴史があったのですね。ひょうたんも音楽も大好きな自分としては、うれしいし、もっと知りたいとも思います。

湯浅 楽器を作るのは大変だけど、いちばんシンプルなのはウォータードラム。それからマラカスなら簡単ですね。マラカスは、中に入れるものを変えたら、まろやかな音が出せるのと硬い音が出せるのと、いろいろ違うのが作れます。

——おもしろいですね!ひょうたん楽器のことや、その音についても、もっとみんなに知ってもらえたらいいなと思います。

(続く)

その1「ひょうたんは人類とともに1万年」はこちら

その2「ひょうたんでわかる人類の移動」はこちら

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