アトリエピエロ

文・嶽本野ばら

久々に、アトリエピエロに行きました。ここはロリータのセレクトショップ、ネットではチェックしていたものの、やはりお洋服は直に触れてみないと欲しいかどうか判断出来かねる部分が多い。歳を重ねてしまうとどうしても新進の小さなメゾンへのチェックが緩くなってしまう。ですのでこういうお店にはこまめに足を運ばねばなりませんね。

アトリエピエロは現在、東京、ラフォーレ原宿の他、新宿マルイアネックス、大阪、アメリカ村に店舗を構えます。広く認知されるに至るラフォーレ原宿店開業は1978年に遡るそうで、それ以前は原宿プラザで営業をしていた。当初、販売員だった大橋敬子(元オーナー)さんが1991年にお店を譲られた。これくらい昔の事情になると僕も他人の文献を頼るしかありませぬ。

アトリエピエロではオリジナルブランド、ATELIER PIERROTも展開している。写真は、今期発売中の薔薇ジャガードコルセットワンピース(ボルドー)。ATELIER PIERROT名義のラインは、ゴシックロリータを長年取り扱ってきたキャリアでフリル、配色などディテールまで顧客にアピールするスピリットを一着に詰め込んでいるといえよう 
(C)ATELIER PIERROT

僕が知る頃(2000年くらい)は、マーブル/ヴィジブル、カズコオガワ、アトリエボズなど、ゴシックロリータと呼ばれることになるメゾンのお洋服を多く取り扱っていました。初期のヴィクトリアンメイデンもあった。一番、印象に残っているのはクラシックロリータというメゾンで、ここはヘッドドレスを中心に装飾品しか作らない。ヘッドドレスに特化するってスゴいと、購入したのを憶えていますがクローゼットの何処かにあるかしらん? 見付けたら今度、お観せします。

ビジュアル系アーティストが出入りしていたこともあり、ゴシックロリータの萌芽はアトリエピエロから――とする見解はほぼ正しと思いますが、これに就いて僕は正確なことがいえないので保留します。参宮橋にタムロしていた通称、橋族がどれだけアトリエピエロの顧客だったかも知りませんし……。

アトリエピエロが扱うメゾンは、随分と変わりました。ゴシック&ロリータが注目され、ミホマツダのようデパートに進出するメゾンもあったので、変わるのは当然ですが、青山の一等地に噴水を設えた路面店を持ち、ゴシックロリータの代表格であったモアメームモアティエも現在、アトリエピエロで閲覧することが出来る。新旧入り混じったロリータ系メゾンを網羅するという点に於いては文化遺産に登録されてもいい。

10月下旬〜11月上旬に発売予定のATELIER PIERROTのハイウエストスカート(コーデュロイ)。写真のピンクの他、ワイン、グリーン、ブラックの4展開。アンティークなデザインの花柄スカートはハイウエストで背面が編み上げになっている。ゴシックのみならずこのように今、注目されるクラシックロリータ・リバイバルのテイストもいち早く取り込むのでロリータ界のトレンドを知るにもATELIER PIERROTは重要な位置にあるだろう

10月下旬〜11月上旬に発売予定のATELIER PIERROTのハイウエストスカート(コーデュロイ)。写真のピンクの他、ワイン、グリーン、ブラックの4展開。アンティークなデザインの花柄スカートはハイウエストで背面が編み上げになっている。ゴシックのみならずこのように今、注目されるクラシックロリータ・リバイバルのテイストもいち早く取り込むのでロリータ界のトレンドを知るにもATELIER PIERROTは重要な位置にあるだろう 
(C)ATELIER PIERROT

人形がパーツに分解された不気味なプリントのスカートを出しているかと思えば、昭和初期っぽい女子雑誌のイラストのコラージュ柄のジャンパースカートも出す謎のメゾン、ヴァイオレットフェーンのお洋服も揃えていて、前から、何だ? ここは……? 疑問だったのですが、店員さんに訊くとスペイン発のロリータメゾンらしい。

よくロリータは今後、残っていくのか? という質問を受けます。そんなことを知る筈はない。しかし、残っていく可能性はある気がするのです。かつてMILKやジェーンマープルの影響を受けたデザイナー達がインディーズブランドとしてメゾンを立ち上げ、ゴシック&ロリータと称されるようになった。そうして今、それらに触発された世代のデザイナー達が独自の解釈でロリータのお洋服を作り、発表している。この連鎖が続く限り、マイノリティでありつつもロリータの灯は消えない。だって映画が登場した時、文楽なんて消えると、文楽の演じ手すらもが思った筈。残っているのは演る人、観る人がどうにか途絶えていないから。単純な原理です。

セレクトショップとして取り扱うスペインのロリータブランド、Violet FaneのThe funera tights. ビザールを可愛さに変換する独自のスタイルが面白い。昭和レトロをモチーフにしたドレスもありロリータのグローバル化を伺う為にも注目したいメゾンだ

セレクトショップとして取り扱うスペインのロリータブランド、Violet FaneのThe funera tights.ビザールを可愛さに変換する独自のスタイルが面白い。昭和レトロをモチーフにしたドレスもありロリータのグローバル化を伺う為にも注目したいメゾンだ 
(C)Violet Fane(C)ATELIER PIERROT

最も期待出来ることの一つに、買って着ているのみならず、ロリータは大抵、最終的に洋裁の心得がなくとも、自分で自分が着るロリ服を作り始める習性を有すのが挙げられます。ロリータくらいお洋服への執念を強く持つ者はいない。ミニハットやヘッドドレスを作り、どんどんと工作意欲はエスカレート、最終的にはワンピースを製作してしまいます。そんな中の一握りが、自分達のお洋服を人に販売したいとメゾンを立ち上げる。

与えられたブースで一定期間、自作のお洋服を販売するフェスタのようなイベントに参加するロリータ系デザイナーは多いですし、簡易にウェブで通販が出来る昨今、ロリ系を自認するメゾンがどれだけの数あるかは全く把握やれません。しかしそれだけでは未来に絡がらない。アトリエピエロのようにセレクトショップとして機能する場所が存続することこそが、ロリータの未来を照らし出すに最も大事なのだと思います。アトリエピエロはロリータ界のハロッズ、或いはかつてのパリのコレットのようなものです。

ロンドン、銀座、ニューヨークでドーバーストリートマーケットを展開するコムデギャルソンは、未だ頑なにネット販売を限定しています。これは被服は触れて貰うものという川久保玲の思想からくる。アトリエピエロに自分達のお洋服を委託するメゾンもまた、触れて欲しくてそのセレクトに加わるのでしょう。だって海外からアトリエピエロに置かれるを目指すメゾンがあるくらいだもの。シモーン・ロシャはドーバーストリートマーケットで自分の服が扱われることになった時、母が着ていたコムデギャルソンの店舗に私の服が置かれるとは――と感無量を口にしました。未来のロリータ系デザイナーもきっとそんな感慨を叫ぶのでしょうね。嗚呼、あの加藤訓仁子の服の隣に自分の服が並ぶだなんて! そう、以前にお話したフィジカルドロップのお洋服もアトリエピエロにはあるのですもの。

(18/09/2022)

ATELIER PIERROTラフォーレ原宿店

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