プレスリリースを通して世相を探っているような気がする「プレスリリース探訪(略称:P探)」です。
脈絡もなしに昔の記憶がよみがえることはありませんか?
僕はあります。
きのうも唐突に頭にモワーんとよみがえりました。
否、ぼわ~ンとかな…。
それはどっちでもよくて思い出したのは、高校時代の英語の男性教師のことです。
もう40年以上前のことです。
当時で、もう50歳を越えていたと思われる、その先生は「教科書には書き込みをしていけない」という、強いこだわりがありました。
その理由について説明してくれたのか、してくれなかったのか、それは憶えていません。
ですから「書き込み不可」の理由はわからないのですが、もう、こだわりというか、まさに信念でした。
対照的に僕は「教科書はノート」だと考えていて、中学時代から、どの教科も書き込みがいっぱい。
ノートもとるのですが、とにかく、先生の注釈や、自分が理解したり記憶したりしやすいような説明を鉛筆で書き込むのが癖。
英語のリーダーには、単語の意味やら、派生語のほか、文法的な注釈、ややこしい英文には、訳文を書き込んでいました。
その先生は最初から「書き込み不可」を宣言していたのですが、それは無視していたわけです。
でも、あるときに見つかって授業中に消しゴムで消さされたことがありました。
そのときの感想を率直に表現すると…。
「意味わからん」
そのあたりから英語の成績が下がりました。
とはいえ、教科書への書き込みに制限がなかった他の科目でも成績が下がったのも事実。
そのことは書き添えておくのがフェアでしょうね。
今も必要に応じて本に書き込みはしています。
特に本で調べて引用したり参考にしたりして長い文章を書く場合は書き込みは僕にとって不可欠ともいえる行為です。
だから図書館などで借りた、書き込みができない本に書き込みが必要なときは付箋を使ったりコピーを取ったりするわけです。
ここで「面倒やなぁ」と感じるのが参照元がネットのケース。
もっと便利な方法はあるのでしょうけど、必要な部分をメモを書き入れるためにプリントアウトして周囲から憫笑(びんしょう)を買うこともあります。
そんなこともあって「書き込みができる」ことが僕には本をはじめとした印刷物に求める条件のようなものです。
…というわけで、書き込みがしやすい「紙」の本はなくなってほしくないと切に願っています。
で、
そんなことをぼんやりと考えていたときに目に止まったのが、このプレスリリース。
創刊42周年を迎えた老舗アイドル雑誌『BOMB』プレゼンツ!アイドルグッズ販売サイト『ボムアイドル工房』がオープン!!
「アイドルグッズ販売サイト『ボムアイドル工房』」のオープンを知らせるのが、このリリースの主旨なんですけど、申し訳ありません。
そっちではなく「BOMB」がまだ「紙」で発行されていることに感激したわけです。
もうここ長い間、書店でアイドル雑誌が並んでいるコーナーに行くことがなかったので、その存在を意識していなくて忘れていました。
プレスリリースの見出しで「老舗」と「アイドル」というアンビバレントな言葉がセットになっているのが何ともいえません。
創刊した42年前は高校生でした。
まさに教科書の書き込みを消しゴムで消さされた頃です。
そんなに熱心な読者というわけでなく、好きなアイドルが表紙を飾っていると、買ったわけでして、たとえば、薬師丸ひろ子さんとかね。
友達の部屋に遊びに行くと、だいたい「BOMB」が1冊か2冊はあった印象です。
たぶん、僕と同じように好きなアイドルが表紙で微笑んでいると、フラフラと買ってしまったのでしょう。
いわゆる「エロ系雑誌」ではなかったので、書店で買いやすかったという事情もあったかもしれません。
ちなみに「BOMB」に書き込みをした記憶はありません。
その流れで気になったのが…。
「月刊ムー」×「東スポ」=「ムースポ」 真実を追うメディアが奇跡の協演!
…というプレスリリース。
確か「ムー」と「BOMB」って同じ時期の創刊だったような…と思ってウィキペディアで調べてみたら、そうでした。
「BOMB」も「ムー」も1979年の創刊。
「ムー」はけっこう好きで社会人になって以降も数年は買って読んでました。
その「ムー」が同じ紙媒体の「東スポ」(関西での紙名は「大スポ」)とコラボして、ステッカーやTシャツを販売するわけですね。
雑誌の表紙や新聞の紙面がステッカーとかTシャツのデザインになるって、スゴいことだと思いませんか?
各々の表紙や紙面のインパクトの普遍性と、積み重ねてきたイメージの賜物なわけで、文化のジャンルとして成立している感が半端ないですもん。
時代のアイコンって感じです。
それから、この2つとは媒体としての方向性やジャンルというより、もう存在するレイヤーが違う印象ですが、これも気になりました。
老舗短歌雑誌で創刊90年初の「女性歌人編集長」誕生。歌人による歌人のための短歌雑誌、発売!
短歌の雑誌なら五七五七七の31文字にしてほしかった、という個人的な願望はさておき。
短歌雑誌「短歌研究」が8月号の編集長を創刊90年で初めて外部の歌人に委ねたそうです。
その歌人が女性の水原紫苑さんなので〈初の「女性歌人編集長」誕生〉というわけ。
「見どころ」は…。
・女性とジェンダーというテーマを前に、「いま」なにを語り、なにを創作するのか。
・コンセプトは、「女性が作る短歌研究」ですが、執筆者は、女性という性別でくくらずに依頼しており、従来の「女性特集」とは、まったく異なります。
・現代短歌シーンを代表する歌人・識者50人が集結して、「女性」そして「ジェンダー」を中心テーマに、新作短歌、評論、対談を発表。
…など。
今回、責任編集者となった水原紫苑さんの「巻頭提言」からの引用もあって…。
「単に女性による女性号という狭い意識ではなく」という方針のもとに編集されたようです。
何が言いたいかというと…。
こういう雑誌が「紙」で刊行される意義のようなものを感じるのです。
「紙」でないと、心もとない。
鉛筆で書き込みができませんしね。
そんな自分は古いんでしょうけど…。
時節柄というか、7月23日に開会式が行われた東京五輪に間接的に関係するプレスリリースもあります。
【月刊文化財】唯一の文化財総合月刊雑誌!8月号では、「代々木競技場の重要文化財指定に関する意義と展望」についての寄稿論文を掲載!
前回の東京五輪に続いて今回も競技会場となるという歴史的な意義もあるし、重文になるのに、どうも、あまり話題にのぼっている気がしない「代々木競技場」の特集です。
国立競技場が新しくなって、そっちに注目が集まっていることもあるのでしょうけど…。
あんまり「代々木競技場」がスポットライトを浴びると「国立競技場も、新しくする必要はなかったんじゃね?」という疑問が出てきそうなので、敢えて、どこかでブレーキがかかっているのでは、勘ぐってしまうほどです。
「月刊文化財」は…。
日本の指定文化財を中心に、概念の変遷や学説の動向、国内外の豊富な事例紹介等文化財に関わ るあらゆるテーマを、各分野の第一人者の解説、多くの写真とともに取り上げる唯一の文化財総合月刊雑誌。
…で、創刊は1963(昭和38)年。
前回の東京五輪の前年です。
内容から推し量ると、電子化されても大きな問題はなさそうな雑誌ですが、個人的には、この雑誌が文化財になるくらいまで、紙で発行し続けてほしいです。
いろいろなものの電子化が進むなかで、こんなプレスリリースもあります。
評論家・宇野常寛が責任編集をつとめるあたらしい「紙の」雑誌『モノノメ』が2021年9月、創刊します【2021年8月20日(金)までクラウドファンディング実施中】
「紙の」と強調されているところに時代が反映されているわけですね。
コンセプトは「検索では届かない」。
誰かが設定した問いに大喜利的に応える今日の言論状況とは真逆に、自分たちが問いを立てること…などををルールに紙の雑誌を再起動します。
…とのこと。
「紙の」雑誌以外にも「再起動」できそうなものがたくさん、あるような気がしてきました。
では、今回はこれくらいで、お開き。
お読みいただき、ありがとうございました。
(岡崎秀俊)