オジィさんだってニコモになりたい
文・嶽本野ばら
チビなので子供服が着られます。主にイオン系のショッピングセンターで展開されるナルミヤのラブトキシックとか――。この冬はラブトキのマフラーと手袋がとても重宝いたしました。手が小さいものですから、手袋も大人用では指先が余るのですよね。その点ラブトキはジャストフィット。
幾らチビでも小中学生女子サイズが入るんかい! 入るんですよ、対象年齢12~15歳、身長140~160cmといいましてもね、近頃の女子は骨格が大きいので、Lサイズのアウターなら余裕です。成長期の娘さんがターゲットですから、次シーズンまで着て貰えると作る方も期待していない分、お安いですし、韓流とかトレンドも上手におさえながらデザインされているので可愛いのです。
そりゃ、シャーリーテンプルの方が好きですよ。でもシャーリーはブルジョワジーの子供服ですし、カジュアルなものをと思うとつい、ガーリーテイストなラブトキに手が出てしまいます。
ラブトキは『ニコラ』にもよく登場しますし、コラボレートグッズが『りぼん』の付録に付いていたりもします。竹下通りには旗艦店もありますし、ラブトキを着ていれば威張れます、少なくとも小学生には。
ライターの時代、エンジェルブルーの大ブームと共に盛り上がったローティーン向けのファッション誌『ニコラ』(1997年創刊)の読者モデルオーディションを取材させて頂いたことがあります。オーディションといってもモデルになりたい者だけが応募するのではなく、ニコラモデル(ニコモ)とお話ししてみたい、『ニコラ』が好きな人なども申し込んでよく、一人一人、ダンスや歌を披露するような形式ではありません(今はどうか知りません)。会場でお菓子を食べているだけで構わない。しかし編集部の人からくれぐれもと注意されたのは、「話を訊いたり写真を撮る許可を得るのは構いません。しかし、貴方、可愛いから……とか、お洒落だし……というような声の掛け方だけは絶対にしないで下さい」ということでした。
「彼女達は敏感です。軽い気持ちで可愛い、お洒落だと告げれば、どうしてあのコが? 瞬く間に他の参加者達の心中にノイズが走ります。芸能事務所のオーディションなら、仮令、子供でも優劣を付けられて仕方ないと覚悟します。でもここはそういう場所じゃない。だからオーディションとはいえ、大人が評価を口にしちゃならないんです」
15歳くらいになれば自分ではどうすることも出来ない格差がこの世に存在するのを悟る。社会人になってしまえば、今の状況は過去の結果だしと、因果を言い訳にし、自分をラクにさせる術を憶えます。なれどまだそれに至らない少女の期間は、今日はブスだけど明日は可愛くなっているだろうと思うことがやれる。もしかすると私は孤児院に預けられた子供で、本当のパパとママは大富豪、訳あって捨てられ、そのうちにお迎えがくると信じることが出来る。自分の可能性を自分で否定することと引き換えにして、人は生き易さを手に入れるのでしょう。
前髪を1㎝短くカットされてしまっただけで絶望し、部屋から出られなくなってしまう少女を僕は愚かだと笑えない。大人になればそんな些細なこと、気にしてはいられなくなるよと、したり顔で告げる人達の粗野に唾を吐きたい。ああ、前髪なぞ気にしなくなるでしょう。でも白髪や皺の数に慄き、お世辞と解っていながら、貴方達は一歳でも若くみられれば有頂天になるではないか。初めてラブトキシックのアイテムを持てた時のアイデンティティと、エルメスやヴィトンを所持するアイデンティティは見栄という同じ集合で括れるものかもしらねども、真剣さの純度がまるで違う。諦めることの美しさは諦められないからこそ得られるのだ。諦めることを最初から選択肢に入れている狡猾さがもたらすスマートさなぞ神様は望むものか。
神様が何故、アベルの羊だけを受け入れ、カインの農作物に見向きなされなかったのか? アベルは一番いい羊だからもったいないけど、神様にあげるものだしと断腸の思いで差し出したが、カインは捧げものを選んでしまったのではないだろうか? セールで324円になったのでお小遣いで買えたラブトキシックのガチャベルトと、免税店で買ったエルメスのバーキンが同じ価値な筈はない。たった324円とはいえ、少女はそれを買うともう、お財布の中に176円しか残らなかったのだ。
一応、大人ですしラブトキなら爆買いも可なのですが、僕は試着を繰り返し念入りに商品を吟味します。否、ラブトキだからこそ真剣になります。店員さんは何だ、あのジジィ、気味が悪いと思っているでしょうが意に介しません。腕時計、ずっと欲しいのですが3190円もするんです! 躊躇いなく買えるならラブトキファンの資格はないですもの。
(03/17/21)