ロリータファッションという言葉は何処から来たか?

文・嶽本野ばら

ロリータファッションのカテゴリーは何時、出現したか? ロリータを題材に作品を書き続ける身として何時か、ジェーンマープルに代表されるようなスタイルがファッション誌でロリータと記述された最古の文献を詳らかにせねばと思いつつ時間が取れないまま今に至るので、ここまで解っていることを仮説を含めつつ纏めておきたいと思います。

リアルタイムでロリータを体験してきた者として間違いなくいえるのは、少なくとも80年代、その語は生まれ90年代、メゾンが嫌がり始めたのでファッション誌が封印し、ガーリーという差し障りのないものに置き換えたことです。僕の手元には『PeeWee』が別冊として1996年に刊行した『ファッション丸わかりブック』があるのですが、ここではアイビーやカントリーなどと共にロリータがスタイルとして紹介されている。しかしこの雑誌の発売元はソニーマガジンズ。恐らく母体が音楽出版社なので出稿先のメゾンの意向をさほど気にする必要がなくロリータ禁止という暗黙のルールを破ってしまったのでしょう。96年にはもう『Olive』『CUTiE』などでロリータというカテゴリーは使用されません。

ファッション誌『PeeWee』の別冊『ファッション丸わかりブック』ではロリータは映画『ロリータ』の主人公のようなスタイルとほぼ間違った説明がなされている。この頃、既にロリータは氷河期に突入していた。1996年 ソニー・マガジンズ刊(筆者所有)

ファッション誌『PeeWee』の別冊『ファッション丸わかりブック』ではロリータは映画『ロリータ』の主人公のようなスタイルとほぼ間違った説明がなされている。この頃、既にロリータは氷河期に突入していた。1996年 ソニー・マガジンズ刊(筆者所有)

『Olive』の1994年5月3日号には音楽特集欄でジュディ&マリー、アイドルパンクという肩書きでデビューしたKei-Teeがロリータ・パンクという謎の括りで紹介されています。この記事によればロリータ・パンクとはクールな渋谷系と逆ながらも、かっこかわいい、お洒落さんな(つまりはラブリーな)パンクのこと。もう『Olive』ではお洋服の紹介としてロリータという語を避ける時代に入っていた筈ですが、ロックのカテゴリということで使用が許されたのだと思います。従いこの記事の中でもガーゼシャツやタータンチェックをストリート感覚ながらキレイめに着こなすと書かれていますが、メゾンの名前などは具体的に挙がらない。しかしロリータ・パンクと紹介することで読者がビジュアルをイメージ出来るということは、既にこの時、ロリータという言葉がファッションのスタイルとして広く浸透していた証明にもなります。

「ロリータ・パンク」って何? という見出しでJUDY & MARYが紹介される『Olive』1994年5月3日号。この号ではファッション欄にJane Marpleのお姉さんラインとしてJane Marple Dons Le Salonが立ち上がったという記事も掲載されている。マガジンハウス刊(筆者所有)

「ロリータ・パンク」って何? という見出しでJUDY AND MARYが紹介される『Olive』1994年5月3日号。この号ではファッション欄にJane Marpleのお姉さんラインとしてJane Marple Dans Le Salonが立ち上がったという記事も掲載されている。マガジンハウス刊(筆者所有)

僕はジェーンマープルが80年代と90年代前半に大ブレイクを起こし、VIVA YOUなど多くのDCブランドがヒラヒラ路線に流れた時期、ロリータファッションという造語が現れたと記憶します。誰が何処でその定義を作ったか?

多分、無名のライターか編集者が何気なく使った表記がそのまま拡散したのでしょう。ファッションの世界ではよくあることです。その人はナボコフの『ロリータ』、それを原作としたキューブリック監督作品の『ロリータ』のイメージから牽いたのではなく、アニエスベーにインスパイアされたのではないでしょうか?

アニエスベーは1984年に、アニエスベー・ロリータを発表しました。デザイナーのアニエスが自分の子供の為のラインを欲し、ローティーンをターゲットとするレーベルをLOLITAとしたのです。アニエスベーですので過剰な装飾はなく、飽くまでシック(サイズ、デザインが限定される訳ではない)。フレンチカジュアルの筆頭として日本でも爆発的に人気を得たアニエスベーですので、アニエスベー・ロリータもすぐ日本で展開され、青山、次に福岡と旗艦店がオープンします。

agnès b.LOLITAのショップカードの表(写真左)と裏(同右)。agnès b.のアイコンであるエトワールを用いている。裏にはagnès b.LOLITAがあった店舗のアドレスが印字されている(年代不明。筆者所有)

agnès b.LOLITAのショップカードの表(写真左)と裏(同右)。agnès b.のアイコンであるエトワールを用いている。裏にはagnès b.LOLITAがあった店舗のアドレスが印字されている(年代不明。筆者所有)

ですので僕は80年代、日本独自で花開いたヒラヒラファッションを総称するのに、“ローティーンが夢中になりそうな少女趣味全開のスタイル”という解釈で、アニエスベー・ロリータの“ロリータ”が語のみ借用されたのではないだろうかと推察します。もし84年以前にロリータファッションという言葉が使用されている文献が見付かればこの推論は崩れてしまうのですが。

ロリータファッションという言葉がファッション誌から追放された理由は、ロリータコンプレックスを想起させることが第一。しかし現実的なことを申せば刹那、ブームを起こした反動で衰退し、リアルクローズが台頭する中、時代遅れのダサいものとしてロリータの様式美が認識なされるようになった事情が大きいです。ロリコンはロリータの敵ですが、最も嫌悪すべきはペドフィリア(小児性愛者)ですしね。

廃れれば悪――がモードの世界です。その中で恥辱に耐え、よくもロリータは生き抜いてきたものです。着る者の信念があったからこそ、とすれば贔屓し過ぎと失笑されるでしょうが、僕としては誉め称えたい。ロリータファッションに触発された世代のデザイナー達が起こしたゴシック&ロリータのムーブメントから登場するゴシックロリータという言葉も誰が使い始めたのか不詳です。これはかなりの確信で犯人を言い当てられるのですが、当事者が否定しておられるようですので解らないことにしておきましょう。テキトーな命名だったことだけは確かです。

(19/11/21)