第5回の話題は「シモーヌ深雪と社会活動」。先日、「DIAMONDS ARE FOREVER」のメンバーが子どもたちに「読み聞かせ」の会を行ったというニュース(朝日新聞デジタル記事:大阪/ドラァグクイーンが読み聞かせ「性の多様さを」2020年4月6日)を見かけました。メディアでドラァグクイーンがご意見番的なポジションだったり、セクシャルマイノリティの社会活動が盛んにニュースになったりする昨今ですが、シモーヌさんはどんな意見を持っているんでしょうか。(丸黄うりほ)

ドラァグクイーンの夜の世界に特化した「読み聞かせ」を

——LGBTQという言葉がクローズアップされる時代になって、セクシャルマイノリティの社会活動が注目されていますね。

シモーヌ深雪さん(以下、シモーヌ) LGBTQ+コミュニティですね。2004年から扇町公園でやってた「PLuS+」っていうHIV/AIDSの予防啓発イベントがあって、2010年まで7回続きました。ステージの構成・演出がメインでしたが、制作統括の立場でもあったので、それはまあ社会活動とも結びつくかな。それ以前にも、1994年の横浜国際エイズ会議や2005年のアジアエイズ国際会議の時に、パーティーなどでお手伝いしました。パレードも含むなら年代順に東京、札幌、大阪とかありますが、いずれも実行委員じゃなく参加だけですから、活動とまではいかないですね。

——最近は「DIAMONDS ARE FOREVER」のメンバーと、子どもたちに絵本の「読み聞かせ」をされたことがニュースになりましたね。

シモーヌ 東京はニューヨークに本部がある「DRAG QUEEN STORY HOUR」というスタイルを踏襲してるんですが、大阪は違う形でやりました。本来ドラァグクイーンってクラブとセットだし、クラブの営業は夜ですから「夜の世界」と切り離してはいけないと思ったんです。そもそも20歳以下はクラブに入れませんしね。

——大阪での「読み聞かせ」は、どこでやったんですか?

シモーヌ 新今宮のジャズライブハウスで。ちょっと早めの時間、3時くらいから5時くらいまで。ニューヨークのオリジナルスタイルでは、ドラァグクイーンが絵本を読み聞かせて、そのあと子どもとちょっと遊ぶ、で終わり。私たちは、「ライヴ」と「ショー」と「絵本の読み聞かせ」の三つをパックにして、それを休憩なしで3ステージやったんです。グランドピアノが置いてあったので、うちのパーティーのDJのカオルちゃんにピアノを弾いてもらい、私が歌を歌いました。1回目は日本語じゃない歌、英語、イタリア語、フランス語の歌を。2回目は日本語だけど、娼婦や不倫がテーマの歌を。特に2回目は放送禁止用語が入ってるようなものをあえて選びました。子どもにも親にも、性的なものに直接触れてもらう情操教育も兼ねながら。

——あえて、ですか。子どもたちが聞きに来ていたんですよね?

シモーヌ 子どもとその子どものお父さんやお母さんです。いちばん下で2~3歳、上は中学生くらい。2回めはギュウギュウでしたよ。大人も子どもも最後まで静かに見てくれてました。私はPTAや教育委員会から「ふしだらざます」と怒られたかったんですが、残念ながらそんな苦情はありませんでした。

——ドラァグクイーンが子どもたちに絵本を読み聞かせるのが、ニューヨークでは流行ってるんですか?

シモーヌ 少し前から絵本の読み聞かせ自体が世界中で流行っていて、ニューヨークやロンドンでドラァグクイーンを起用する企画が立ち上がったんです。クイーン側からではなく、おそらくジェンダーやフェミニズムのサイドからだと思います。見た目で人を判断してはいけないという大きなテーマが根底にあるものの、多様性、いわゆるダイバーシティの考え方がブームの頃でもありましたから、ドラァグクイーンもその中に入れられたのでしょう。そのあと、世界中へ飛び火していきました。

でもニューヨークのスタイルって、どうもドラァグクイーンが搾取されてるような印象がぬぐえなくって。情報は早くから知ってましたが、私は横目で見ていました。クイーンを子どもの情操教育のダシに使うなと。だってドラァグクイーンってアンチヒーローですよ。善良とはほど遠い存在なんですよ。なので、大阪はアンチヒーローがヒーローの仮面をかぶるという手法をとりました。そうとも知らずに子どもたちは目をキラキラと輝かせていました。しめしめという感じです(笑)

海外では問題も起きています。ショタやロリの犯罪歴のあるドラァグクイーンが、読み聞かせのイベントに参加してたのが後でバレたりとか。数が増えればそういうこともありますよね。

——そういった読み聞かせの動きはいつから出てきてるんですか?

シモーヌ 「DRAG QUEEN STORY HOUR」のプロジェクトが発足したのは2015年からです。ジェンダーやセクシュアリティをフューチャーした子ども向けの絵本が、新しい傾向として出版された背景も関係してるかと。東京に輸入されたのは3年くらい前ですね。

——大阪でやったのはいつですか?

シモーヌ 大阪は去年です。去年の秋に1回と今年のアタマに1回。

塚村編集長(以下、塚村) 絵本はどんなものを読んだんですか?

シモーヌ 何でもよかったんですが、主催者の意向でまだ日本語訳されていない児童書を2冊いれました。王さまと王さまが愛し合う話とか、トランスヴェスタイト(服装倒錯)をからめた子どもの話とか、とってつけたようなご都合主義の話です。王さまと王さまが愛し合う話は、思春期になってからBLで読めばいいのにとか思ってました。自分の意思で。

それはさておき、最後に読むものは昔ながらの童話にしようと決めていたこともあり、1回めは「人魚姫」を、2回めは「シンデレラ」を選びました。やっぱり、障害のある恋の過程が華やかにクローズアップされてるものって、年齢に関係なくドキドキすると思って。ただ、ハッピーエンドなところは意図的にカットしました。マスキングテープで途中のページを閉じたり (笑)。

人魚姫でいうと「天使とともに空に召されていきました」のところは読まずに、「海の泡になって消えていきました」で終わらせるとか。昨今は、結ばれたらハッピーとか、救われたらハッピーとされている節があります。結ばれてもそのあと恋が破局するかもしれないし、憎悪がつのって殺人事件にまで発展するかもしれない。ハッピーエンドの未来が常にハッピーとは限りません。重要なのは、恋する相手に対しての想いの深さや熱量を表現しているパートだと思うんですよ。そこから思いやりや希望を学べばいいのであって、何でもかんでも波風の立たないように改ざんする風潮は間違っていると思います。人魚姫が泡になることによって、涙には苦さもあるんだよということを学んでいくのですから。

塚村 それはいいわ。「人魚姫」は、あまりにも最後が宗教的です。

シモーヌ どこを読んでどこをカットするかは、読み手のクイーンと事前に相談しました。

塚村 シモーヌさんが読んだのではなくて?

シモーヌ 私はこの企画とは関係ありませんみたいな顔をして、しれっと歌を歌っていただけです。1回めの読み手はベイビー・ヴァギー、2回めの読み手はブブでした。「ライヴとショーと読み聞かせ」をセットでやったのはおそらく世界初で、それについてはちょっと自慢できるかも。子どもの突き放し具合はひどいものでしたが……(笑)。

塚村 義務教育じゃないですからね。

シモーヌ 次にある時には、オリジナルの絵本とかが出来ればいいなと思っています。倫理観や道徳観がアウトなやつ (笑)。あ、ちなみに「シンデレラ」は宇野亜喜良版を使いました。退廃を肌で感じてもらおうと思って。

ポルノグラフィーにはすごく思い入れがある

——シモーヌさんが関わった社会活動ってそのくらいなのかな?

シモーヌ 90年代から現在まで、私の周りには風俗に関係する人たちが絶えずいて、友達や大学の先生、コミュニティの代表者から依頼があって、イベントやフリーマガジンのお手伝いやサポートをしていました。去年の秋に「SLUT WALK/あばずれ上等‼︎デモ」という女性やセックスワーカーをフューチャーした関西初のデモがあり、そこが出しているペーパーにコラムを寄贈したりとか。

——シモーヌさんは以前、ポリティカルなものとは距離をとりたいって言ってましたよね。

シモーヌ 「DIAMONDS ARE FOREVER」はエンタテインメントに属するパーティーなので、声高にメッセージを掲げることはしていません。エンタテインメントがポリティカルなものと結び付くこと自体に反対はしませんが、ダイアモンドは私ひとりのモノじゃないので。全員の意見が一致して同じ方向を向くって、なかなかないんですよね。くわえて、ポリティカルなものって流行り廃りが激しくって。ちょっと前に水をかぶるパフォーマンスがあったじゃないですか。あれはアゲインストの人たちがやっていたので続けなくてもいいんですが、アプローチも大事だけど、それと同じくらい回収も大事だと思うんですよね。

私に関しては、もともとが飽きっぽい性格でもあり、多方面に手を出すと収拾がつかなくなることは明らかなので。それに、アクティヴィストって弱者救済が基盤というか根底にあると思うんです。私は賛同してくれる人と手を繋ぎたいというのがあって、それが弱者の場合は問題ないんですが、強者と手を繋いでしまう可能性だってあるわけです。それは避けたいし、向き不向きでいうと向いてはいないんでしょう。唯一、ゲイに向けてのHIV/AIDSの予防啓発だけは、矢面に立たなくても陰であっても、たとえ期間があいても続けていこうとは思っています。

ポルノスターでパフォーマンスアーティストのアニー・スプリンクルが掲げた「プレジャー・アクティヴィズム」っていうひとつの行動主義があるんです。その言葉が使われなくなって久しいんですが、彼女が打ち出した概念と私の考え方は近いのかもしれません。プレジャーは快楽で、ダイアモンドもこの「プレジャー・アクティヴィズム」が基盤の一つかと私は思っています。

——LGBTQ+コミュニティにフェティッシュを含めるべき、って言ってたことがありますよね。

シモーヌ 昔からですが、ポルノグラフィーというものに思い入れがあるんです。日本は性教育が遅れていて、民族性もあるのでしょうが、昭和の初期あたりまでは猥褻(わいせつ)を上手に手のひらの上で転がせていたのに、ある時期からそうした風潮が疎まれるようになりました。そこには男性権威主義に対するフェミニズムの台頭の影響などもありますが、消さなければいけないものと残しておくべきものの選別をされなかったことが、一番大きな要因だと思います。ジェンダーやセクシュアリティを語るときも、猥褻は避けて通れないものだと思っています。

ゲイプライドもそうですが、人権だけがクローズアップされる昨今の風潮は、私の目にはバランスの悪い非常に不健康なものとして映ってしまうのです。セクシャルマイノリティをLGBTQ+コミュニティと名を変えたところで、本質的な問題はなんら変わらず、いつまでたっても対岸の火事のままなのは、性教育の脆弱さが招いた結果といえるのではないかと。そして、性教育が脆弱なのは、猥褻から目をそらしているからに他ならないというのが私の持論です。猥褻の中にはフェティシュも含まれるし、ポルノだって含まれます。フェティシュもポルノも品行方正ではないし優良なものでもないのでしょう。でも、どちらも不良なものではありません。表層的な無難主義の傾向が、フェティシュやポルノの行く手をさえぎってるんですよね。

絵本の読み聞かせもドラァグクイーンがあるなら、ストリップやSMショーと絵本の読み聞かせがあっていいのにとも思います。もし私が子どもで、そんなイベントを体験できたとしたら、一生の宝物にすると思うんですけどね。

——でも、日本はすごいポルノ大国ですよね?

シモーヌ いや、ポルノではなくAV (アダルトビデオ)大国ですね。

——AVもポルノの一種なのでは?

シモーヌ いやいや違う違う、ノンノンノン。AVとポルノは違います。AVは個人の性欲の欲求をその場で処理するための道具であり、ポルノは時代を超えて、人間にとってエロティシズムとは何かや、社会とエロティシズムの関係から見えてくるものを考察できる、アカデミックな装置なのです。さらにいえば、猥褻の中でも純度の高い官能を大切にしているもの、それがポルノグラフィーです。

いま、ヨーロッパでは展覧会のポスターが物議を醸していたりするんですが、クリムトやバルテュスやシーレのポスターのトリミング問題というのがあって。要するに、裸を不快に思う人もいるパブリックの場、たとえば地下鉄の構内で展覧会の告知ポスターを貼る場合、トリミングするべきかどうかという……。まあ上記の三人はエロ画家なのでいやらしい絵であることに間違いはないんですが、視覚的レイプだとしてオリジナルの絵そのものを燃やしてしまえという人まで出てくる始末。それこそAVとポルノを混同している良い例だと思いますね。

——たとえば、いまスマホ開けたらエロサイトのバナーとかリンクばっかり出てきますね、見たくなくても。だから私は隠されているという感じがあまりしないんですけど。昔はわいせつなものを見たいと思ったら、ちょっと頑張らなければならなかった。今は向こうから出てくる……。

シモーヌ SNSの普及によって、質の低い猥褻なものが目に付きやすくなっただけだと思いますよ。質の高い猥褻なものは、手間も暇もお金もかけないとなかなか手に入りません。勝手に向こうから来てくれるわけじゃないですからね。私はポルノから多くのことを学びました。BL/やおいにしろ、ユーロトラッシュにしろ、フェティシュアートにしろ、そこで描かれている猥褻から、宇宙の真理とまではいかなくも、哲学や美学、男とは何か、女とは何か、なぜ性は多様なのか、時代とともに形を変えてゆくアブノーマルの変遷、それが語っているもの、その他いろいろなことを。

私自身のアイデンティファイ(私が私であることを確認する)の一役を担ってくれたことも確かです。ただ、ポルノ支援を宣言している人は少なくなりましたよね。ポルノ奨励みたいなアクティヴィズムの運動があれば、ぜひ実行委員として参加してみたいです。ポルノを奨励する人ってなんて言うんでしょうね? ポルニスト? ポルナー? (笑)。

※その6に続く(来週公開)

※その1はこちら 

※その2はこちら

※その3はこちら 

※その4はこちら

 

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