SHEIN

文・嶽本野ばら

アンクルージュなどを、誰も彼も同じに観える平均的なスタイルであるから量産型と定義するのなら、ミルクフェドこそ量産系——と思ってしまう。電車に乗れば車両に必ず一人はミルクフェドな女子がいるもの。でも違うらしい。やはり年をとった僕には、量産型や地雷型の定義が余りよく解りません。

しかし量産型、地雷型の人達がハマりまくるSHEINには僕もハマっていて、大阪・心斎橋に期間限定でオープンしたSHEINのポップアップ店には行ってしまいました。

チープながら(だから?)インスタ映えするSHEINPOPOSAKAの撮影用スポット

チープながら(だから?)インスタ映えする「SHEIN POP OSAKA」の撮影用スポット。SNEIN POPUP OSAKAは2023年1月27日までオープン。

SHEINは中国発信のネット通販オンリーのファストファッションで、今や日本のみならず世界に200を超えるプラットフォームを持つ。最大の魅力は立ち眩みを起こす程の激安価格。リストバンドやヘアアクセなんて100円以下。最近、流行りの付け襟も150円代から販売している。最近買ってヒットだったのは、163円で売られていた2個の弓の装飾ヘアクリップ——。クリップにリボンを付けただけのシンプルなものなので自分で作れなくもないのですが材料費と労力を考えると、買った方が早いと、つい……。これより大きめの赤は1個で120円。名称は蝶々結びデコレーションヘアクリップ。でも緑は118円で、蝶々結びデコレーションフレンチクリップ。そしてベージュならば、100円でソリッドボウデコレーションクリップらしい。ど、どう異なるのか教えてくれ、SHEIN!

SHEINのポップアップ店は大盛況で、入店3時間待ちもザラだとか。でもお店で何も買えないんです。いわば展示会場。欲しいものがあればQRコードを読み取って通販しろというシステム。店頭で売ると人件費が掛かるのでしょう。こういう形態も旧世代の人間には斬新に映ります。

SHEINPOPOOSAKAの撮影スポットで孤独に自撮り

SHEIN POPUP OSAKAの撮影スポットで孤独に自撮り

#SHEINPOPUPOSAKAとタグ付けし写真付きでSNSの自分のアカウントにあげ、スタッフに提示すれば、カウンターに置かれたガチャを回せる。ちょっとした小物が当たったりクーポンが付与されたりするのですが、一番嬉しいのは、ショッパーが貰えること。SHEINから送られてくる時は銀色の簡素なビニール袋、中にがさっと商品が詰め込まれている。SHEINのショッパーはレアなのです。使わず大事に取っておきましょうね。

余りに安いのでSHEINユーザーは大抵、送料を考え(2000円以上で無料)欲しいものを纏めて発注します。自分一人のお買い物が2000円に満たない場合は、お友達に「SHEINでいるものない?」と訊ね、送料無料の条件を満たす。生協のようですが、この一緒に購入を相談し合うことが楽しい。更に購入金額が上がると、伴い割引クーポンの適用が可能になったりもするので「後、100円買ったら300円オフだよ。追加しない方が損するよ」と計算しながらオーダーする。ハイブランドすらネットオーダーが主流になった今、僕は店舗に行って試着してあれこれ悩んでお買い物をするトキメキをどうにかして後世に受け継ぎたいと思っていました。MILKやジェーンマープルの本店に入ってその雰囲気にテンションが上がり、つい予算以上のお買い物をすることの精神的な贅沢さを絶やしてはならないと考えていました。

ガシャで当たったSIMONE ROCHAふうのイヤリングと、もれなく貰えるSHEINのショッパー

ガチャで当たったSIMONE ROCHAふうのイヤリングと、もれなく貰えるSHEINのショッパー

ネット販売が普及していなかった昔はね、地方にいると雑誌で観たお洋服を買う手段がない。サイズ感も解らない。だからSNSで仲良くなったファン同士で情報を交換し、地方組は関東に住んでいる人に現金書留を送って買って送って貰うようなことを、よくやっていたんです。僕もそういう非公式のジェーンマープル同好会に参加していた。まぁ、これはロリータの世界のみで行われていたことかもしれませんが……。

2021年、時流にそぐわず売り上げが低迷の一途を辿り、民事再生法を申請したサン宝石は、『りぼん』等の少女雑誌に広告を出す女のコの為の安値な雑貨を扱う通信販売の会社でした。送られてきたカタログをやはり送料の加減などから、友達同士で閲覧し共同購入するのが主流でした。

実際、手元に届いたものが写真のイメージと隔たりがあり、少女達は常にがっかりさせられるのでしたが、でもまたカタログが来ると注文してしまう。それはカタログを観ながら、これが可愛い、私はこれがいいと興奮しつつ選ぶ過程にこそ意義があったからに相違ありません。サン宝石の凋落は通販の方法や商品が時代のニーズに合わなくなったのでなく、仲良しな者同士でカタログを食い入るように眺め、共同購入する習慣が年少の女子の間で廃れてしまったことに主な原因があるのではないかと僕は思います。

ショップの雰囲気のみならず、ショップでお友達(或いは定員さん)に促されつい試着、誉められ購入という行為がなされる機会が減り、各自が孤独にスマホでお洋服をオーダーするが主流になった現在、 共同購入が当然のSHEINは、ポスト・サン宝石ではないでしょうか? ポップアップ店にはインスタ映えするコーナーがあちこちに設置されていて、皆、写真を撮り合っていた。僕は一人で行ったので自撮りするしかなく淋しい想いをしました。

お洋服は物欲を満たすに非ず心を満たすものでなければならないというのが僕の持論です。届いたものがチープだったが故の落胆も、共有すれば価値を持つ。百合ならば、82円のアルファベットラインストーンのネックレス、互いに相手のイニシャルのものを渡しあうのがオススメです。

(4/12/2022)