CUNE

文・嶽本野ばら

スキャパレリの回で――フロントに『焼肉』とか『凡人』とプリントされたTシャツは、面白いでしょうが一欠片の狂気も持たない――と書いたのは、CUNEへの非難ですか?という質問を受けたので記します。

CUNEは好きです。無論、ジーンズのパッチに『ジーンズ』とプリントしたり、フロントに『最中』だとか『野球』だとか謎な文言が入ったCUNEのお洋服を着ることはしませんが、常にチェックしています。着ないのはメゾンのアイコンとなっているウサギを特に可愛いと思わないからかもしれません。こう書くとまた悪口と解されるかもしれないですが、そもそもCUNEを1994年に創設したデザイナーの安田裕紀自身がこのウサギを可愛いと認識しているかどうかも疑問なので、CUNEのウサギを可愛いと判断しないことは不適切ではないでしょう。

CUNEのお洋服に用いられる脱力系のウイットは楽しい。僕が最も感銘を受けるのは、このメゾンが「ファッションではなくかろうじて服」とその衣料を定義する点です。そう、服には違いない。ファッションに於いては邪道であることを認識し、真剣にファッションと対峙する人に対し申し訳なさを感じているを表明しているは、お洋服に敬意をはらっている証でしょう。

スカート丈の動向に対する興味はない。モードがスパイスとして用いる(スキャパレリのフランスパンを模したバッグのような)ウイットと、 CUNEのウイットは、性質を異にするを安田裕紀は冷静に判断しているように思える。

適切なアウトプットの手段を選択していったならば、服といわざる得ないものになってしまったのが、CUNEのお洋服なのではないでしょうか。

CUNE 2016ssのカタログ。テーマは「生肉 in the Sky」。本カタログの中でモデルは全て、生肉を模したオブジェの上に立たされている(筆者所有)

CUNE 2016ssのカタログ。テーマは「生肉 in the Sky」。本カタログの中でモデルは全て、生肉を模したオブジェの上に立たされている(筆者所有)

僕達は観光地や展覧会に行くと、つい、スーべニールショップでポストカードを買います。大抵、絵葉書としては使わない。記念に置いておくか、壁に貼る。ならば景色や作品が印刷されたのと反対側は不要、切手を貼るスペースや罫線をおざなりに配するくらいなら、潔く、写真を売ればいいと思うのですが、もしそうされてしまうと、購買意欲が削がれます。苦しい言い訳で構わないので実用性を主張して欲しい。ポストカードはマシな方で、マグネットなんて必要ならダイソーで買うべき。でも図録や写真集ではなくマグネットに手が伸びてしまうのです。

この実用性があるという言い訳を、ロリータは誰よりもよくします。本当はそのプリントが可愛くて欲しい、デザインに夢中になっているだけなのですが、これは衣類、どの道、これを買わずとも衣類は必要になる、であるのなら、多少、着るのに不都合(ワンシーズンしか着られないとか、既にスカート部分にパニエ替わりのチュールがしこたま縫い付けてあるので座れないだとか)があるとて可愛いと思うものを買うのが正しいと、買う選択肢しかないよう自分に対し詭弁の上に詭弁を重ねつつ、高価なのに役立たずの変なお洋服ばっかり買うのです。それも毎シーズン、ほぼ同じものを! ロリ服も、かろうじて服――なのかもしれません。

CUNE BIG SHOPPING BAG BOOK 宝島社2021 ショッピングバッグが付録に付いたブランドムック本。雑誌より付録の豪華さで購買意欲を掻き立てる本末転倒な昨今の風潮を確信犯的に楽しんでいるようにも思える

CUNE BIG SHOPPING BAG BOOK 宝島社2021 ショッピングバッグが付録に付いたブランドムック本。雑誌より付録の豪華さで購買意欲を掻き立てる本末転倒な昨今の風潮を確信犯的に楽しんでいるようにも思える

よく誤解されるのですが、ロリータのフリルは目立ちたいから過剰になるのではありません。フリルへの欲望を一旦解放してしまうと、最初は一段でよかったものが二段、三段と重なり、付けられるあらゆる部分がフリルでないと気が済まなくなってしまうので、結果、派手になるだけです。本体のお洋服より装飾用のフリルに恍惚となっているので派手という感覚は麻痺します。ならば着脱可能、使い回せる、好きなだけ盛れるようフリルは進化してもいい筈なのですが、そこはマグネットが必要と思い込む心理と同様、欲しい衝動を正当化してしまっているので賢明にはなれません。誰がマグネットは一つでいいが絵柄は全部欲しい、なのでマグネット部分と外側の缶の部分が別売りになっていればいいのにと思うでしょう? 思えるならそもそもお土産ものやさんでマグネットは買いませんよね。

暑苦しい、ダサいなどの陰口も頻繁にいわれるロリータですが、洒脱なファッションでないことくらい、ロリータをする者は弁えています。ダサいとかお洒落という範疇に非ず、でもかろうじて服なので、ダサいを逃れられずともその制限の中で可能な限りエレガントを目指そうとする。が、エレガントの代償にフリルを一段減らすなら、ダサいは受容する覚悟。従って、笑われても構いはしないのですが、ゆめゆめ、笑わそうとしているとは思わないで欲しいです。

CUNEの場合は、「ジーパンと書いたジーパンを履いているのは、笑わそうとしてるんですよね?」訊かれても仕方ないと思います。ロリータは思いの外、自分が逸脱しているのを心得ているので、的確な指摘は否定しません。「可愛く観られたいのですか?」の質問にはちゃんと頷きます。そこに『焼肉』や『凡人』とプリントされたノーブランドのTシャツでファッションを斜に観る中途半端な自意識は介在しない。2016年、無茶苦茶な初音ミクコラボTシャツを出し、馬鹿にしているわけではなく、よく知らなかった――とオトボケをかましてくれたCUNEには次回、ユニクロとジョイントして欲しいですね。フロントに堂々、『ファストファッション』と入れて欲しいです。

(18/08/2022)