「六月から七月へ」

 

ずぼらな性分なので、花を摘むとは言っても、そう毎日せっせと摘んでくるわけではない。十一階に咲いていると心許ないだろうから、根ごと摘む。そして水を入れた壜に差して、放っておく。そんなやり方でも、ずいぶんもつものだとわかった。

どくだみは、十日ほどもった。日陰の湿ったようなところでも、かまわず群れるし、咲いた真ん中にもっさりと房があるのがだらしないし、名前もどくどくのだみだみ、濁音だらけで、いやらしい花だと思っていたけれど、一輪だけ差してやると、案外可憐に見える。

あんまりもつので調べてみたら、わたしが花びらだと思っていた白い部分は、「総苞」なのだそうだ。なかなか散らないと思っていたら、花ではなかったのか。ちなみに、あのもっさりした房の部分は花びらのない花なのだという。そういえば、家のそばのハナミズキが二階の高さまで来て、長いこと白かったのだけれど、あの白いのも「総苞」だときいたことがある。

花びらでない、とわかると、とたんに白のひらひらは、もっさりとは切り離された、別の器官に見えてくる。簡単にしおれることのない、紙の質感を帯びているような気がしてくる。

しばらく仕事で香港にいて、六月の半ばに帰ってきたらさすがにしょんぼりしていた。どくだみの季節は終わった。

それで、今度はヒメジョオンが一つだけ咲いてるのを摘んできた。ヒメジョオンは夏も秋も咲いてるから、あまり季節感がない。これまた根ごと摘んで差しておいたら、いっしょについてきたつぼみが次々と咲いて、二十日ほどもった。終わりごろはさすがに種になってきたのだが、なにしろ風のない室内だから、花のあったまわりにわさわさと固まっている。指先でひとつかみしたのをルーペで見ると、小さな種のひとつひとつから、十数本の毛がくもひとでの足のように放射状に伸びている。毛は実に細く、光を当てるときらきらするからかろうじてわかるけれど、肉眼ではほとんど見えない。つまり、この毛がからみあって、固まっているのだろう。試しにちょっと吹いてみたら、あいまいな色の床敷きの上にちりぢりに落ちて見えなくなってしまった。

そんなわけで、この部屋の床にはヒメジョオンの種が埋まっている。まさか生えてきたりはしないだろうけれど。

(7/16/19)