これはポスターというスタイルの西山美なコ嬢の作品。本物はピンクを基調に赤、黄、水色などのキツめの色で彩色されている。はて、作品?とは一体何の作品か?ポスター?とは一体何のポスターか?

西山美なコは漫画家ではない。現代美術の範疇にいる人で、これは現代美術の作品ということになる。また当然漫画展のポスターではなく、美術展のポスターで、展覧会のタイトルは「ときめきエリカのテレホンクラブ」という。しかし、ご覧のとおり、展覧会に来て下さいという呼びかけのポスターでもない。「ときめきエリカのテレホンクラブ」はいわゆる展覧会というよりは、プロジェクトといったもので、このポスターはそのプロジェクトのひとつの仕掛けとして組み込まれ、東京、大阪の人目につくところに貼られる。

 

ここに描かれているのは、エリカちゃんという、美なコ嬢が生み出したキャラクター。テレクラよろしく下の電話番号に電話すると、リカちゃん電話よろしくエリカちゃんが答えてくれる。展覧会場にあたるギャラリーは、この電話のための個室、つまり電話ごっこのできるエリカちゃんのお部屋となる。ピンクをキーワードに大人の男性世界と少女世界がごっちゃになっている。

彼女の作品をめぐるプロジェクトはざっと以上のようなことだが、作者本人はそのような遊びの仕掛けよりも、視覚というものに重点を置いて考えているという。では、今回の視覚の武器ともいうべきエリカちゃんとは一体どんなものなのだろう。

「私は〝和製の洋菓子〟といっているんですが、洋風を装っているバタークリームゴテゴテのケーキのようなもの、のひとつと考えてます。ピアノの上にあったフランス人形もそのひとつの例。フランスにはないでしょう。エリカちゃんもそんな〝日本独特の奇形〟として描いています。あるいは〝折衷文化のダイナミズム〟というか。日本の中で育ってきたものを見直しているんです」

エリカちゃんは、日本で少女的とされている典型のラインとパターンを抽出してつくられている。バックを飾るアケボノやサクラの図案も「よくパチンコ屋さんや右翼などが使っている」日本の強いモチーフだ。そして、エリカちゃんはピンクに囲まれている。

「2、3年前〝女の人が男の人を魅きつけるための装飾〟にひっかかって作品を作っている頃、宝塚で『ベルサイユのバラ』の再演を見て、またおもちゃの街、松屋町で、男の子用女の子用にはっきりと色わけされたパッケージを見て、そのあまりの過剰さがショッキングだったんです」そして女の子用の色彩が作品の中に入ってくることとなった。

日本の奇形の装飾から成るエリカちゃんは何も語ってはくれない。ほんとは何と言ってるのか、はたまた何も言うことがないのか、その無言のパクパクをも、美なコ嬢はわざわざ吹き出しの飾りケイで装飾してしまう。

テレクラのカードが電話BOXに貼られている状態に視覚的暴力を感じたという彼女。果たしてエリカちゃんは、視覚的暴力あふれる街なかで、どれだけの人の視覚を奪ってみせることができるだろうか。

 

西山美なコ プロフイール
1965 兵庫県生まれ
1989 京都市立芸術大学油画科卒業
1991 京都市立芸術大学大学院彫刻専攻修了

1988 個展「にしやまみなこのための…」アートスペース虹(京都)
1989 個展「ようこそあなたの そしてあなたが…」 信濃橋画廊(大阪)
1991 大学院修了制作・京都市長賞,
京都市立美術館(京都)
京の祭典・美術系大学選抜展,
京都市立美術館(京都)
個展、ギャラリー16(京都)
1992 二人展、ギャラリーCOCO(京都)

 

(取材・文:塚村真美)

(「花形文化通信」NO.43/1992年12月1日/繁昌花形本舗株式会社 発行)