東京に大雪が降った翌日。冷たいけれどよく晴れた昼下がりのこと。CONTITIのチチ松村と沼田元氣のご両人は揃ってインタビューに臨んだ。仲がいいんだかどうだか、気が合うんだかどうだかインタビュアーは松村氏。ソロアルバム『ふなのような女』を出し、本『それゆけ茶人』に続き、『私はクラゲになりたい』が出版されたところ。パラオのクラゲがチャプチャプ泳ぐ湖につかるチチ松村を撮影したのが沼田元氣。ここのところ元気がなかった沼田氏も今年は元気をとりもどしたみたい。松村氏のソロライブにも沼田氏はゲストで出演するという。

――お土産みたいなものって、いつから集めだしたの。

沼田 小さい頃から。生まれた時からかな、集める癖があるのは。大人になるにつれて卒業しようと写真を始めた。小さい頃に気づいたんだけど、お金出して買うものは、お金持ちがえらいという価値観になってしまうなと。だからお金を出しても買えないもので、自分がいいと思うものを集めたいと。知らなかったんだけど、父がこけしのコレクターだったんよ。500本も持ってた。縁の下とかにいっぱい眠ってた。

――いつ見つかったの。

沼田 死んでから。3年くらい前かな。それもカタログじゃなく産地へ行って、作家とコミュニケーションして買うんよ。最初はバラをつくってて、次に椿。最期の方は入院してたけど、看護婦さんに言ってたって、「うちに椿が待ってる」って。で、看護婦さんが「どんなのがあるの」って聞くと、指を3本立てたんだって。300種類もあったんよ。

――お父さんゆずりやな。

沼田 ところが、親父はそのまた親父が道楽で、家をつぶすような感じを見て育ったから、それはしまいとブレーキをかけて、こけし500本。

――そうそう、沼田さんってよく夢を見るんですよ。ほらあの夢の話聞かせてよ。

沼田 僕は本が好きでね、古本市とかで月に30~50冊くらい買うんですよ。ハズレてもね、こんな本をつくってたのかーって、それが楽しい。夢の中でね、僕が本を読んでると本当の自分に出会うんです。本を見てる自分は嘘だってわかってくる。で、「ちょっとちょっと」と声をかけて「君は誰?」と聞くと僕だっていう。不思議な事があるなあと思って読み進んでいくと、次元を異にした自分が何人もいることがわかる。話をしてると、「宇宙には偶数の宇宙と奇数の宇宙があって、僕は4次元にいる」っていう。3次元と4次元は隣同士だけど行きにくい。でも2次元と4次元は同じグループだから、平面つまり写真とか絵をつくる人は、4次元ヘの扉がいつも開かれているらしいの。でも入る人と入らない人がいるっていうわけ。で「お前はどっちだ」って。1センチ四方くらいの穴があいててね、指を入れたらズーッと吸い込まれていくの。でもこれは入れないと思って急いで指を抜くと、指が手のひら側にひゅーっと伸びてDNAのらせん状になってる。「そうかお前のせいで」と指を差すと自分に向くんです。あー、こんなになってたんだ、ハハハハハ…って自分の笑い声で目がさめた。

――去年おととし、沼田さんはひとところにたまってて、いつもスッキリしなかった。もうちょっと突破口を開かないとイカンと思ってた。

沼田 言ってくれたらいいのに。

――言うたよ、何度も。

沼田 聞いてもわからないんだよね。でもね、わかったよ。それもね実はチチさんのおかげ。

――えっ。

沼田 パラオに旅行中、うちの屋根が飛んでね。家に帰ったらポッカリ天井がなくて、水びたしで大変だったんだけど、星が見えてた。その屋根をふさぐお金を稼ぐために仕事しようってのもひとつあるけど、神様が屋根をパアーっとはずしてくれたんじゃないかなって。いつも頭 を開けとけって。一部天窓にしたらね、いつもそこだけ光が射してるんですよ。

――違うところを照らせってことやね。

沼田 年頭にいろんな啓示があって、正岡子規のテレビドラマでも、なんで自分はこんな生活やってるのか、それは本当の自分に出会うためだってことに38才か40才に気がつくんですよねっ人それぞれみんな違うだろうけど、そういう時期にみんなそういう風に思うんだ。

――とりあえず沼田さんはやる気なんです。「いこい写真帖」も出すんでしょ。

沼田 ひとりでいこってばかりいたらいけないと気がついた。「いこい写真帖」ってのは物とか風景とかそういうものしか撮らないんです。人の匂いとか気配は撮ってもね。だから今度は人間のいこい写真帖にしようと、それで「ほがらか写真帖」を始めるの。あとベンチャービジネスとして「冥土商会」を。冥土の土産に持ってってもらうものとして、いこいバッチとかいこいのループタイを老人ホームに訪問販売する。これからのターゲットは老人と子供ですよ。来来には希望はないけど瞳れはあるから。老人も過去に向きがちでしょ。子供にも種をまいとけば将来花開くってこともあるしね。

(構成:塚村真美)

「花形文化通信」NO.58/1994年3月1日/繁昌花形本舗株式会社 発行)