神奈川県逗子市のテルミンミュージアムを訪問し、主宰のテルミン奏者・大西ようこさんに、ミュージアムを開いた経緯や、YouTube 配信『RCA テルミンの夕べ』などについてお話を伺いました。 世界でも類を見ないであろう、貴重なテルミンコレクションに囲まれた至福のひとときを堪能しました。(児嶋佐織)

大西ようこさん(2022 年 10 月、テルミンミュージアム)※撮影に際しテルミンの配置を一時的に変更しました
——テルミンミュージアム、噂には伺ってましたがほんとに圧巻のコレクションです!ようこさんが最初に手に入れたテルミンは何だったんですか?
大西ようこ(以下、大西) イーサウェーブです。
——イーサウェーブは世界でもっともユーザーが多いと思われるモデルですね。アメリカのシンセサイザーメーカーmoog 社の創業者、ロバート・モーグ氏が制作したテルミンで、1995 年から2021 年まで販売されました(2022年アップデート)。ようこさんがテルミンを始めたきっかけはどんなことだったんでしょう。
大西 2001 年にテルミン博士の映画がブームになりましたよね。
——『Theremin: An Electronic Odyssey』ですね。制作は1993 年で、日本公開が 2001 年でした。
大西 そのころ NHK カルチャーセンターに教室ができて、「こういうのは一 過性のブームだろうから、体験しておこうかな」と思って。 「触らないで音が出るらしいよ」という情報だけで、どういう音が出るのかとか、何も知らずにオープンスクールに申し込み……、そのまま今に至る、みたいな(笑)
——「出会ってしまった!」って感じだったんですね。
大西 そう、テルミンの演奏もですが、講師のやの雪先生のキャラクターにはまって(笑)。 で、東京中野にある楽器店 F-SUGAR さんでイーサウェーブを購入しまし た。
——テルミンを始める前から、楽器は演奏されてたんですよね?
大西 子どもの頃のピアノのお稽古くらい……あと篠笛もちょっとやってましたが、そんな本格的にやるという感じでもなく。
——イーサウェーブを購入してから、いろんなテルミンを集めることになるきっかけは何かあったんですか?
大西 見ると買っちゃうっていうのもあるんですけど……。コレクションしたいというよりは、集まってきちゃうという 感じです(笑)。それで、近所のアパートを楽器置き場にしていたんですが、2019 年、うちに RCA テルミンがやってくることになって。
——RCA テルミンは、テルミン博士本人がプロデュースしたテルミンですね。
大西 1929 年から1930年、アメリカのRCA 社から500 台販売されて、現存するのは百数十台といわれます。ということは、90年も前から、誰かがずっと大事にしてきたから、今ここにあるわけで。だったら「これからも大事にしてあげたいなあ」と思って、なんとなくミュージアムをつくっちゃいました。
——なんとなく(笑)。RCA テルミンはどういう経緯でようこさんのところに来ることになったんですか?

RCA テルミンと(向かって右)と106 スピーカー(左)
大西 フランス在住の生方さん(作曲家・シンセサイザー奏者 Nori Ubukata )の紹介です。フランスから楽器が来たときは、満足に音が鳴るとは言い難い状態で。
それで、愛知県のテルミンハウス mb-labo の、テルミン作家の西川克巳さんにメンテナンスをお願いしました。コンデンサの容量抜けとか、断線しかかってるところとか……。 一番問題だったのは、真空管ソケットの接触と真空管そのものでした。この RCA テルミンを西川さんのところで修復しながら、音が出ました、音域もちゃんと取れるようになりました、というのを積み重ねていくうちに、なんだか、テルミン博士がテルミンを作っている過程、まだ“楽器のテルミン”になる前からの当時を追体験しているような、不思議な感覚になりました。

RCA テルミンの内部。大きなコイルと真空管が並ぶ
——ここテルミンミュージアムには、最初期の RCA テルミンから最新のイーサウェーブまで、ほんとにいろ んなテルミンが集合していますね。 それにしても、イーサウェーブの後継機種が出たのは驚いたし、ありがたいですね。
大西 はい、正直、moog 社にとってテルミン事業は、単に創業者のロバート・モーグ氏がテルミンに思い入れがあるからやっていただけなのでは?とも思っていたので、モーグ氏が亡くなったあとも、100 周年モデルの clalavox だけでなく、イーサウェーブの次世代が出るなんて!
——ようこさんが演奏に使われている楽器もここに一緒に並んでいますよね。最初のイーサウェーブから、どういう流れで楽器を変えておられますか?
大西 購入した順番で変わっていますね。イーサウェーブ、イーサウェーブ自作キット、イーサウェーブ pro、BIG BRIER series91 という感じです。
——その合間に、e-winds とか B-3 とか、wavefront とか……テルミンにちょっと詳しい人なら誰もが驚くコレク ションです。ロバート・モーグ氏のサイン入りのイーサウェーブも!

照明器具(左手前)の隣の縦型テルミンが、テルミン 100 周年モデルの clalavox。カメラを挟んで奥から時計回りにwavefront、BIG BRIER series91、theresyn(床置き)、e-winds(右奥)

左端はオーストラリアから来た詳細のわからないテルミン。スタンドを挟んで右の2台はようこさんが最初に購入したイーサウェーブ(うち1台はキット制作)、奥(黒)は西川克巳さん作のテルミン、その右手前が最新のイーサウェーブ、縦型がetherwave pro。左手前にロバート・モーグ氏サイン入りのイーサウェーブ

イーサウェーブの産みの親、ロバート・モーグ氏のサイン入りモデル
大西 モーグ氏サイン入りは、中古買取・販売の「ハードオフ」から来たんですよ(笑)。B-3 は音もいいし、弾きやすいです。DAN BARNS さんという方が作られてるんですが、現行で生産されていて、 今も手に入りますよ。(soundslikeburns.com)

B-3 テルミン。アメリカの DAN BURNS 氏が製造・販売。 ピッチアンテナが短くできるロッドアンテナなので、持ち運びも簡単
——そのほか、これはテルミンなの?ってルックスのものや、小さいおもちゃみたいなテルミンもありますね。

地球儀テルミンは愛知県のテルミン作家、西川克巳さん作。右奥には「明和電機」のオタマトーン(白)、クレーンゲームの景品テルミン、学研『大人の科学』のテルミン(赤)
大西 この地球儀はもともとワインラックなんですが、西川さんに中にテルミンの回路を入れてもらって。
——中が空いてたら何でもテルミン入れちゃう(笑)。
大西 ほかにこういうものも。これはB-3 テルミンを丸ごとアクリルの半球に入れて、中にハワイのレイだとか綿だとか、いろんな飾りを入れています(笑)。
——入れ替えもできるんですね!
大西 ほかにはクレーンゲームの景品だったテルミンもありますよ。クレーンゲームに入ってるってびっくりですよね。需要があったのか?
——(笑)一時的にあったのかも。さて、このあたりでだいたい一回りしましたね。ところでテルミンミュージアムでは、演奏の配信も行っていますね?
大西 ええ『RCA テルミンの夕べ』ですね。ミュージアムをつくるきっかけとなったRCA テルミンなんですが、せっかく鳴るようになった ら、たまには通電して演奏しないと動態保存ができない、というので、月イチで演奏する『RCA テルミンの夕べ』という企画をやろうと思ったんですね。でも、この子(RCA テルミン)だけではそんなに間がもたないし、毎回ゲストをお呼びして、ここテルミンミュージアムから配信しようということになったんです。

RCA テルミンと大西ようこさん
——企画当初のゲストの方は、ちゃんとカラオケを用意して数曲演奏、というスタイルでしたが、だんだんみなさん自由になってますよね(笑)
大西 そう。でも自由でいいんです。いろんなテルミンの使い方を教えてほしいし、即興とか曲じゃないとか(笑)、そういうのこそやってほしいんです。
——なるほど。毎回、そんないろんな演奏を、ようこさんは一番特等席で聴いてらっしゃる、ということですね。
大西 はい。「テルミンは新しい楽器なんだから、既存の楽器の模倣をするより新しいことをやったほうがいい」って、 ジョン・ケージも書いてましたし。いろんな表現を聴きたいですよね。
——『RCA テルミンの夕べ』も回を重ねて、配信もどんどんグレードアップしてますし、ミュージアムとはいえ、とても個人のお宅から、しかもご夫婦でやっておられるとは思えません。これからも楽しみにしています!
テルミンミュージアムの公開は予約制
お問い合わせは大西ようこさんの HP「キャベツのお城」のメールアドレスまで
ミュージアムのコレクションについて(詳しい解説はこちら)
『RCA テルミンの夕べ』は毎月第4土曜日YouTubeより配信
アーカイブはこちらhttps://www.youtube.com/@thereminy/streams