いかつい顔の男じゃよ。有名観客にしてイベント主催者……
しかしてその実体は、筋金入りのベアーズ・サポーター!
(監修:山本精一/取材・構成:石原基久)

▲がんせき。言い得て妙。

 

──ベアーズを知るきっかけは?

竹内 確か88年頃、山本(精一)さんがアメリカ村のキングコングに「ライヴハウスやります」というチラシを貼ってた。「Creemって名前でやります」と。山本さんには「頭文字〈C〉がええ」という持論があって。店に行ったら「Bears」だった(笑)。山本さん自らがこの連載でも話してるとおり、オーナーは別の人で、山本さんが任されることになったけど、名前は変えたかったみたい。けど、店名変えるのは手続きがややこしかったらしくて、結局ベアーズのまま、いまに至ってる。

──名前のことはいろんな人に相談してたんちゃうかな。当時、林(直人)さんが、ポテキ(ポテトキッド)、エッグプラント、バナナホール、オレンジルームを引き合いに出して「野菜や果物の名前をつけたスペースは長続きする。そして、多くの人に愛される」みたいなことを言ってたのが記憶にある。その場には山本さんもいたような気がするなぁ。ベアーズに初めて行ったのは?

竹内 何かは憶えてない。88年2月、わたしはわたしで『太陽の証し』(バートンホール)ってイベントを主催してて。その頃はエッグプランドもあったし。やる前はチラシ撒き、やった後も何だかんだで、いろんなライヴに顔を出してたから、おそらく88年の想い出波止場、花電車あたりのどれかやと思う。

▲竹内1988年時点での集大成的イベント。チラシ・デザインは砂場(濱田マリvo)としての活動でも知られた白旗工房。

──山本さんと知り合ったのは?

竹内 エッグプラント。顔はよく知ってたけど、話したことはなかった。それが……山本さんが林さんとエッグでイベント『Walk on Wild West』(88年8月27-29日)をやった時、バンドとのいろんな調整、宣伝……なんやかんやのプレッシャーで精神的にまいったみたいで、「竹内くん、よぉこんなことやってるなぁ」って山本さんの方から話しかけてきた。それからちょくちょく話すようになる。

──ベアーズで企画を始めるのは?

竹内 アルタード・ステイツ、チルドレンクーデター、モダンチョキチョキズの3組でやった『ボーダレス・ミュージック』(91年4月6日)が最初。この時、一緒にやったのがきっかけで芳垣(安洋)さんがモダチョキに誘われる。その前のドラムってヨウちゃん(楯川陽二郎)やったっけ。モダチョキはそろそろメジャー(キューン・ソニー)からデビューするって時期になってたから、フルタイムで動けるメンバーに一新する必要があったんやろうね。当時、ヨウちゃん、まだ会社員やったから。この後、アルタードにもう1バンド入れて2マンで何回かやる。

▲竹内のベアーズ初企画「ボーダレスミュージック」チラシ。 提供:加藤デビッド・ホプキンズ

▲1989年11月4日のモダンチョキチョキズ。voは自転車の友のミツヤマ、dsは花電車のヨウちゃんだ。

──アルタードに大野雅彦くんが加わるみたいなのもあったよね。

竹内 アルタードとベアーズ界隈の腕利きミュージシャンがセッションするという企画で、大野くんのほかに、津山篤、磯田オサム、細井尚登、本地陽子なんかが入れ替わり参加した。内橋×大野のギター・バトルは、大野くんがマーシャル(アンプ)を使ってたもんやから音量で圧倒されたみたいで。ウッちゃん(内橋)、すぐマーシャルを買いに行きましたね(笑)。アルタードの内橋・芳垣は、ジャズ方面でやってることが多かったんで、「他にもヘンな人たちはいっぱいいてるで」ってベアーズでやり始めたんですね。そのあたりのスケジュール帳やチラシなんかも置いてたんやけど、1995年の阪神・淡路大震災で住んでたマンションも実家(どちらも神戸市灘区)も被災して。倒壊こそせぇへんかったけど、全壊してしもて。それを機に全部失くなったと思ったらええことやからと……以降、取っておくのはやめにした。震災以降いろいろあって、勤めてた会社を辞めたり。そうこうしてる間に体調崩して、99年の終わりから2003年くらいまで…ほとんどライヴに行けなかった。また企画をやりだすには、それからもかなり間があく。

▲G-SCOPE 14号(1996年4 月発行)に掲載された竹内インタビュー。こちらも併せて読んでね。

で、10何年かぶりにやったのが2017年12月、北海道のシンガーソングライター、曽我部瑚夏さんを呼んでやった『明日の夜の夢』。いいイベントにはなったと思うけど、お客さんは思ったほど入らなかった。

▲久々の企画「明日の夜の夢」は若手女性シンガーソングライターが勢揃い!

──時代も変わりましたね。

竹内 チラシをもらっても、どのバンドも知らんとか(笑)。でも、わたしが行ってるようなライヴに関しては基本変わってない。入る人数に関しても……。

──ずっと観てるバンド、アーティストってある?

竹内 山本(精一)、津山(篤)……あとは須原(敬三)くん関係やけど、須原くんのやってる全部のバンドを観てるわけではない。ギャルバンもよく観てたけど、いまも続けてる人は少ないし。

──ベアーズの魅力って何?

竹内 単純に好みのバンドが多い。ベアーズに出てるような人たちが他の店で知らんバンドとやるとなると、ネットで調べて行く行かへんを決めたりすることもあるけど。ベアーズやと調べない。中にはもちろんおもろないバンドもあったりするけど、安心して観に行ける。昔からの信頼いうか……それは大きい。簡単に言うと、ヘンな人たち、アヴァンギャルドな人たち、ひねくれた人たちがいるのがベアーズ。

──去年11月には神戸の旧グッゲンハイム邸で、15日に山本精一と曽我部瑚夏、翌16日に中川敬弾き語りのイベントをやってたね。

竹内 わたしの場合、ベアーズ、ビッグアップル、旧グッゲンハイム邸ぐらいの中で企画を考える。どこでやるかは企画次第。神戸でやる時は地元愛もあるかな。ベアーズは言うたらアレやけど、チャージバックが悪い。若い時はおもしろいライヴできたらそれでええってやってきたけど、わたしもええトシのおっさんなんで、それなりに出演者にはギャラを払いたい。音楽メインでメシ食ってる人も多いんで、主催者としては気ぃ遣いますよ(笑)。小言いうてしもたけど、ヘンな人たちを受け入れるハコがあるってのは素晴らしいことやと思う。

ほかの店じゃほとんどやってない人も多い。ヘラバラウンジとかハードレイン……ほかにゼロゲージとかもあるけど、いわゆる「ジャパノイズ」のイベントを問題なくできるいうたら、やっぱりベアーズくらいやし。1年ほど前、F.M.N.の石橋(正二郎)さんがノイズのイベントのあと、「ベアーズで観ると、ノイズはロックや」と言ってたのが記憶にある。強く同感する。ベアーズでやってるノイズと他でやってるノイズは違う。

昔、非常階段やハナタラシのライヴに行くといったら、観る方にも覚悟が要った。ノイズって大音響のカタルシスかつ肉体表現やとライヴで観る分には思うんやね。インキャパシタンツの美川(俊治)さん、小堺(文雄)さんなんて発信機のツマミをいじってるだけやのに汗だくになって大絶叫でしょ。あの熱量が観てるこっちにも伝わってくるんですよ。クールにノイズを出してるのはノイズやない!

──最後に、つきあいの長い山本精一、内橋和久という二人のギタリストにしてオーガナイザーを比較してもらえますか?

竹内 山本精一は、底なしの玉手箱。ギターや歌にとどまらず、絵や文章ほかの音楽以外のことでもクオリティが高い。内橋和久は、空間に彩りと奥行きを与える魔術師。演奏で共演者を刺激することにも長けている。……そんなとこで勘弁してください。

(3月20日、兵庫県内で取材)

*メモ

  • キングコング:大阪アメリカ村に1979年からある中古レコード店。88年時点の店舗は大阪戎橋郵便局の北隣のビルにあった。
  • バートンホール:兵庫県西宮市、阪急夙川駅前にある貸しホール。
  • ポテトキッド:大阪・梅田に1978年からあるダイニング・バー。「ポテキ」の愛称で親しまれる。客に業界人も多い。
  • バナナホール:大阪・梅田にあったライヴハウス、1981~2007年。2017年かつてのレインドッグス跡に復活オープン。
  • オレンジルーム:大阪・梅田阪急ファイブ(いまのHEP FIVE)にあった多目的ホール、1979~94年。80年代前半、劇団そとばこまち、劇団☆新感線らが公演を行い関西小劇場界の台風の目となった。
  • Walk on Wild West:エッグプラントを会場に1988年夏の終わりを飾ったイベント。出演バンドは、8月27日;C.C.LIER、ブービートラップ、OXZ、KGGM、バンパイア、レニングラードブルースマシン/28日;UFO OR DIE、へディク、ガラス玉、アウシュヴィッツ、黒色エレジー、花電車/29日;マニッシュトーン、ササラマキヲ、想い出波止場、フォークテールズ、ゴングダービー、イディオットオクロック。山本精一・林直人共催。この時の模様はV.A.『WEST PSYCEDEDIA 2~Walk on Wild West』(アルケミー)で聴くことができる。
  • アルタード・ステイツ:内橋和久(g)、芳垣安洋(ds)、ナスノミツル(b)で1989年結成されたインプロヴィゼーション・トリオ。
  • 楯川陽二郎(ds):花電車、グラインドオーケストラほかを経て、現在は、ボアダムス、ゑでぃまぁこんで活躍。ボアダムスでの呼称はYO2RO。
  • 磯田オサム(g):タマス&ポチス、THE 神 SUN、チルドレンクーデター、モダンチョキチョキズほかで活躍。
  • 本地陽子(violin):A Decade IN-FAKEほかを経て上京。フィッシュマンズ、UAなどのサポートで頭角を現す。HONZIの名前でソロ活動も。2007年逝去。
  • ビッグアップル:神戸・三宮に1989年からあるジャズ系ライヴハウス。
  • 旧グッゲンハイム邸:神戸・塩屋に1909年建てられた海が見える洋館。2008年から森本アリ(三田村管打団?)管理運営のもと、多彩なイベントが行われている。
  • ヘラバラウンジ:神戸・三宮に2005年からあるライヴハウス。
  • ハードレイン:大阪・梅田に1999年からあるライヴハウス。
  • ゼロゲージ:阿木譲によって大阪・南堀江に2015年オープンしたクラブenvironment 0g(zero-gauge)。
  • 中川敬(vo,g):ニューエスト・モデルを経てソウルフラワーユニオンほかで活躍。近年、ソロ活動も精力的にやっている。
  • 石橋正二郎:『関西NO WAVEツアー』(1979年)以来の関西シーンの目撃者にして伴走者。F.M.N. SOUND FACTORY主宰。
  • インキャパシタンツ:非常階段のメンバー、T美川のソロ・プロジェクト。

 

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