バスキアのiphoneケースなのにオフホワイトだからヤンキーっぽくないですか?

文・嶽本野ばら

ジェフ・クーンズ×LOUIS VUITTON 2017年 京都服飾文化研究財団所蔵、畠山崇撮影

 

前回、ルイ・ヴィトンの悪口をかなり書いたのですが、憎い訳ではない。敬愛していますよ。もしも世界一周旅行を船でするならば、ヴィトンのクローゼットトランクに着るものを詰めて持っていきたいですよ(無論、運ぶのは召使いの役目である)。LVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン)から依頼されて原稿を書いたこともありますよ。

でもねぇ、どうも1997——つまりモノグラムヴェルニとかモードなものを発表し出してからのエディトリアルが好きになれない。村上隆とのコラボバッグなんてはっきりいって、ダサい。有り体にいうと、方向転換してからのヴィトンの就任デザイナーのテイストが僕は好きではない。97年からのマーク・ジェイコブス、ニコラ・ジェスキエール、キム・ジョーンズ、2018年からのヴァージル・アブロー。ヤンキー好みな服を作る人ばっかなんですよ。特にヴァージルなんかね、オフホワイトっていうエグザイルが着ていそうなブランドの人(バスキアの作品を使ったパーカーとかiPhoneケースを出したけど、2018年のコムデギャルソンのそれと比べるとスゴくエグザイル)だし……

ルイ・ヴィトンが現在のように服飾業界のみならず様々な会社を買収、統合し巨大企業になるきっかけは80年代にあります。世界にシェアが広がったけれど、そもそもルイ・ヴィトンの一番の売りは、頑丈。ですから需要のマックスがある筈だった。トランクやボストンバッグなんて、壊れなきゃ滅多に買い換えない。

そこで四代目(ヴィトンは家族経営)のアンリ・ルイ・ヴィトンは、日本人に売ればいいと考えた。70年代、パリ旅行に来る日本人は何処の観光客よりもヴィトンのバッグを買った。現地で買えば安いので皆、そうしたのですがどうみても庶民に違いない日本人があっさり買っていく光景を観て、アンリがうちの鞄がものスゴくツボらしいと解釈してしまっても仕方がない。調べてみるとフランス以外で売れてる国がやはり断トツで日本だったので、77年に経営を外部の人間、アンリ・ラカミエに任せ、よーし、日本に店出そうとなったのです。

1981年、銀座に初の直営店をオープン。日本はバブルへの階段を駆け上がっている時期だから、バカ売れ。ラカミエはそもそも鉄鋼会社の社長だったので更に手腕をふるう。87年にモエ・ヘネシー社と合併し、LVMHとして企業地盤を強固にしていく。

公表はなされてませんが、ルイ・ヴィトンの鞄の売り上げの4割から5割が日本でのものだともいわれます。ラカミエが経営に携わる以前のヴィトンは、パリ万博に出展という成功をおさめながらも、作る人も売る人も経営する人も同じなこじんまりした商いだった。つまり、今のようにディオールもジバンシーも、ゲランもブルガリも乗っ取ってしまう帝国主義的なブランドになったのは、日本人が買い過ぎたからなんですよ。ラカミエは悪くない。彼は経営者として自身の仕事を全うしただけなのですから。

僕たちはよく、中国から買い物ツアーに来ている人たちを小馬鹿にしますよね。ちょっと金回りがよくなったからと家電や化粧品を買い占めて帰る彼等を、田舎の成金のような眼で見ますよね。だけど、ちょっと前までそれは僕ら、日本人がやっていたんです。バブルの絶頂期にはブランド物を買うためだけに弾丸ツアーでパリに行くOLたちがいた。クラブの女の子に配るために香水やらアクセサリーを買えるだけ買って帰る不動産屋のおっさんたちがいた。当時、シャンゼリゼ通りでは、あー、また日本人がきたぞーと姿を認めるとシャッターを閉めるブティックもあったくらいです。でも僕ら日本人は、爆買いを批判しつつ、店の中に中国語での説明書きを貼りまくる。爆買いするほう、爆売りするほう、どちらがゲスかといえば後者でしょうよ。矜持の欠片すら見当たりません。

そういえば80年代に、面白い経験をしたことがあります。いつもならがら空きの電車に乗っていると、急に大勢のワンレングスのお姉さんたちがなだれこんできて、満員になった。全員、ヴィトンのショルダーを持っている。ヴィトンの集会でもあったのか? 後で調べるとその日は最寄りの球場で、マドンナの来日コンサートがあったのでした。観客が皆、ヴィトンを持ってるマドンナのコンサートなんて日本だけだったでしょう。

僕も一つだけヴィトンを所有している。モノグラムのシステム手帳。上にシールを貼りまくるためにわざわざ銀座の路面店で買った。かつてジョニー・ロットンが着ているTシャツに I hate Led Zeppelin と書いたようなものですよ。ジョニー・ロットンは本当にツェッペリンが嫌いだった訳じゃない。それに代表される商業化されたロックへの反抗だった。ただ、腹立たしいのはたかがシステム手帳でもいい革と加工なものだから、シールがすぐに剥がれてくるのですよね。ボンドで固定するのも違う気がしますしね。

(5/30/19)

 

「ドレス・コード?—着る人たちのゲーム」展
京都国立近代美術館:2019年8月9日(金)-10月14日(月・祝)
熊本市現代美術館:2019年12月8日(日)-2020年2月23日(日)

 

詳しくは展覧会の特設サイトで。