齢35にして死ぬはずだったアル中男。
後の人生、もう恐いものはない。
アルコールの沼の淵で、逃げずに語る わるもののこと。爺いのこと。中島らも インタビュー「花形文化通信」NO.20/1991年1月号

本紙創刊号より連載していた『わるもの烈伝』が最終回となった。中島らも事務所のわかぎえふ嬢より電話があり、91年の氏の展望について承り、納得の上、合意した。しかしほんとはとっても悲しい。思い起こせば2年前、創刊準備段階で、元広告代理店マンの氏にお智恵を拝借しに行った折、氏は「広告では協力できないけど、書くことで協力はできますよ」とおっしゃった。願ってもないことなので、その場でお願いし、後日内容の打合せに行った。その時、氏はふり向きざま「わるもの、でいこうと思うてるんですけど」とヌターッと宣うた。中島らも

――何故あの時、わるものについて書こうと思われたんですか?

中島 普通にエンターティメントとして日常見てるわるものについても「なんで高らかに笑ってんねやろう」とか、へんにオカシイでしょ。世界制覇めざしてんのに、幼稚園児を誘拐したりして「何の意味があるんや」てね。

――でも内容はフィクションよりどんどん現実寄りになりましたね。

中島 現実のわるものの方がもっと面白いんだよね。一番不思議なのは日常でね「こいつがわるものや」という人物をあんまり見たことがないわけです。僕は2人しか見たことがないのね。1人はサギ師で、旅券サギなんですけど。僕が学生の頃よくたまってた、50年代ポップスばっかりかける喫茶店があって、50’sキチガイみたいなマスターがわるものやったわけ。ヨーロッパ一周旅行50万を30万でどや、いわれて買ったけど、結局お金が要るようになってキャンセルして返してもらうことになった。それはギューッとくっついていったから何とか返してくれたんや。半年くらいして新聞みたら「旅券サギ元◯◯社員」って載ってて。女子大生相手に旅券サギしてたみたい。でもつかまんのん当然やんか。姿くらますんやったら別やけど、自分の喫茶店やってるわけやから、いつかバレるのんアッタリマエやねんけど、やってる。そういうのん、ようお考えたら別にわるものやないねんね、おっちょこちょいなんですよ。ただ新聞に載った時点でわるものになってるわけやんか、あきらかに犯罪。

――「えっ、あの人が」っていう話、よくありますよね。

中島 もっとヒドイことするヤツってのはもっと意外なんやね。新聞に載った時点で超極悪になってるわけでしょ。犯罪の本ずっと読んでいくと、原因がわかってしまうと、コンセプトとしての悪人はなくなってしまうねんね。で多いのは脳腫瘍があって凶暴になったというケース。今、裁判でも全部精神が異常な状態にあったという弁護のしかたするでしょ。確かにその通りなのね、凶悪犯罪してる場合てのは。それでいったら結局悪人っていうのはなくなるやろね。それでいいのかもわからへんしね。まず死刑みたいなのがなくなるべきでしょうね。

――国の法律っていうのもへん。

中島 時代遅れでね。一番不思議なのはやっぱり「大麻取締り法」なんて、犯罪者を製造するためみたいな法律やんか。まっ、「大麻法」みたいなもんに関していえば、害毒がないだけに、法律ってもんの本質を露呈してしまってる。完璧な“踏み絵”なわけやんか。「法律ってキマリがありますよ」と。「あなたは違反しますか、しませんか」って、選り分けのザルみたいものでしょ。「吸いました」「吸いません」で人間自体変わりあるわけないよね。

――害毒でいうと、タバコの方が悪いし。

中島 要らないもんってのは長い目で見ればなくなるんやけどね、すっごい長いサイクルでみれば。中世でコーヒー飲んだら死刑やった時期があったんですよね、悪魔の飲みもんやいうんで。今から考えたらバカみたいな話でしょ。でも今はなくなってるわね。存在理由のないものはなくなっていくだろうけど、その本質としての踏み絵みたいなものはいつでもあるんやと思うね、国家みたいなものがある場合は必ず、踏み絵的な法律が。

――ナンセンスな校則もありますからね。

中島 反抗するヤツは早めに摘発してオミットしたいわけやからね。法律ってのは“踏み絵機”とか“犯行者摘発機”みたいなもんでしょ。で、国家があって法律があるんやけど、国は何しとるかいうたら、これがイッチバン悪いんよね。歴史みてきたって、犯罪者なんて赤ちゃんみたいなもんやんか。10人殺したとかさ、そんなどころの騒ぎやないもんね、国って。しかもやり方が陰険でしょ。

――最終回に書いてあったように、戦争で病人を送り込むとか。

中島 一番人殺せるのは病気とかデマとか、アルコール、麻薬。今、麻薬でものすごいことになってるのは結局国の争いでしょ。共産国は自由国を弱体化させる手段として、国内で生産して無際限に、アジアの奥深くから香港ルートなんかを使っていっぱい流してる。

――コロンビアなんかも、それしか売るもんがない。

中島 日本だとシャブやけど、今まで韓国のルートが多かってんね。それが、原料が台湾にあって、韓国のマフィアが「段取り悪い」っていうんで台湾へ移住してしまったんやね。台湾で現地生産して台湾から流した方が安いから。で韓国の今まで販売してた人は、却す先がなくなってしまった。「じゃ、国内の人間に売ろう」ということになって、ウナギ昇りに増えてるんだって韓国のシャブ中が。

――それも国の考え方と似てる。

中島 「よそのこっちゃから売りゃいい」と。「よその人間やから殺してもええやないか」、「ワシやないねんから国の者に売ったかてええやないか」ってことにたどりつく。食品添加物もそうやね。それが自分の家族やいうたら絶対せえへん。

――植民地支配する時に、天然痘を毛布にいっぱい仕込んで送りつけるとかって話もゾッとしました。

中島 30万人くらいケロッと死ぬからね、病気の武器で。だからあのエイズが出た時、僕絶対そうやと思った。アフリカのミドリザルとかなんとか、どうも理屈がおかしい。あれはたぶん漏れたんやろね、生物兵器のとこからね。

僕はUFOにかけてんねん。UFOみたいなん来た時、始めてわかるんちゃうかな。「今までバカなことしてた」っていうのが。人間っていうひとつの枠に成らざるを得ないわけやから、人間外の者が来た時はね。

――話はかわりますが『超老伝』には実に元気な爺いが登場しますが、らもさんは爺いにあこがれてらっしゃるんですか。

中島 僕自身、長生きしたいいうのは全くない。35歳で死ぬと思てたから。後は儲かった、みたいな。恐いもんなくなって、好きなことしてるでしょ。仕事でもね、来年なんかはもうほとんど仕事とってない。長生きいう考えはないけど、カッコイイお爺さんっていますね。最近会った人だと竹中労。男が惚れる、いう感じやね。以前TV番組で自民党の議員が来て、へんなこと言うた時は「だまれ、小わっぱ」とか言うて、つかみあいになりそうになったらしい。
稲垣足穂なんかもたまらんお爺さんやったね。死ぬまでアル中で。アル中で長生きするのはバロウズとかに似てるね。

――なんでそんなに長生きするんだみたいな。

中島 野坂昭如と稲垣足穂の対談があって、なんでか突然「キスしましょう」って「稲垣足穂は深々と舌をさし入れる」とか書いてあったりする。そんな中で、彼がマルクス主義を2行でかたづける個所があって、「共産主義についてどういう印象をお持ちですか」 と聞かれ、「マルクス主義でっか。あんな魂に及んでないもんはアキマヘン」。それ以後、そのことに関してはしゃべってない。見事やったな。すっごい爺さんがおるなあ、と。

――お爺さんだから言えるんでしょうか。

中島 もう逃げなくてもようなってるんやろね。それと、ずうっとそう思ってきて、「そやった」って確心もあるんやろうしね。前、朝日新聞に来てた投書で「わたしゃ、74歳になるけど、この歳になってこんなこと聞くのは非常に恥ずかしいんやが、宇宙の外側はどうなってるのんやろ。ビッグ・バン説とか、どんどん膨張してるというのは知ってる。ただ膨張してるということは何かに対して大きくなってるって基準がないと膨張の概念は成立たないんじゃないか。その膨張してる外側はどうなってるのか誰か教えてほしい」と。その時、ちょうど科学雑誌の人が来てて、僕もわかれへんから聞いたら「ビッグ・バンってのが…」「アインシュタインの…」とか説明するけど「いやその外側はどうなのか」と詰めよると「中島さん、それはね、我々の業界では言わない約束になってます」と。(笑)この宇宙の話と「人は何故生きるか」という2つの話は言わないことになってるんや、と思う。答える人いないし、答えたら、うさんくさいやん。「わからへん」ていうお爺さん尊敬するわ。「マルクス主義あきまへん」て断定するのと同じくらい勇気いる。

取材・構成 塚村真美/写真 浅田トモシゲ

「花形文化通信」NO.20/1991年1月1日/繁昌花形本舗株式会社 発行)