会場風景。紫色の壁紙は「IV スペイン、イタリア、スイス」の章。右からフェルディナント・ホドラー《木を伐る人》、アメデオ・モディリアーニ《ジャンヌ・エビュテルヌの肖像》

1930年(昭和5年)、日本初の西洋美術館として誕生し、国内屈指の美術館として親しまれている「大原美術館」。その礎となったのは、倉敷紡績二代目社長で実業家の大原孫三郎個人が資金を出し、洋画家であった児島虎次郎がヨーロッパで買い付けた100点に満たない絵画と彫刻だった。しかし、そのコレクションは確かなもので、児島の審美眼によって慎重に見極められ、クロード・モネやアンリ・マティスからは直接、購入している。また、戦後からも、同館は同時代の名画を収集し続け、ここに行けば本物の名画に出会える、と多くの人を倉敷へと誘っている。

さて、創立100周年を目前にして、大原美術館が改修工事に入り休館となるのを機に、館外で、その名画の数々が展示されることになった。それが大阪市にある「中之島香雪美術館」。どんな名画が来るのかと思っていたら、エル・グレコ、クロード・モネ、ポール・ゴーギャン、アメデオ・モディリアーニなど、大原コレクションを代表する錚々たる名画がずらり。「こんなに出してもらってよいのか」と心配するほど。中之島香雪美術館の中は、ちょっとした迷路のように展示壁が設置されて、右に左に、後ろに前に、数多くの名画の中を散策するように鑑賞することができる。

名画揃いといえども、展覧会は、倉敷からただ名画を運んで並べただけではない。タイトルに「虎次郎の夢」とあるように、軸となっているのは、児島虎次郎。絵を集めた人としては知られていても、その画業は広く知られているとはいえない虎次郎。しかし、出身地の岡山県高梁市には、安藤忠雄建築の「高梁市成羽美術館」があり、2025年4月には大原美術館別館「児島虎次郎記念館」がオープン、いずれも虎次郎が描いた油彩画のほか、収集した古代エジプト遺物なども展示し、その画業を顕彰し、功績をたたえている。今回の展覧会には、大原美術館から2点、高梁市成羽美術館から6点の油彩画が出展されている。

展覧会は、虎次郎の絵画やその当時の写真と同時代の西洋絵画が並ぶ、度重なる渡欧に沿った時間軸による章立て。東京美術学校で黒田清輝の元で研鑽を積んだ頃の絵画に始まり、ベルギー王立美術学校時代、帰国したころ、そして「日本の若い画徒」のためにと買ったフランスの絵画、そしてスペイン、イタリア、スイスの絵画、またエジプト、そして最終章は、大原美術館の精華というべき印象派の画家たちの作品が展示されている。絵画のキャプションには、虎次郎が書いたテキストも多く採用されており、的確に作家を作品を解説していて、わかりやすい。文章の最後に「K .T.」とイニシャルで示されているので、そのテキストを読む楽しみもある。

また、虎次郎が帰国した際には、大阪にも来たようで、10点確認されている大阪に取材した作品のうち、今回は《道頓堀》と《大阪の川》が展示されていて、興味深い。とくに《大阪の川》はどこから見て描かれたものか、住吉橋と解説されているが、ポン・ヌフを思わせるような印象派の明るい色彩だ。同じ頃に倉敷で描かれた《春の光》も、明るい色で、陽があふれ、満開の梅、草を食む白いヤギがまぶしい。こちらの画法はチューブから直接カンヴァスに塗っているというものでじつに潤沢な画面だ。

左から児島虎次郎《大阪の川》《道頓堀》いずれも1916年頃(高梁市成羽美術館所蔵)

展覧会の展示で、ありがたいのは、その作品の位置。私のサイズ(身長158㎝)に合わせてくださったのかと思うほど、目の高さに絵画が並んでいる。そして、絵との距離も近い。キャプションもすぐそばにあって読みやすい。エル・グレコの《受胎告知》も間近で鑑賞できる。

エル・グレコ《受胎告知》1590-1603年頃

さらに、最後の部屋には、虎次郎が自ら購入したクロード・モネの《睡蓮》がかかっている。1920年10月から2カ月の間、連日のようにモネやマティスのもとを訪ね、直接交渉を繰り返したという虎次郎。モネはこの頃、フランス画壇の重鎮であり、「ほとんどその作品を売らないことになっていたが、虎次郎の熱願に動かされて、日本の牡丹の苗木と交換するとの口実を設けて、あの麗しい睡蓮の絵を渡したのである」(児島直平『児島虎次郎略伝』、1967)と、図録にあった。正真正銘のモネの《睡蓮》である。展示室には、虎次郎撮影のモネの写真もあった。

クロード・モネ《睡蓮》1906年頃。右端はポール・セザンヌ《風景》1888-90年頃

このモネの《睡蓮》の前には、ソファがあって、座って鑑賞することができる。オランジュリー美術館で、椅子に腰かけているのとまったく同じというわけにはいかないが、同じように座って鑑賞できるのは、心憎く、本当にありがたい場を提供いただいたと、中之島香雪美術館にも、大原美術館にもまた訪れてみたくなった。

(2026年1月26日)
by 塚村真美

特別展「大原美術館所蔵  名画への旅―虎次郎の夢」
https://www.kosetsu-museum.or.jp/nakanoshima/exhibition/ohara-museum-of-art/

開催期間:2026年1月3日(土)~ 3月29日(日)
休館日:月曜日(祝・休日の場合は開館し翌火曜日休館)
開館時間:10時 ~17時(入館は16時30分まで)
夜間特別開館:毎週金曜日10時~19時30分(入館は19時まで)

主催:公益財団法人香雪美術館、朝日新聞社
協力:公益財団法人大原芸術財団、高梁市成羽美術館

料金:一般1,600(1,400)円、高大生800(600)円、小中生400(200)円 
※( )内は20名以上の団体料金
公式HP(オンラインチケット)https://www.e-tix.jp/kosetsu-museum/