【インタビュー】アイデアル・コピー IDEAL COPY「花形文化通信」NO.48/1993年5月号

不特定、複数メンバーによる
アート・プロジェクト、アイデアル・コピー。
ワールドワイドに展開する彼らの
今度のターゲットは「お金」だ。

アイデアル・コピー(以下I.C.)は、1988年に結成された、現代美術を背景に活動するクリエイティヴ・プロジェクト。不特定の複数メンバーでその度構成されるI.C.が行う芸術活動は、彫刻や絵画といった作品を発表するという既存のアートの形態ではなく、企画したプロジェクト自体を芸術として遂行するという、いわばプロジェクト・アートである。I.C.のコンセプトは現代の「社会のシステム」の中で、I.C.のシステムを作っていき、様々な人に関わってもらおうというもの。人が関わることで、その結果成立するものが作品であるという考え方である。I.C.は現代美術業界にいる。そして業界は社会のシステムの中にある。社会のメディアを通し、I.C.はまたワールドワイドに展開しようと企てている。

——I.C.のメンバーの写真を撮らせてほしいんですけど。

I.C. I.C.は企業みたいなもので、あえて個人の顔や名前やキャラクターを出す必要はないので、控えさせて下さい。

——匿名ということですね。

I.C. 名前を出したことで、フォローしなければいけないことが多くなりますから。ある程度無責任にもなれるし。

——名前や顔を出さなくて、I.C.の文字や活動の結果だけが写真や記事で紹介されているのを見るにつけ、何となく恐い感じがするんですが。

I.C. 会社にしても、集団にしても、コミュニティに入った時、切り捨てなければならないものが生じますよね。個人の制作の欲望は切り捨てなければならない。カタログの文章を作る時も、個人的な思いが入ってる箇所は削除されていってニュートラルで説明的な文章だけが残っていくんです。

——ニュートラルで妙に恐いです。でもやってることは、「写ルンです」を使ってたり、「アイデアル・コピー・アート・ミュージアム」を設立したことにしてピエール&ジルの写真展を企画・構成したり。ちょっと間抜けな要素もありますよね。NHKI.C.の紹介番組も面白かったとか。

I.C. あれはNHKとコラボレートする“ Channel: NHK ”というI.C.の活動でもあったんですが、演出との闘いでしたね。いろいろなものと関係が生じる、その結果が作品ということになりますが、娯楽番組になっちゃって(笑)。それも結果ですからね。

——そもそもI.C.はどういう風にスタートしたんですか。

I.C. 当初は目的意識の全くない2人組でした。I.C.のコンセプトはその後に出てきたんです。ある程度周囲の人は巻き込む形でしたが、いわゆるインスタレーションとして展示して、I.C.ブランドのグッズを販売したんです。買うということで誰でも参加できる。当時は消費天国で雑誌の情報やTVで人は物を買うことに興味がありましたから。そんなグッズを売っていた延長上に今の活動もあると思います。

——「写ルンです」を使った“ Channel: OPEN ” では、100人のアーティストに使い捨てカメラを送り、1カット撮影してもらったカメラを郵送したパッケージごと展示販売されましたね。そのカメラを買った人は、作家の写真を所有できるし、続けて使うこともできるけれど、ラボに出したら今度はプリントは残っても作品としての箱は失う。そちらを重視すれば、アーティストの撮った作品は見れないなど、写真やその過程の特性、作家性やオリジナリティが浮き彫りになりましたね。今進行中のプロジェクトはどんなものですか?

I.C. Channel: Excange ”という両替プロジェクトです。I.C.が「両替所」を開設し、広く一般に呼びかけて、個人が所有している外国硬貨をI.C.硬貨と交換するんです。I.C.硬貨と両替された外国硬貨を今度はギャラリーにオブジェとして展示します。このプロジェクトはすべての外国硬貨がI.C.硬貨に交換されるまで継続するんです。

——今回のターゲットとなる社会のシステムは、お金「貨幣」というわけですね。ニセ一万円札の「紙幣」の両替事件もあってこりゃまたタイムリーですね。

I.C. 紙幣は「アイデアル・コピー・コイン」には交換できません。紙幣ではこのプロジェクトは成立しないんです。紙幣はどこに行っても両替できて、どこに行っても価値のあるものですから。コインは国境を越えるとその機能を失くしてしまいます。1セント玉はどうしても日本では円に交換できない。だからといって金属と見なすこともできない。貨幣はまたオブジェ、物としての魅力があると思います。紙幣のプリントよりも。

——たいていの家の引き出しには行き場のない外国コインの1枚や2枚は眠っているでしょうね。

I.C. お金というメディアは誰にでも関われるし、ワールドワイドにやろうと思ったら、美術の文脈のある国にはだいたいお金の概念はある。誰にでも関われてしかもワールドワイドということでお金を選んだんです。交換するということもすごく基本的なことだし。ボーダーということにも興味がある。外国硬貨のお金なのかお金じゃないのかアヤフヤなところで、いろんな矛盾や複雑な仕組みが絡まり合っている。そういう仕組みを使うのが、I.C.の活動としてふさわしいんじゃないか、と思います。

——両替のレートはどのような?

I.C. 持参された外国硬貨の総重量を計量して、I.C.が設定した重量によるレートに従ってI.C.硬貨と交換します。交換されたコインは、ピラミッド状に積み上げられていくんです。交換した行為が形になって、だんだんたくさん人が加われば加わるほどピラミッドが大きくなる。人々がプロジェクトに加わった結果がピラミッドの大きさで見えて、形が変わっていくのが面白いと思います。アメリカへの巡回もきまっていますが、外国でもこのピラミッドにプラスするんです。

——I.C.は世の中の仕組みを使ったプロジェクトを実行しているわけですが、それに付随してくるデザインワークなどはすっきりと美しいものですよね。

I.C. 「これが美しい」とある物を呈示されて言われても、万人には理解はされないでしょう。「これが美しい」と思える人となら、そういう思いは共有できますけど、ある意味ではそれは閉鎖的なコミュニティという感じがする。オープンに開放してワールドワイドにやろうと思ったら、仕組み自体に目を向けた方がプロジェクトとして展開しやすい。ある商品を作って「キレイでしょ」といっても売れませんから。むしろキレイと思える物を作って、どういうルートで流すとか、どう広告するかで商品が成り立つ。美術作品でも同じようなものですけど。それが美しいとかってのとは別の次元にある。I.C.は美術の世界にどっぷり漬かっているんです。美術の文脈がないと何もならないです。

——「アイデアル・コピー・コイン」も人が欲しいと思うデザインになるんですか。

I.C. それはとても重要なことでしょうね。美術館に来るような人達は、「あっ、キレイ」とか言って買っていったりする人達なわけで、そこは無視できない。プロジェクトを展開する側としては、そういう状況をも巻き込んで、プランを立てていかないといけないと思いますから。システムに興味があるからプロジェクトを実行できればいいのではなく、もちろん人が美しいと思う物はすごく重要だと思うんです。いろんな人に関わってもらい、かけひきが行われる中で、無視できないことと微妙な関係を保ちながら、ひとつの作品というかプロジェクトにしていかなければならないだろうし。言ってみればリサーチみたいなことも必要なんだと思います。

——I.C.のお金の単位は何ですか?

I.C. 1アイデアルコピー。また100アイデアルコピーのコインを作っています。

——ゲームセンターのコインのような。

I.C. ゲームセンターのコインを超えようとがんばっています。コインは肖像とかが刻印されて初めて価値がある。そういう魅力が失われているような気がします。またそこには権力といったものも関係しているでしょうし。

——今回のプロジェクトはどのようにしてきまったのですか?

I.C. ある日、僕が「あっ、交換だっ」と閃いたんです。お金に困ってて「お金お金」って。ちょうどロンドンから帰ったところでコインを棚に並べてたんです。そういったいろんな状況が整って、メンバーにお金の交換についてのレポートをFAXして、そこから出発したんです。

ちなみに今回インタビューに応じてくれたメンバーは、よくクラブに出入りしているような若者であり、肩こりなのかインタビューの間じゅう自分の肩をもんでいたことをつけ加えておく。

(インタビュー:塚村真美)

「花形文化通信」NO.48/1993年5月1日/繁昌花形本舗株式会社 発行)

撮影:浅野豪(Takeshi Asano)

撮影:ideal copy

 

京都市京セラ美術館(京都市左京区)で開催の「平成美術:うたかたと瓦礫デブリ 1989–2019」に《Channel: Excange》と《Channel: Peace Cards》が出品されている。 2021年1月23日(土)—4月11日(日)まで。会場は新館 東山キューブ。

haku kyoto(京都市下京区)では、2021年2月6日(土)—2月28日(日)まで《Channel: Copyleft》展を開催中。2021年の新作。