第1回のインタビューでは、80年代後半、シモーヌ深雪さんがシャンソン歌手としてデビューし、上海ラブシアターの活動を始めた頃のことを中心にうかがいました。第2回の話題は、「ドラァグクイーンとは」。1989年に「DIAMONDS ARE FOREVER」がスタートします。そして、当時はまだ一般的ではなかった「ドラァグクイーン」という言葉も、だんだんと世の中に知られるようになっていきました。(丸黄うりほ)

ドラァグクイーンとは怪物。キャンプテイストがキーワード

——80年代後半、古橋悌二(グロリアス)さんたちがニューヨークから帰ってきた頃は、ドラァグクイーンという言葉はまだあまり使われてなかったということでしたよね。

シモーヌ深雪さん(以下、シモーヌ) いや、言葉はあったし使ってもいたんですが、頭でわかっていても身体にしみついていないという感じでした。人に言わせると、あなたはドラァグクイーンですって。でも、自分のことはよくわからないので。

——シモーヌさんは「西の女帝」のほか、「西の魔女」って言われたり、「現存する日本最古のドラァグクイーン」って言われたりもしてらっしゃいますね。自分で名乗っていないということは、他人が勝手に言ってるんだろうと思いますけど。そういう言われ方ってどうなんでしょうか。

シモーヌ 「西の魔女」は、「東の魔女」ことマーガレットとセットなので、まあいいんですけど(笑)。「最古」というには歴史が浅すぎる。まだたぶん35年ぐらい?ただ、誰に聞いてもあなたはドラァグクイーンですよって言われるので、それはそうなのか、というのは受け入れてるんですけど。堂々と胸をはって「私はドラァグクイーンです」って言うには、今でも少しばかりの抵抗感があります。シャンソン歌手っていうのは言えるんですけどね。やってることは結果的にドラァグクイーンなんだろうと思うんですけど、ドラァグクイーンと呼ばれるには、もっとドラァグクイーンらしくしなくちゃいけないんじゃないかっていう葛藤が自分にはあって。

——シモーヌさんが思う、ドラァグクイーンの定義ってなんですか?

シモーヌ 怪物。単にメイクしているだけだったら、バンド、歌手、パフォーマー、バレエやオペラの人でもファッションモデルの人でも、すごいメイクの人がいるじゃないですか。なので、結局、組み合わせや見せ方のスタイルを通じた存在そのものだと思うんですが。そのスタイルが独創的でユニーク、そしてキャンプテイストにあふれていることが必須条件。

——キャンプテイストは、やはりドラァグクイーンのキーワードですか?

シモーヌ キーワードです。スーザン・ソンタグが、チープゴージャスな感覚を美学的に分析したことで世に知られる言葉となりましたが、ドラァグクイーンにとって、「キャンプ」はやっぱり必要だと私は思っています。なんか破壊、とりあえず破壊。その上で美をともなった調和をとるという絶妙なバランス感覚が必要。で、私は破壊が足りないんじゃないかと自分では思っているんですけど、でも、他の人から見たら、あなたは十分に破壊的です(笑)って言われるから。でももっともっと破壊的にしなくちゃいけないのかなという強迫観念は常にあります。

グロリアスが言ってたんですけど、顔のつくりも違うじゃないですか。向こうの人って顔の彫りが深いので、ちょっと塗るだけでそれなりになるんですよ。背も高いし身体もマッチョだし、ふわっとメイクしてドレス着るだけで大変身ができるんですよ。けれど日本人は平面の顔で、メイクもすみずみまで丁寧だったりするので、仕上がりの印象が全然ちがう。

本質が近いから、ドラァグクイーンと呼ばれている

——シモーヌさんが絶対にこの人はドラァグクイーンだって思う、海外の人って誰ですか?

シモーヌ ディヴァイン。リー・バウリー。わかりやすいところでは、そのくらいかな。あと、レディ・バニー。みんなおっきい(笑)。トランスだけど、アマンダ・レアも好き。アマンダは再評価されるべきだと思う。ドラァグクイーンとは呼ばれないけど、ニナ・ハーゲンは私の中ではドラァグ扱いになってます(笑)

塚村 美輪明宏は?

シモーヌ 改名前の丸山明宏には、すごく影響を受けてます。いちばんとがってた頃のというか、アヴァンギャルド全開の頃の。

——マーク・アーモンドは?

シモーヌ マーク・アーモンドというよりはユニットのソフトセルのほうかな。デイヴ・ボールも含めてあげないと。いわゆる変態系といわれるもの、ザッパとかアリス・クーパーのほうじゃなくって、ゲイもしくはユニセックスの、たとえば5枚め以前のジャパンとかカドリートイズとか、ユーロより前のデッドオアアライブとかに惹かれる傾向があった。いまから思えば、キャンプの要素、それもゲイが好むタイプのキャンプ、もしくはそれにまつわるものが好きだったのかも。自分ではそのことに気づかないままそれらを集めるようになって、知らず知らずのうちに、アウトサイダーやアンダーグラウンドやフェティッシュと呼ばれるジャンルに踏み込んでいったんだろうと。何かパフォーマンスをするときの私の文化的背景の根幹は、変態系キャンプなのかもしれません(笑)

——ドラァグクイーン的なものが輸入されて、その形を真似ている人と、シモーヌさんは成り立ちが違うんだと思います。ニューヨークなりロンドンなりで、最初にやり始めた人たちと同じパターンでシモーヌさんは生まれていると思うんですよ。彼らもいろんな映画やアートやファッションをみて、自分の中で発酵させてああいうものが出てきた。だから、スタイル自体は違っても、逆に出所は近いのかなと。

シモーヌ 本質というか業?(笑)みたいなもの。たぶんそれを指して、あなたはドラァグクイーンですよって言ってくれてるんだと思います。

——若い人たちは、できあがったころにそれを見て、奇妙で素敵と思ってやってるだろうから。

シモーヌ 私は、ドラァグクイーンとしてのステイタスやプライドはあまり重要視してないんだと思う、たぶん。シモーヌというキャラクターのステイタスやプライドは大切にしてるけど。ドラァグクイーンとしてNo.1になりたいか、と聞かれてもピンとこないところがある。クイーンと名乗るならそこは譲ってはいけないところだとわかりつつも……でもまあ、いまのところなんとかやれていると思います。

——にもかかわらず、ウィキペディアのドラァグクイーンっていう項目にシモーヌさんの名前が出ていないんですよね。

シモーヌ そうだっけ?

塚村 (ウィキペディアをチェック)シモーヌ深雪、ないですね。

——そう、出てないんですよ。そんなこともあって、いま、ドラァグクイーンっていう言葉は使いにくいなと思います。いろいろなものと混ざってきているというか。誤解を招きそうですしね。テレビのせいかなと思うんですけど。

シモーヌ 世間的にはまだまだ浸透してないですよ。その言葉を知らなくても、日常生活になんら支障をきたさないし(笑)。 メディアでいうと、ミームっていうコピー伝播の形態があるんですけど、正しくても難しい説明より、間違っていても簡単な説明の方を大衆は受け入れ伝播しやすいと。フェイクニュースや都市伝説がわかりやすい例かと思います。ここ最近、ドラァグクイーンが女装家と訳されたりしてますが、間違ってはいないけど正しくもない。女性のドラァグクイーンもいますしね。「女性が女装する」って、日本語としておかしいです。私でいうと、装おってはいるけど、「女というジェンダー」をことさら意識して装おっているわけではなかったりとか。アカデミックなふりをしてるけど、ウィキもミームの影響を受けているんじゃないでしょうかね。学者じゃなくって大衆によって作られるものだし。

——まあ、ウィキペディアは偏っているとは思います。

ドラァグクイーンには、ペイント派とメイク派がある?

——さきほど、ドラァグクイーンとして最初に名前が挙がったディヴァインには、シモーヌさんも影響を受けたんじゃないんでしょうか。

シモーヌ ディヴァインからはあまりないですよ。映画はぜんぶ観てるしアルバムもほとんど持ってますが。ディヴァインは先駆者というデータ認識ぐらいです。そういえば「ピンクフラミンゴごっこ」はしたことないけど、「ロッキーホラーごっこ」は友達の家のパーティーでよくやってました。フランケンファーターは自分も何度か。黒のビスチェ、破れた網タイ、青いシャドーに真っ赤な唇。

——美人になるメイクと怪物になるメイクがあるとして、ディヴァインは怪物じゃないですか。その怪物メイクみたいなのをシモーヌさんたちは結構早いうちからやってらした印象があって。

シモーヌ 怪物とまではいってないかも。92年ぐらいからはいってたかな……。昔も今もそうなんですが、ドラァグクイーンでいうと、メイク派とペイント派に別れるんですよ。うちはもともとアート系の人が多かったのが幸いしたんですけど、幸い?かな(笑)

ペイント派は一回顔をキャンパスに見立てるので、目のあるところにアイメイクを施さなくても別に構わない、おでこに目を描いてもいい、とか、唇をどれだけ大きくしても誰にも文句を言われない。なぜなら絵だからっていうのがあるんですね。でもメイク派は限界があるんですよ。アイメイクは目のところにしなければならない。それは目を美しく飾るためだけに進化した技術だから。同じくリップメイクも、唇はより美しく魅力的に描きましょう、唇のあるところにっていうのがメイク派なんです。

で、私が惹かれるのはどちらかというとペイント派。そのほうがやっぱり面白いと思うし、なにより刺激的。で、一時期に比べると小さくはなったんですが唇は大きい方がやはりドラァグクイーンらしいなと思うんですけど。

クイーンの定義や形態も少し多様化してきたけど、どの時代にも共通していえる点は、その時代を象徴するシンボリックなものに影響をうけて始めた人が多いってことかな。大きく分けると、まず『ロッキーホラーショー』があって、その次に『プリシラ』があって。私やマーガレット、ブブ、グロリアス、ピンクベア、オナペッツなどのロッキーホラー世代を第一世代とすると、続くプリシラ世代がナジャやダイアナ、バビエ、マツコ、ミッツ。で、そのあとに隙間の第三世代があって、強いていえば『ヘドウィグ・アンド・ジ・アングリーインチ』や『キンキーブーツ』、いま一番若手とされる第四世代の人たちに多大な影響を与えたのが『ル・ポールのドラァグレース』という感じ。

ドラァグレースに影響を受けた人たちの特徴としては、ウィッグを重ねてかぶらなかったり、大振りのヘアアクセサリーを着けなかったり。最近のウィッグは髪の生え際にメッシュ素材がついてて、おでこと髪の境目がすごくきれいで自然。そこに焦点を当てたメイクや衣装へとスタイルが変わっていくのは、ある意味で必然の流れとも言えます。

——世代によって影響を受けたものが違うし、それによってメイクも衣装も変わってくるということですね。

シモーヌ 始めた頃は、高いヒールの靴を売ってる店がなかった。でもちょうどプリシラの頃だと思うけど、高いヒールのショートやロングのブーツが出回るようになって、みんなこぞってそれを履くようになった。いかに背が高いか、どれだけ見上げられるかも、その頃のクイーンにとっては大事な売りのひとつだったんです。そのブーツも廃番になってしまい、ネットで買うと当たりはずれが大きいので、手に入れたい人はそれなりに苦労をしてるみたいです。影響を受けたものと現実に手に入るものがリンクしている場合はいいんですが、必ずしもリンクするとは限らず、その時にドラァグクイーンとしての資質が試されたりもするので、面白くもあり怖くもありますね。

※その3に続く

※その1はこちら

7月31日(金)「DIAMONDS ARE FOREVER presents CABARET DIAMOND」に出演。4カ月振りのリアルパーティーとして予約制で開催。詳しくは「メトロ」のホームページへ

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