「誰もがエリカを愛してる」

 

神保町の「試聴室」は、関西にいる頃からたびたびライブでおじゃましてたのだが、東京に越してからぐっと近くなった。四月からもう三度出ている。その三度目のライブのあと、オーナーの根津さんから「明日、大喜利があるんだけど出ません?」と誘われた。大喜利?「さあ、まあとにかく来ればわかりますから」と、はぐらかされたのだが、さあ、まあとにかくたぶん、何かを渡されてひとこと言って、ざぶとんをもらったり取り上げられたりするのだろう。ちょうど夜が空いていたので行くことにした。

予想は、それほどハズレてはいなかった。ものは渡されないが、プロジェクタにお題が映し出される。手元の小さなホワイトボードに答えを書く。時間がくるまで何度書いてもいい。審査員がいて、おもしろいと得点がもらえる。

出ているのはほとんどミュージシャンで、お客さんもふだんは音楽をききにきてる人。寄席やお笑いの劇場とは違うおもしろさがある。どの人も、なんとなく、ことばの調子がいい。「どんなことでも赦す仏様でもさすがにブチギレたあんまりなお供え物とは?」という問いに、オーナーの根津さんは「聖書」。答えの内容もいいのだが、問いの長さに比べて「聖書」という答えがあまりに短くクリアカットで、ナイスタイミングで、ぐっときてしまう。

四つのブロックに分かれて予選をやり、そこから決勝に上がる。人のを見てるうちに、とにかく思いついたものをどんどん答えればいいらしいことがわかってきた。ふだんは脳で検閲をかけて、これはいいこれはくだらないと仕分けしているものを、無検閲にホワイトボードに書き殴ればよい。そういう無検閲脳を作るには酒がいちばんだ。自分の番がくる前からビールやらワインやら飲んですっかりできあがって壇上に上がった。

結局、Moolsの酒井泰明さんが優勝した。酒井さんは昨年に引き続き連続優勝なんだそうだ。毎年やっているのか、こんな楽しいことを。わたしは一緒に出ていた山田民族さんのフレーズに死ぬほど笑ったのだが、あいにくそれが何だったか、すっかり忘れてしまった。自分が何を書いたかさえ、ほとんど忘れた。「わあ!」とか「しゅー」とか、ムードだけで書き殴ったときもあったと思う。

ああそうだ。「あの○○製薬が危険ドラッグを発売、どんな商品名?」という問いに、確か「ズブズブスプレーもっと」と答えたのだった。前日に報道された沢尻エリカのことが、なんとなく頭をよぎっていた。

そういえばかつて、あがた森魚さんは「沢尻エリカが幸せになれば、二十一世紀は幸せになれる」と言っていたのだった。

(11/20/19)