チチ松村さんロングインタビュー5回目、いよいよ最終回です。
1回目と2回目では、90年代、フリーペーパーの「花形文化通信」とチチさんとの関わりを中心に。3回目と4回目は、80年代から現在に至るまで、チチさんが愛し、集めてきたさまざまなもの……きのこ、クラゲ、イカ、桃、セイウチ、セミ、豆、サルについて語っていただきました。
何かに心惹かれること。好きになること。その中に入り込むこと。その精神は、そのまま音楽家チチさんの生き方にもつながっています。(丸黄うりほ)

音楽の中に入って自分が消えてる、その幸せ

――チチさんが今まで好きになったものについての遍歴をうかがってきましたが、すごいですね。まとめきれるかな。

チチ松村(以下、チチ) これだけ自分が好きなものについてばかり語ったことないから、面白いなぁ。
まあ、今までそういう感じだったんですけど、僕は次何かって探しているわけじゃないんですよ。探してないのに、何かのきっかけで出会って、で、そのことしか考えられないようになる。だからある意味、本当に幸せ者ですよね。そういうもんにぱっと出会えて、そればかり考えて、でも生きてこれてるんだから。いい人生だったと思います。

塚村真美(以下、塚村) 昔好きだったものと、今好きなものがつながっているなと感じることは?

チチ あのね、やっぱりクラゲなんかでも「とらえどころがない」っていうのがありますね。それは、自分たちのやっている音楽も、「僕らブルースです」とか、「ジャズです」とかになっていないところが、何のジャンルでもはまるけど何でもないっていうのと通じるかもしれません。

――とらえどころがない。

チチ 音楽のジャンルってね、武器みたいなもんでね。「僕はブルースです」っていうのとかは、ひとつの武器やと思うんです。強みというか。そういうの、ないんですよね。

塚村  「僕はギターです」っていうのは?

チチ たまたまギター弾いてるけど、ギター音楽とはあまり思っていない。ギターが上手い人というのはいっぱいるし、ギター音楽というジャンルになるとやっぱり限られる。ギターから産み出る音楽というのは好きなんですけど、ジャンルよりも出てくる音楽のほうが大事。
で、クラゲ師匠みたいに我がないっていうのは、その音楽をやっているときに自分の我がなくなる瞬間があるんですよ。忘我っていうときが。その時ものすごく幸せな感じになるんですよ。だから、やっぱり我っていうか、普通やったら自分いいとこみせてやるよとか、若い時やったら、こんなすごいことできるんや、みたいなのあるかもしれないけど、そういうのもうないんですよ。
音楽の中に自分が入った時に、もう自分が消えてるみたいな感じでね。音楽の中に入っている時が、すごい生きててよかったと思いますね。それだけでやっている感じですよね。
だから何も、その幸せがあったら将来のこととかは何もないんですよね。どうしていこうとか、これから音楽でとか、 やっぱりみんな考えるじゃないですか。こうしていきたいという目標とか目的とか何もないんですよね。音楽やっているときが、ものすごく幸せ。そのほかのものも、いまこれが好きやなと思うもんがあるということが幸せやなと思います。そこに没頭してね。

――前に好きだったものは今も好きでいらっしゃるんですか?

チチ うーん、でもやっぱり今好きなものに行きますね。のめり込み方は違いますよね。やっぱり無理ですもん、時間が限られているし。

――今はサル。

チチ 日本で今ゴリラがいる動物園は全部行っています。

塚村 今までに集めたコレクションはどうしているんですか?

チチ クラゲとか桃とか処分しました。処分しないと住めないもん。ジュースの缶なんてきれいに洗ってなかったのでカビだらけになってた。捨てるときは悲しいですね。悲しいけど、住まれへんもん。
僕が好きなものを、ほかの人は好きではないというのがわかったのは、散髪屋の椅子なんですよ。場所とってね、誰かにもらってもらいたかったけど引き取り手がなかった。粗大ゴミで拾ったロボットはもらってもらいました。可愛かったですよね、あれ。「いらんか?」言うたら「欲しい」っていう人がいて、嬉しかったです。「電子定食」っていう電子音楽のユニットやっているヤマダブさんがもらってくれたんです。

旅立って行った、DJロボット4台。

――ロボットはまあゴミとして(笑)お話をうかがってきて思うのは、チチさんの好きなものって天然なものが多いですよね、きのこ、クラゲ、イカ、桃、セイウチ、セミ、豆、サル。マイブームという言葉の発案者でもある、みうらじゅんさん。みうらさんも、何かに凝ったり集めたりされるのでチチさんと似ているところもあるなと感じるんですが、みうらさんの好きなものは人が作ったもの、アートとか文化とかの人工物が多い。だから、サブカル的というか、すでに世に出ているものの再評価につながっていくんですよね。チチさんの好きなものは自然物が多い。再評価ではないですね。

塚村 見立てとかでもないですね。

チチ うん、違いますね。僕、知らないですもん、昔のカルチャーとか。

――チチさんは、自分でもよく分からないと感じるものに、ある日突然惹かれるんですよね。その現象に何か名前はつけていらっしゃいますか?みうらさんのマイブームのような。

チチ いや、何も名付けてないです。

――マイブームというのは、みうらさん以外の人も取り入れられる考え方だと思うんです。そういう作法ともいえるというか。でも、チチさんの好きになり方はチチさんにしかできないですね。

チチ そうですよ。だから、僕の好きなものは他の人から見たらゴミ、みたいなことがよくあるんですよね。

好きなものが混ざり合って音楽として出てくる

――チチさんの好きなものはどんどん変わっていく。けれど、音楽に関しては、 GONTITI の音楽ってどんどん移り変わっていく感じではないですよね。

チチ いや、でもいろんなもの聴いているし。そういう耳から入ったものはいったん身体に入って、そこで混ざって、自分の指先からそういうもんが、それとなく出てきているんじゃないかなと思っています。
だから、感じる、自分が今ドキドキするわくわくする、生きてる感じ。そういうのがものすごい好きなんで。自分の音楽をつくっているときも、それがいちばん大事ですね。自分が感じるかどうかね。

――音楽も、この時期はこれにものすごく凝ったとかあるんですか?

チチ 楽器に関してはバンジョーがものすごく好きな時があったし、テルミン、ノコギリもそうやし。それとね、僕はわりとね、人の声でも低い声とか鼻声とかが好きになることが多いですね。ジャンルは関係ない。

――ジャンルではなくて……。

チチ インド映画音楽は好きですね。インド映画音楽ばかり聴いている時もありましたけどね。

――バンジョーが気になるとか、ポルタメントサウンドが好きとか、インド映画音楽が気になるとかいうのがあって、それがチチさんのからだを通して出てくる。

チチ そうですね。で、 GONTITI の時もそういう要素、たとえばバンジョーをちょっと入れたりとかはあるかもしれませんね。

――いろんな要素が混ざり合ってくる感じ。

チチ 混ざり合ってきますね。そうでないと、さっき言うたみたいに「僕らジャズです」みたいな感じにはなれないと思っていますから。

――ジャンルで分けられない。

チチ そのほうが、好きですね。「僕らこうです」と言いたくない。音楽だけじゃなくて自分自身もそうかもしれない。つかみどころがない。

――レコード会社さんは売りにくい。

チチ それは分かります。レコード会社は困っていますよね。今までにこういう音楽をやっている先駆者がいなかったので分からないんですよ、どうやったら売れるかとか。だから僕たちは好きなようにできてきたという。それも幸せですよね。そのかわり、めちゃくちゃは売れませんけどね。ヒットとかはないし。

――いやいや、ヒット曲あるじゃないですか。

チチ ヒットっていっても、みなさんちょっと知っているっていう程度で。

塚村 ようかかっていますよね、テレビとかでも。

チチ それで生活しているみたいですよ。

――サントラもいっぱい手がけられているし。

チチ そうですね。たとえば是枝裕和さんの映画とかやったら、ちょっと悲惨な状況とかを僕らの音楽で餃子の皮のように包んでいる。そういう役目は多いですね。

――『誰も知らない』のあの映像にはあの音楽しか浮かびません。

チチ そうですか。

――記憶から呼び出すと、映像と音楽が一体になって出てくる。ほかの音楽は考えられないくらいぴったりだと思います。

チチ でも、どのシーンでどの音楽を使うのかっていうのは、僕らは監督にお任せなんです。

塚村 えっ?

チチ 僕らができる音楽しかできないので。だから、細かく指定されるっていのはなかなか厳しい。まあされることもあるんですけど、もうちょっとこんな感じで、とか。そうすると、指定された中でまた面白いことができるっていうこともありましたけどね。

塚村 シーンに合わせて音楽を作っていくわけでは……。

チチ ないです。それは受けた時に最初に言っています。映像に融合するタイプの曲を作って、お互いに出して、好きなところで使ってくださいって言う。で、このシーンで足りない曲があるって言われたら、また作るという感じ。

やっぱりギターは一回風呂に浸けなあかん(笑)

――チチさんはミュージシャンなのに、このインタビューでは音楽のことをあまり聞かずに、好きになったもののお話ばかり聞いてしまいました。

チチ 他のミュージシャンの人やったら、ギターやったらギターのことすごい詳しいんです。でも、僕は拾ったギターつこてるくらいやから。拾ったギターで何曲も作っていますよ。

――それはものすごいことなんじゃないでしょうか。高級なギターでいい音を出すというのとは違う方向で。

チチ まあ、だから「ゴミを宝に」ですよね。

塚村 拾い物、今もしてはるんですか?

チチ もう粗大ゴミの日がなくなったでしょう。だから難しいですね。今までに20本以上拾ってますけど。

――なんでそんなにギターが見つかるんですか?

チチ それがなんか巡り会うんですね。粗大ゴミの横を通ったらギターがあるんですよ。今も作曲で使ってるのは、中島らもさんとテレビの仕事の時に大阪の福島を歩いている時に、ゴミ箱に捨ててあったギターなんです。「これ、すごいいいな」と思って拾って、らもさんに追いついたら「なんでギター持ってんねん?」て(笑)。そのギターはSUZUKIのギターで、もう50年以上前に作られたものなんですけど、めちゃくちゃいい音するんですよ。

SUZUKIのギター、このギターで200曲以上作曲。

で、それで、それこそ『どんぶり5656』のね、中野裕之監督がプロモーションビデオ作ってくれたんですよ。「東京の銭湯で撮るから、濡れてもいいギター持ってきてくれ」って言われて、ちょうど拾ったころだったので、そのギター持って行ったら、監督がだんだんのってきて「お湯の中に浸けようー!」って。「えー?まあ、拾ったギターやからいいけど」ってなって、浸けたんですよ。

塚村 ギタリストとして、あるまじき。

チチ うん、でね。そのギターお湯から出しました。そしたら、ニスとか剥がれてきて、そのうちにブリッジのところとが反り上がり、めくれてきたんですよ。
……ところが、その後めちゃくちゃ弾きやすくなった。音もいいんですよ。で、僕がよく言うのは、「やっぱりギターは一回風呂に浸けなあかん」(笑)。まあ、それにしても。僕は嗅覚だけで生きてる野生の動物ですよね。

塚村 え!それはつまり「僕は○○です」と言うとしたら?

チチ う~ん。「僕はただの人間です」かね?

――えーっと、そこはやっぱり……

チチ はっ。「僕は田ウナギです」でした。(笑)

 

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