覚えやすいロックのメロディは、

誰もが楽しくなってくる。

少年ナイフは、自分の好きな曲を自分で作って

自分で歌う、大きな可愛いポップ・スター。

 

ナオコさんとミチエさんは同級生、アツコさんはナオコさんの妹。そんな関係の3人組、少年ナイフは、素直で楽しいメロディのロック・バンド。’80年代初頭に結成された少年ナイフは、ニューウェーヴの時代を、インディーズブームを、バンドブームを、関西ブームをもスルーして、ニッポンの世界に輝くポップ・スターの座にちょこんと君臨している。少しヘンな英語の歌詞とシンプルな曲作りは相変わらず、おしゃべりのテンポも相変わらずのおっとりさで、女の子バンドの可愛さのまま、大きくなっている。

 

——バンドを始めたのは、OLの余暇みたいな感じだったんですか?

ナオコ OLが中心というのじゃなくて仕事がいやだったんです。自分はもうちょっと違う何かになりたいと思ってて。えーと、ミュージシャンになりたいと思ってたんです。その時は。

アツコ ……?

ナオコ こないだ昔の日記とか整理してたら、会社いやとか、 ミュージシャンか画家か作家になりたいって書いてあって、本当はそういうのになりたいとずーっと思ってたみたいで。OLの余暇じゃなくて、OLにはようなれへんかった。

ミチエ 就職して配属されたら会社創立以来初めての女性の営業で。

アツコ やりがいあるやーん。

ミチエ そう、とってもやりがいのある仕事(笑)で出張も残業もあって、まだちっちゃかったのに(笑)。私は小さい頃は、獣医さんになりたいって思ってた。おじいちゃん、おじさんが獣医だったから。

アツコ 私はファッション・デザイナー。アパレル会社に就職して、パタンナーになって、すぐデザイナーに変わって、やりがいのある、出張のある仕事をしてたんですけど。

ナオコ 『ロック・アニマルズ』のジャケットの服はアッちゃんのデザインです。

——少年ナイフとして世間に出たのはどういう風だったんですか?

ナオコ 結成して3ヶ月くらいで、ミチエさんの友達の弟の友達っていう中学生の男の子2人のバンドと、企画してライブをして、その後、カセット作ったんかな。中学生の子が打ち込みとか多重録音とか詳しかったので50本くらい作った。レコード店とかに置いてもらって、すぐ売れて、月一回くらいライブハウスとか出てたら、半年くらいでゼロレコード(自主レーベル)の平川さんが見に来てて、「お金をだすからアルバム作りませんか」って。面白そうやーんって。直径20センチのEPを3枚くらい出して。

——海外でも売り出されたんですよね。

ナオコ ’84年頃に、ワシントン州シアトル近郊の自分でカセットレーベルしてる人から手紙が来て、それが’85年にリリースされたんです。

ミチエ イギリスのBBCでも、新しい音楽をかけてるDJがラジオで少年ナイフをかけてた。最初に知りあった中学生が、すっごいマニアで、シンガポール経由のBBCを短波でキャッチしてたんです。その子たち面白くって、家でコンサートするからって招待されて行ったら子ども部屋で。お客さんも部屋いっぱいに来てて、おばあさんが「いらっしゃい」とか、犬がワンワンとか。今考えたら、会えてよかったな。

ナオコ すごく最初にインスパイアされた。

——曲は英語が多いですけど、どんな風に作るんですか?

ナオコ 私の場合は、先になんかポイントになるキーワードをノートにメモしてるんですけど、「街で公園にコンクリートの動物がいた」とか「道の木にきのこが生えてた」とか。さっ、歌詞を書くぞって時にネタ帳をみて、その時どうやったとか、社会問題に発展させたり、ふくらましていく。本当は先に英語で書くんです。日本語は、日本でレコード出すから日本の人に直接わかってほしいから、訳した歌詞つけたんです。でもおかしくなるところもあって、例えば〝Can I ride on your back? 〟やったら「背中に乗ってもいいですか」ってなる。それはおさまり悪いから英語の方がいいと。

——英語の方が、日本語の歌詞より直接的で、社会派って感じですよね。

ナオコ 「コンクリート・アニマルズ」は公共物破壊主義、バンダリズムに対するような意味で、そんな言葉も入ってるし。日本語に置き換える時そのまま訳さないのは、なぜかというと、〝Let’s take a picture together〟やったら、 1・2・3・4ってメロディが4つだけど「写真を一緒に撮りましょう」だと7つになっちゃう。メロディが4しかないのに7やったら情報入らないから、どこかをはしょると単純になってしまう。また英語を見ながらメロディーラインを作った方が洋楽ができる。日本語見ながら作ったら邦楽になります。それに日本語で作ると、メロディを大阪弁で作ってしまったりすることが多くて。でもそれはそれでええやんって。

ミチエ 「キャットニップ・ドリーム」という曲は今回唯一日本語で作ったんです。ですから、「ネコはネコでもベリベリ、ファット」って、very veryなら2つの音のところが4つの音が入ってるんです。

——ナオコさんの「リトル・ツリー」とかはエコロジーみたいな歌詞がありますよね。

ミチエ エコエコアザラク~。普段から興味あるけど、特定の団体に入ってとかはしたくない。音楽を通して現状にパッとちょっとでも気づいてもらえたらうれしいと思うんです。私達は自分達の曲の中では地球を守ろうとかナニナニしようとかはしないんです。でもある現象だけを、そのたんたんとした事実をリスナーの人が聞いて、気づいたりしてもらったら面白いかなーと。別に、砂場にあるコンクリート・アニマルが傷つけられてても、「もっと傷つけたろー」と思う人がおっても別に私は何も言わないし、「街をきれいにしよう」と思う人がいたらそれでいいし、何も思わない人がいたらそれでいいし。やっぱり一番は、本題よりも音楽を聞いて楽しんでほしい。楽しいなと思ってもらえるものを作れればいいと思う。だけと何か深みのあるものとか裏のあるものが好きだから。

——アルバム『ロック・アニマルズ』の最後の曲「ミュージック・スクエア」はとてもキレイなメロディですよね。

ナオコ 曲を作る時は、歌詞をみてギターを持ってジャンジャカジャーンってやってるとできたり、お天気のいい日は自転車に乗ってると自然に出てきたりします。「ミュージック・スクエア」は素直な気持ちになった時に出たメロディ。人に優しくするような気持ち。

——普段は何をしてますか?

アツコ 私はクルマの運転。

ミチエ ツアーとツアーの間は大阪市の図書館でいっぱい本借りて、 1日に1冊読もうとか。今日読んでるのは、ポール・ギャルボーって『ポセイドン・アドベンチャー』の原作者ですけど、心暖まる短編とか、猫もよく出てくる。

ナオコ 私は織田作之助が好きですね。「六白金星」って短編が面白いです。書きはる小説ぜーんぶすごいパンクで、めちゃくちゃロックしてますよ。今の作家はまんがみたいにどんどん読めるけど、文章凝ってない。昔のは私には絶対書けへんわと思うような言葉の言い回しとかがある。

——音楽はどんなのが好きですか?

ナオコ 私ら、オタッキーやから、いろいろ好きですけど、今一番はレッド・クロス。少年ナイフって曲も作ってて、歌も上手いし、背ぇ高い毛ぇ長いでカッコいいんです。ビジュアル的にカッコイイ人は好きです。皆様にもおすすめ。

——少年ナイフの曲は’60年代ぽかったりしますけど。

ナオコ 3人ともすごい好きですよ。あの頃のってどれも覚えやすくてキャッチーでポップ。

——少年ナイフもそうですね、何かコンセプトってあるんですか?

ナオコ ミチエ アツコ 自分の好きな曲を自分で作って自分で歌う、ってこと。

——ライブは昔どおりいつも3人だけ?

ナオコ サポートメンバーは入れたくないんですね。そんなんするのんカッコ悪いと思うから。

(インタビュー・構成:塚村真美)

 

「花形文化通信」NO.54/1993年11月1日/繁昌花形本舗株式会社 発行)

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