異なる意見を持つ異なる人間が
それぞれ好きなことをやる共通の場、メトロトロンレコード社。
なんとヒッピー上がりなやり方!
その上、メトロトロンワークスなるイベントまでやるという。
その首謀者らしきふたりのそれぞれの単独会見録。

メトロトロンレコード社 鈴木慶一・鈴木博文――メトロトロンって何ですか?

慶一 えーっと、レコード会社です。通常のレコード会社の販売ルートを持たないレコード会社。ようするにインディーズ。そして、えーっと、主に使うスタジオを自分たちで持っていて、すごい単純なんだけど、好き嫌いだけで好きなアーティストを出していくというレコード会社であると。メジャーのレコード会社だと、好き嫌いだけでレコードを出せる場合も、出せない場合もある。その他色々な要素がからまってくる。そこが単純に好き嫌いだけで出せる、すごく小さなレコード会社であると。

――その好き嫌いの判断は誰がするんですか?

慶一 プロデューサーである鈴木博文、鈴木慶一、それとA&Rの芝省三の3人。今んとこ、この3人の会社といっていい。でもずいぶん乱暴だね、それって(笑)。そしてその知り合いとか、取り巻いているとか、湾岸スタジオに出入りする人たち。

――メトロトロンは何故スタートしたのですか?

慶一 まわりにそういうアーティストがいっぱいいるわけだよね。で、そのレコードを出したいと思うわけじゃない。いい音楽がそこに鳴っていればだよ。それをレコードにして、もっと世の中にバラまきたいと思うわけだな。で、バラまくときに、それをメジャーのレコード会社に紹介してもいいんだけど、それって面倒臭い(笑)。色んな手順を踏まなきゃいけなかったり、そのいいと思ったものを変えられてしまう場合もあるわけだ。その間に立って奮闘するのがプロデューサーであると思うんだけど、そういう余計な力がいるのね。それもいいと思うんだよ。ただそういうことに馴染まないな、と思う人たちは出すところがないわけじゃない。でもいい音楽だなって思うときに出したいなっていう非常に基本的な気持ち。それでどうしたらいいかって時に、メジャーのレコード会社に紹介するより、自分たちでレコード会社を作って、なんとか流通させて、値段も決めて、予算も決めてやってくのが、てっとり早いんじゃないかと。すごく直接的になってる。てっとり早い。そのかわりに流通するときに面倒臭いってことになってるね(笑)。でもそれはしょうがないと思う。その流通の面倒臭さと、作るときのてっとり早さを天秤に掛けたら、会社作っちゃったほうがいいやってほうを選んだの。

――実際に2年間主宰してきて、この方法はベストだったのでしょうか?

慶一 いっぱいある中のひとつだったでしょうね。だから今後このメトロトロン社というのは、小さくなれば方法は変わるし、また大きくなっても変わるし。今のサイズにぴったり、このやり方は。で、今後大きくしていこうとは思ってるけど大きくしていったらまた違う方法がベストっていうのをチョイスしなきゃいけない。なんだろう、グニャグニャの会社だよ。歌詩のチェックもないし、変形ジャケットのチェックもないし。

あとね、今まで水族館レーベルとかテントレーベルとかあったけど、とりあえず音楽作るだけだったよね。そしてそれに予算があって、そこからスタジオ時間を割り出したりそういう経験値をぼくたちは上げたわけだ。3人ともね。それでメトロトロンというものを作ったときには完全にお金のことも把握したわけだ。海外型プロデューサーというかね。日本のプロデューサーはレコードを作るまでで終わりだけど。そうしないとどこかで相手を騙すというかね。お金を出す人は口も出すからね。こういうのをやってみて、レコードというのはいくらかかって、いくらで売って、いくら入ってくる、とか、コンサートというのはこういう風にしないと赤字になる、とかいうことが少しはわかるようになったね(笑)。もちろん僕はミュージシャンでもあるわけだから、バリバリにそれを考えるとアーティスト活動ってできなくなっちゃうけど。適度にわかって、適度にわからないという、これが今いちばんベストの状態じゃないかな(笑)。

――メトロトロンって何ですか?

博文 昔からよく、レコード会社があって、その中にまたレーベルとかってあるでしょ。だけどメトロトロンっていうのは、もう、レコード。レーベルじゃないんです。完全に独立したレコード会社、会社といっていいと思うんですが。登記とかそういうものはしてませんけどね(笑)。ちょっと前だとメジャーレコードに対抗した形でのインディーズってあり得たかもしれないけど、僕がメトロトロンとしてやりたかったのは、あんまりそういう隔てたものもなにもなくて。むかしね、あるメジャーレコードの中で、俺たちは違うんだってレーベルを作っても、結局はディストリビューションとか、あと制作段階でお金を出すところがメジャーレコードから出てて。なんとなく、金銭的にも制作ってことにおいても締めつけられるようなものを感じたわけです。そういうものを払拭した上でなにかできないかって考えた時に、レコード会社ってものを自分たちで作ってしまうのが一番いい。そうすれば、半分ぐらい作って、スタジオ代100万円ぐらいの時間しか使えないぞって上から押しつけられることもないし。そういう自由。自由みたいなのを獲得するにはそういうふうにしちゃった。

ただこれをやろうと思ったのは、一番レコードを作ることでお金のかかる部分っていう、スタジオ代がタダでできる。というのは自宅にスタジオ設備を整えちゃったから。だから制作費は全然かからない。てことは上から金銭的なことで締めつけられることは全然ない。そういう意味で、できるなって感触の元でやろうと。量産する必要はないんだけど知りたい人はたぶんたくさんいるようだから、そういう人たちにいい音楽をいかに簡単に、そして直接的に聴かせられるか、ということでレコード会社みたいなのを作りました。

――レーベル、というものと、レコード会社というもので作り手はそこまで違うものなのでしょうか?

博文 今の時代はちょっとわかんないけど、僕らの時代には、好きにやってよって最初にいわれて、好きにやってくうちに段々と締めつけがきつくなってくるという(笑)。まぁ結局それはイタチごっこでもあるわけだけど。ただメトロトロンは完全に独立採算性。だからあえて会社にしない。もっと純粋に、ストレートに作った、売れた、お金返ってくるってね。

――早くレコードを仕上げなさい、とか売れるものを作りなさい、とか言わないあなたたちの立場というのはどういうものなのでしょう?

博文 レコード会社の社長っていうのではなく、音楽的なプロデューサーともちょっと違う。一番いいのはアドバイザー、世話人という(笑)。ただ鈴木慶一と僕と決定的に違うのは、湾岸スタジオでやると、僕が結局ミキサーとかやるんですよね。直接ミュージシャンと同じ時間ずっと一緒に仕事してる。だから、プロデューサーっていっても、アメリカ的プロデューサー、売れることから、コスチュームから何でも考えるプロデューサーっていますよね。あとイギリスにはエンジニアから音的に立ち上がってきたプロデューサーっていますよね。エンジニアをやってるからってエンジニア的専門家ではないですからね。やっぱり世話人だよね(笑)。

――そういう世話好きのメトロトロンはこれからどう進んでいくのでしょう?

博文 とりあえずは今までと同じ。僕は2階の部屋から裸足で降りてきてごちゃごちゃと音楽を作っていく。スタジオのグレードアップとかはもちろん考えていくけど、スタンスはかわらないでしょうね。一番重要なのは持続するかしないか。持続するというのは成功しているんでしょう。スタンス、自由なポジションを絶対にもっておきたい。強制力って音楽にとっては絶対にマイナスだから。メトロトロンレコード社 鈴木慶一・鈴木博文

取材・構成 古賀正恭/写真 久保憲司
協力 ムーンライダーズ・オフィス、WAVE

「花形文化通信」NO.04/1989年8月25日/繁昌花形本舗株式会社 発行