NHKのテレビ番組『趣味どきっ!』で、植物生態学者の多田多恵子先生が講師をつとめる「道草さんぽ」が始まっています。10月にスタートしていま半分まできました。
川辺さんぽに始まり、寺社、下町、海辺ときて、11月は低山、里山、町中、公園さんぽです。
テキストも番組が始まってすぐに買って、見よう見ようと思っていたのに、気がつくと見逃してしまっています。途中の再放送から録画することにしました。テレビがない人も多く、テレビがあっても見逃したりします。そんな時は、いえ、そんな時でなくてもテキスト!おすすめです。
写真もきれいで、200種以上の植物が掲載されていて、ものすごく内容が詰まっているので、“誌上さんぽ”が楽しめます。
表紙をめくって、最初に載っている写真は、オギ。渋い。ススキじゃなくてハギじゃなくて、荻。その隣が薄紫のノコンギク。遠い山から吹いてくる小寒い風に揺れる花です。イチョウとキキョウというちょっとベタなのをはさんで、ヌスビトハギ。ヌスビトハギって、どこに載ってるのかな、索引があるといいのに、と思ったら、ありました!すごいなNHKテキスト!いやこれはテキストというより植物図鑑、の“秋の道草篇”といったところ。
4回目は海辺さんぽで、海辺の植物はなじみがないなあと遠目にテレビを眺めていたら、うちにも植わっているツワブキが紹介されました。園芸品とばかり思っていました。ツワブキを庭に植えておくと、草木が枯れてくるちょうど今頃、緑の葉っぱの上の方に、まぶしい黄色の花が咲いて、庭が明るくなります。
テキストによると「海岸の岩場や崖に生える」とあり、岩場に生えるツワブキの写真が載っています。ツワブキは漢字では「石蕗」と書き、光沢があることから「つや葉ブキ」と呼ばれ、転じてツワブキとなったとか。葉が分厚く光沢があるのは、潮風に耐えるためなんだそうです。「葉にはクチクラと呼ぶワックス層があり、水分の蒸発を防ぐとともに強い日光を跳ね返します。つるりとした葉には、塩分や砂が付着しにくいという利点も」と、海岸植物のたくましい生き方が書かれていました。
各回には「もっと知りたい!植物生態学」というコラムも付いていて、海辺の場合は「乾燥した環境にどう適応するか」という話で、ここにも庭や花屋の店先でなじみのある植物、カランコエやカネノナルキ、マツバギクなどが登場します。そして、意外なことに、アジサイも!「アジサイの葉も光沢がありますが、原種のガクアジサイはもともと海岸植物で、野生のものは伊豆半島周辺の潮風にさらされる岩場などで乾燥と塩分のダブルパンチに耐えながら生きています」。
同じコラムではさらに、「CAM経路」と呼ばれる特殊な代謝システムを持つアロエなどの「CAM植物」が水を節減するシステムについての解説もあります。光合成をするのに、昼間、葉の気孔を開けて二酸化炭素を取り込むと水分が逃げてしまうので、夜に二酸化炭素を取り込んで、一旦リンゴ酸にして葉に蓄えて、昼間、リンゴ酸を分解して二酸化炭素を発生させ光合成するのだそうです。
知らないことが満載。最初にベタな植物といったイチョウもキキョウも、不思議な生態を持っていました。イチョウに雄株と雌株があるのはわりと有名ですが、キキョウの花には「雄性期」と「雌性期」があるそうです。また、イチョウの説明には「野生の株は絶滅したと考えられていたが中国の奥地で発見された」との新しい情報が短い解説の中にさらりと入っています。既存の植物図鑑ではこのあたりが追えていません。
こういうのが、多田先生の解説の優れたところ。先生は2021年の松下幸之助花の万博記念賞「松下正治記念賞」を受賞されていますが、この栄誉ある賞の、受賞理由について、松下幸之助記念志財団のHPにはこのように書かれています。
植物の知識に関する啓蒙活動にあたる人物は、日本の場合幸いにして少なくない。しかし最近、一般受けを狙うあまり話を誇張する傾向が多く、科学的正確さにおいて難を覚える事例も散見される。またいわゆる生態や分類に関する解説の中には、一世代古い知識に基づく解説を依然として続けるケースもあり、これもまた正確な知識の普及には問題となっている。
多田氏は植物生態学の博士号を取得後、これまで積極的に、植物の生態の魅力に関する一般への普及活動に注力してきた。その活躍の舞台は広く、NHKラジオ子ども科学電話相談室、各種図鑑等出版物の解説、また種苗会社月刊誌での連載などにも及ぶ。また立教大学、早稲田大学等において非常勤講師もつとめ、後進の指導にもあたっている。それだけに氏の解説は最新の知見に基づく正確なものであり、また抑制の効いた説明で一貫している点、科学的な植物の知識の普及に大変ふさわしいものである。その正確かつ活発な普及活動を通して、日本に植物好きの裾野を広げたその功績は多大なものがある。(松下幸之助記念志財団 助成・顕彰プログラム「松下幸之助花の万博記念賞」受賞者)
テレビの講座はちょうど折り返したところ、11月は、低山さんぽ、里山さんぽ、町中さんぽ、公園さんぽが楽しめ、木の実やひっつきむしや、紅葉も楽しめます。
by 塚村真美
テキストと番組について詳しくはこちら(みんなの趣味の園芸 NHK出版)