とうとうカミングアウト

by 奥田亮

スワロー亭のバックヤード。たまにレコードかけてます。

皆既月食があるとのことで、これはぜひ、と思っていたのですが、何やらバタバタしているうちに気づけばもう終わっていました。SNSにたくさん画像がアップされているのを見て、ああ、そうだったと思い出したけれど、あとの祭りです。見なかったからといって何かが変わるわけでもないのですが、何百年に1回とか言われると損した気分にもなります。

水づけひょうたんは、ようやく水が白濁してきて、きっと臭いだろうなと思うとなかなか手が出ません。朝は寒いし日中の時間のとれる時にしようと、引き延ばしています。アメリカ瓢はすっかり朽ち果て、おしゃれカフェの裏にできたIPUもグッシャリと真っ黒になって転がっています。

さて、「でれろん暮らし33」でご紹介したことのあるギタリスト笹久保伸さんが、11月10日に31枚目の新譜を出されました。今回はLA最先鋭のサックス奏者Sam Gengelと双頭名義。しかもLPレコード限定300枚ということで、発売前から予約完売するようなアルバム。これはスワロー亭でもぜひ販売したいと、笹久保さんに無理にお願いしてなんとか少しだけ仕入れることができました。そうしたら、こんな小さな田舎の本屋にも問い合わせがきて、店頭販売のみですとお伝えすると、遥々遠方から買いに来られる方もおられて、ありがたいような申し訳ないような気持ちになりました。でも、欲しいものを手に入れた時の安堵したような、うれしそうなお顔を拝見すると、こちらもうれしくなりますね。買われた方と少しお話しして交流するのもいいものです。

そんな中、もう完売してしまった後に、そのレコードを求めて訪ねてきた方がおられました。
「すみません、もう完売してしまったんです」
「ああ、やっぱり…、残念ですが仕方ないですね」
「申し訳ありません」

そんなやり取りの後、店主さんはどんな音楽を聴かれるのですか、というご質問。コアなファンしかいないような今回のレコードを扱う店の店主の趣味嗜好が気になるのはわからなくはありませんが、答えようがなくてしどろもどろ。

「いやあ、まあ、いろいろで‥。ううーん、どうなんですかねえ…」と、歯切れのいい言葉が出てきません。答えになっていない返事に、満足されていないご様子だったので、つい口がすべって、
「えーっと、自分もちょっと音楽やってたりもしていて…」
「へー、どんな音楽ですが? 楽器はなんですが?」
「いやー、あのー、まあ、自分で楽器作ったり…」
「へー、楽器を製造されてるんですか」
「いや、製造とか大したことじゃないんですけど、あのー、‥‥ひ、ひょ、ひょうたんをですねえ…」
と、とうとうカミングアウト。そうしたらその方の目がキラリ。
「え、ひょうたん僕も好きなんですよ。小さい頃おじいちゃんの家にあったひょうたんの中にタネが入っていて、それをまいたら芽が出て、ひょうたんができたことがあって」
「え!そうなんですか!」
「はい、また作りたいと思ってるんです」
「いやあ、それはぜひ」

と、がぜん盛り上がりはじめてしまい、楽器を奥からゴゾゴゾと持ってきて見ていただいたり、私のCDを結局買っていただいたり、おまけに何かその後の展開が待っていそうなお話も。

まさか、笹久保伸とSam Gendelからひょうたんにつながるとは思ってもみませんでした。まさにひょうたんから駒、いや、駒からひょうたん? でれろん。

(643日目∞ 11月22日)