お猿ひょうたんの振り出し

by 丸黄うりほ

①漆工芸作家・亀谷彩さんの作品

②お猿の振り出し。とぼけた表情がたまりません!

③ひっくり返すと、お尻も可愛いんです!

 

先週金曜日の日記に書いたように、大阪・天満橋のギャラリー「The 14th. moon」でひょうたん柄の懐紙を見つけて、うれしさのあまり「ひょうたん!ひょうたん!」と騒いでいた私。

それを聞いていたオーナーのイベールさんが、「そんなにひょうたんが好きなら……」と見せてくださったのが、きょう紹介するお猿さんです。

このとぼけた表情!たまりませんね!

このお猿さんは、千成ひょうたんでできた振り出しです。振り出しとは、茶道具の一つで、中にコンペイトウなどの小さな甘味を入れて、振り出して使う容器のこと。

上下のふくらみのバランスが逆さまになったひょうたんは、ひょうたん愛好家の間では「たんひょう」と呼ばれたりもするタイプ。大きさは8センチか9センチくらい。のほほんとした形と、お猿の表情がぴったりと合っています。

この振り出しは、亀谷彩さんという漆作家さんの作品です。天然のひょうたんから一つひとつ手作りした一点もの。

イベールさんによると、もともとこれは平成28年の申年用に作られた作品なのだそうです。「猿といえば秀吉のあだ名。そして秀吉といえばひょうたんということでこの振り出しが誕生しました」とのこと。さらに、「秀吉といえば立身出世の神、千成ひょうたんは勝利の印」ということで、節句コーディネーターでもあるイベールさんは「これは端午の節句飾りにも使える!」とひらめいたのだとか。

帰ってから調べてみると、振り出しは今は陶器製が多いようですが、古い茶道具にはひょうたん製も結構あるということがわかりました。おそらく、もともとはひょうたんで作られたものだったのでしょう。

茶道具といえば柄杓ももともとはひょうたん製で、ヒサゴ(ひょうたんの別名)がなまってヒシャクになったといわれています。なんだかお茶とひょうたんは縁が深いように思います。茶筅売りと呼ばれていた空也僧のシンボルもひょうたんだし、古い時代、彼らはひょうたんでできた柄杓や振り出しなどを茶筅と一緒に売って歩いていたのではないだろうか?もしかしたら、茶筅がいちばんの売れ筋商品だったのでその呼び名が残っただけなのでは?などと妄想がとまりません。

そんな妄想をしているうちに、私は「一度きちんとお茶を習ってみたいな」と思いました。

「あなたがお茶を習いたいと思った動機は?」「……ひょうたんの振り出しです」。

そんな会話、成り立つでしょうか。成り立ちますよね、きっと……(だんだん声が小さくなる)

(571日目∞ 8月10日)