イカレレ詳説

by 奥田亮

イカレレ裏表 全長80cm

①上から下まで通した角材にペグをつけた。この部分は何度も壊れては修理した ②目玉はビー玉 ③共鳴孔は足の間に申し訳程度に ④イカの足をまたぐよう切り出したバルサ製のブリッジ。

 

さて、今回はイカレレの特徴について細かく解説します。ちょっと長くなります。

イカの形状については、実物を何度も検証したにもかかわらず、結局それほど実物に沿ったものになりませんでした。胴に比べて足がちょっと短いぐらいの比率。イカの胴体部分がネック、足部分がボディというわけです。イカの足は悩んだあげく、バルサ材を切り出して作り、天板(共鳴板)に貼りつけることにしました。一応、足が8本と少し長めで先が膨らんでいる腕2本がついているのは、実地観察の成果でした。

フレットは竹ヒゴを薄く削ってつけました。フレットの位置は通常計算で出して、チューナーで確認するようですが、よくわからないので耳で音を聞きながら位置を決めていきました。案外うまくいきました。ネックの太さが均一でなく、または筒状で太いので、とても弾きにくいのが難点。

このイカレレは全体が胴体でネック(棹)のないツィター属的な構造なので、上から下まで芯を通しました。市販のウクレレのペグを使うことにしましたが、構造上4つのペグを狭いところにつけざるを得なかったので、取手の部分を削って小さくするという面倒なことをしています。

糸巻き部分にはイカの耳が必要でした。これは音的にはなんの意味のない飾りですが、これがないとイカには見えません。素材も違和感がないようにしたい。そこで共鳴板をつけるために切り取ったヒョウタンの端材を整形して取り付けました。ついでに、正面から見える糸巻きの部分を隠すための蓋も作りました。これは弦を張り替える時のためにネジで回転式にしています。この楽器の上の部分は、糸巻きと耳があるために、あちこち穴を空けたり切り取ったり貼り付けたりと複雑な構造になっているのでとても弱くなっていました。とても弱いとわかっていながらケースも作らずに、軽くプチプチを巻いて風呂敷に包んだり、一升瓶の箱に入れたりして持ち運んだため、その後、移動の度に何度も何度も壊れ、その都度瞬間接着剤で貼ったり付けたりを繰り返したので今ではぼろぼろになっています。じつは耳の部分の片方は二代目です。

さてここでようやく音の話になります。ツィター属的に全体が胴体という仕様になったイカレレは、通常のギターやウクレレに比べると低音が多めのボワンとした音が響きました。弦はクラシックギター用のナイロン弦。イカレレなのでウクレレの弦を、と思ったのですが、長さが足りなかったのです。このちょっとボワンとした音の感じは、ナイロン弦と相性がよく、さらにこのボワンという感じをもっと出してみようと、ブリッジの素材をバルサにしてみました。バルサはとても柔らかいぼそぼそした木です。これをそのままブリッジにすると弦が食い込んでしまったので、弦のあたるところに竹を貼り付けました。これでうまくいきました。ボワンとしている上に、ブリッジがボソボソなので音が伸びず、どこか空気が抜けているような頼りない音です。

ブリッジに関しては、ひとつ大きな問題がありました。天板にイカの足が貼り付けてあって凸凹していたことです。どうしたものかと悩みましたが、足の厚みと幅に合わせてブリッジの底を切り出し、足をまたいで天板に直接音が伝わるようにしました。無茶苦茶手間がかかりました。それなのに、いろんな音を試してみたくて、黒檀、アガチスと合計3つのブリッジを作りました。堅い黒檀はかたい音が、柔らかめのアガチスはやわらかい音がしました。場合によって付け分けるということも最初のうちはしていましたが、今はバルサ+竹に固定しています。

もうひとつ、思いついたのは専用のピックでした。バルサを細長く、ちょっとぐねった形に整形した「ゲソピック」。音はよかったのですが、さすがに細長くて弾きにくすぎたので、早々に使わなくなり、現物はもう残っていません。

さてさて、時間が前後していてわかりにくいと思いますが、とにかくもイカレレは完成し、勇んでチチ松村さんにご披露にいきました。チチさん、すごいなぁ!と大笑いで喜んでくださり、ちょっと弾いて一言、「ボク、もうちょっと小さいのがええわ」。

もしかしたら買い取ってくださるかもとうれしいようなちょっと寂しいような気持ちで行ったのですが、内心ホッとしました。ということでこの初代イカレレは私の楽器に収まり、10数年たったいまも現役で活躍しているという次第です。けっこう壊れやすいというか、何度も壊れていることなど考えると、人様にお渡しすることはできない楽器だったのだと、今は思います。

チチさんの一言によって、小さめの二代目イカレレを作ることになったわけですが、それが完成するまでに、さらに何年かの年月が……。お話はまだ続きます。

でれろん、れれろん。

(324日目∞ 8月3日)

奥田亮 ∞ 1958年大阪生まれ。中学生の頃ビートルズ経由でインド音楽に触れ、民族音楽、即興演奏に開眼。その後会社に勤めながら、いくつのかバンドやユニットに参加して音楽活動を続ける。1993年頃ひょうたんを栽培し楽器を作って演奏を始め、1997年「ひょうたんオーケストラプロジェクト」結成、断続的に活動。2009年金沢21世紀美術館「愛についての100の物語」展に「栽培から始める音楽」出展。2012年長野県小布施町に移住し、デザイン業の傍ら古本屋スワロー亭を営む。2019年還暦記念にCD『とちうで、ちょっと』を自主制作上梓。