ヒョータニスト英才教育の教科書

by 丸黄うりほ

①『ひょうたんって』新倉眞紀(文芸社)

②絵本なのに、帯の文言がマニア心をそそります。 

神戸市にお住いのYさんは、よく私にクラシック音楽のコンサート情報を教えてくださる事情通。そのYさんから珍しくコンサート情報以外のメールが届きました。

それは、ひょうたんの絵本をアマゾンで見つけた、という情報でした。私はすぐにYさんがメールに貼ってくださっていたリンクを開きました。(Amazonへ

本のタイトルは『ひょうたんって』。紐を結んだひょうたんのイラストがとても可愛らしい。そして、添えられた商品説明文が実にそそります。

「ひょうたんの楽しい世界へようこそ!ひょうたんの種まきから収穫まで、さらに美しいアートやランプに変身させるまでの魅力的なプロセスを、優しく案内します。創造の喜びと、一緒に楽しむことの大切さが込められた、ひょうたんの魅力が詰まった一冊。ひょうたんづくりから、絵付けの楽しみ、さらにランプへと生まれ変わる瞬間までを、小さな手も大きな手も一緒に体験しよう!」

ふーむ。小さな子ども向けの絵本でありながら、これは相当に突っ込んだ内容のよう。新倉眞紀さんという作者のお名前は聞いたことがなかったのですが、ぜひ読んでみたいなと思いました。

しかし、私は新刊本はなるべく近くの書店で買うことにしているのです。発行は2024年6月と最近です。そこで、いつも行ってるジュンク堂のウェブサイトを調べてみたのですが、在庫どころか取り扱いもなし。「文芸社」という版元から推測すると自費出版かもしれませんし、最近はたまにこういう本があるよね、ということで素直にアマゾンで買うことにしました。

届いた本を見て驚いたのは、予想以上に薄い本だったということ。そして、サイズも教科書くらいの大きさでした。絵本だし大判だろうと勝手に思い込んでいたのです。そういえば、うんと小さい子には、大きくて重い本よりも小さな本のほうが好まれると聞いたこともあります。手の大きさに、なじむんですよね。

開いてみると、やさしい色彩ときれいな線で描かれたイラストで、ひょうたんの実だけでなく、タネや葉や蔓もデフォルメせず、正確に描かれています。奥付によると、イラスト担当は千歳みちこさんという方のようです。

絵本はこんなふうに始まります……。

「ひょうたんはむかしから ようきとしてつかったり えんぎのよいものとして かつようしていました げんざいはインテリアやアートとして かつようしています」

文字こそひらがなですが、この始まり方はかなりマニアックではないでしょうか。使われている言葉自体も、結構むずかしい。

次のページではタネがまかれ、あっというまに芽が出ます。伸びていく蔓の上に降りてくるのは、凶悪な顔つきをしたバイキンマンのようなやつ。そこには、

「うどんこびょうが はっせい」

と書かれています!「うどんこびょうって何?」と子どもに聞かれて、ママやパパはちゃんと答えられるのでしょうか?

うわー、これは相当マニアックです。おそらく、作者さんはひょうたんを実際に栽培しておられるのでしょう。ページの後半は収穫してからの水浸け、タネ出し作業や、乾燥の工程、飾り物にする場合は上部に穴を開け、ランプにする場合は下部に穴を開けるなど、経験者でないと知らない内容が書かれています。もちろん絵本ですから、文字は大きく、イメージ中心で、詳しい記述はまったくないのですが……。

これは誰に向けての本なのだろう?と考えた時、私ははっとしました。

これは、子どもたちが将来、ひょうたん愛好家になるための第一歩。つまり、未来のヒョータニストを育てるための英才教育の教科書なのではないかと。

そのように考えると、すべてつじつまが合います。ひょうたん愛好家なら、うどんこ病は知っていて当たり前です。

この本を読んだ後は、実際にひょうたん栽培を行い、ひょうたん加工を行い、アートやランプを作ってみる。これは、そのような体験を子どもたちに促すための本なのです。

(1289日目∞ 3月6日)

※次回1290日目は奥田亮「でれろん暮らし」3月10日(月)にアップ。

1291日目は丸黄うりほ「ひょうたん日記」、3月12日(水)にアップします。