7月1日|でれろん暮らし|その198「ちと妖しげ」 by 奥田亮

へんちくりんな倍音発生装置?

by 奥田亮

先週の続きです。カンボジアの一弦弓琴 kse diev あるいはタイの pin pia を作り始めた件。先週はとりあえず共鳴胴に使うひょうたんの表面に和綴本の和紙を貼ったところまで記しました。

さて次は内側です。素のままでも問題はないのですが、何かしら愛想が欲しいし、少し補強した方がよさそうなので、思案の末登場したのが「水性工芸うるし」という塗料。本物の漆ではなく、水性ウレタン塗料と書いてあります。色は赤。これを内側と穴の淵にべったりと塗りました。うぬぬ、表に貼った常磐津?の文字と相まってなんとなく遊郭めいていていい感じではありませんか。

水性工芸うるし

内側にべったり塗りました。ちと妖しげです。

次は棹(ネック)。市販の角材を使えば比較的簡単なのですが、せっかくひょうたんが妖しげになったので、ネックも味わい深くしたい。そこで思い出したのが、数年前立ち枯れて伐ってしまったカエデの木。造園屋さんが処分するところを、ちょっと待ったと置いておいたのでした。いよいよこれを使う時が来たか! 枝ぶりのいい感じのところをのこぎりで切って使うことにしました。

立ち枯れて伐ったカエデ。何年も放置していた。

この枝を使います。

さて次にネックに糸巻き用の穴をあけるのですが、一弦の kse diev にするか、3~4弦の pin pia にするか決まってないので、とりあえず3つ穴をあけておくことにしました。糸巻きも同じ紅葉の枝で作り、1本弦を張ってみることに。弦は最近お気に入りの銅線・シタールの弦。わりと太めなので結構張力がかかりますが、この際、ともう1本張ってみました。できれば5度ぐらいの音程差にしたいところですが、やはり張力が強すぎてネックがしなり、1本張るともう1本が緩みます。これではチューニングするのが難しいというか、実質無理。もっと細い弦にすればいいのかもしれないけれど、まあそれはあとで考えるとして、それよりもここにひょうたんをくっつけたらどんな音がするのか試すのが先決です。

糸巻きの穴を3つあけました。

糸巻きを2本つけました。

で、さっそく弦をはじいてみたら、ん? なにやらゴ~ンとお寺の鐘のような音がします。弦を押さえている針金と共鳴してプリペアードピアノのような効果を生んでいるのか、2本の弦の倍音が混ざり合うのか、原因はよくわかりませんが、濁った金属音で弦自体の音がかき消されてしまいます。これでは曲を奏でるのは難しそうです。そこで試しに2本の弦を同じ音階にしてみると、はじいた弦の音が、もう1本の弦に共鳴して残響音のように響きます。う~ん、これはこれで面白いかも。

kse diev あるいは pin pia は、棹につけたひょうたんを胸に当てて弾くので、そのように弾いてみると、ひょうたんの中で倍音が大きく共鳴します。ひょうたんを胸に着けたり離したりすると、倍音がワウワウワウと響いてまるで電子楽器。さらに何度もはじくうちに、倍音同士が共鳴してか、さらに別の倍音が響き、勝手にメロディを奏ではじめました。基音となる弦そのものの音はもちろん聞こえるのですが、音の小さな倍音が次第に大きく聞こえるようになってくるのです。これはまるでホーメイか口琴のようではありませんか。1弦をただビンビンと指ではじくだけなのに、いろんな音が聞こえてきて、ずーっと弾いてしまい、まったく飽きないのです。そのうちいろんな奏法を思いつき、どんどん面白くなってきました。イタコが降霊儀式をやってるようでもあり、夜中に弾くのは少々怖いのですが……。

ひょうたんを胸にあてて弾きます。

どうもこの楽器は、kse diev あるいは pin pia にはならないようです。それはまた新たに作り直すとして、このへんちくりんな倍音発生装置?は、こういう楽器として生かすことにしましょう。ということで、この楽器の名前が決まりました。「芳一」。ひょうたんに貼った和紙の文字が、耳なし芳一の頭に書いたお経のようで……。ならば赤い穴は切られた耳のあと!? ぎゃ、でれろん。

芳一。

(1196日目∞ 7月1日)

これまでの『でれろん暮らし』はこちら

  • 奥田亮 ∞ 1958年大阪生まれ。中学生の頃ビートルズ経由でインド音楽に触れ、民族音楽、即興演奏に開眼。その後会社に勤めながら、いくつのかバンドやユニットに参加して音楽活動を続ける。1993年頃ひょうたんを栽培し楽器を作って演奏を始め、1997年「ひょうたんオーケストラプロジェクト」結成、断続的に活動。2009年金沢21世紀美術館「愛についての100の物語」展に「栽培から始める音楽」出展。2012年長野県小布施町に移住し、デザイン業の傍ら古本屋スワロー亭を営む。2019年還暦記念にCD『とちうで、ちょっと』を自主制作上梓。