さようなら縮緬いぼ瓢「ハドリアヌス」

by 丸黄うりほ

①別れの日。6月3日、ベランダの「ハドリアヌス」

②孫蔓か花芽か?次の準備も始まっているというのに

③台車に載せられて運ばれていく「ハドリアヌス」

④車に載せられ、次なる天地へ……

⑤葉の重みで蔓が傷んでしまいました。トップジンで手当て

⑥なんとか落ち着いた「ハドリアヌス」

⑦ネットを張ってもらって、領土を確保!

⑧新天地・奈良にて、光を浴びる皇帝

きょうのこのタイトルを見て、「どういうこと?」と思われた方も多いでしょう。先週金曜の「ひょうたん日記」では、縮緬いぼ瓢の「ハドリアヌス」が親蔓の摘心をすませ、次は子蔓の時代に入ると、元気いっぱいなところをお見せしていたところでしたのに。

にわかに暗雲が訪れたのは土曜のことでした。

私が居住するマンションの郵便受けに、何やら厚めの封筒が入っていました。見ると、「大規模修繕工事」と書いてあります。嫌な予感がして中身を見ると、マンションの修繕工事が7月から始まると書いてありました。しかも、修繕は我が家を含む西向きのベランダから始めるとのこと。

工事が始まる前に、「ベランダに置いているものをすべて撤去してください」とも書いてありました。さらに読み込むと、「今回の修繕ではベランダの柵ごと取り替えます」と……。

「ハドリアヌス」は、例年通り、柵に取り付けたラティスにからめて成長させようという計画でした。

今年マンションの修繕工事が行われるかもしれないということは、年始の「ひょうたん日記」(1月10日)でも書いていました。しかし、私は例年通りひょうたんの苗作りに手を出してしまったのです。

自室のある区画の工事開始が9月からになるとか、秋以降だったら、その前に収穫可能かもしれない。……そんな淡い期待を抱きつつ。

ところが、7月開始ではとても収穫は無理です。咲き始めた花や、実り始めた青いひょうたんごと、「ハドリアヌス」の蔓を大きなシャベルカーが押しつぶすところが脳裏に浮かびました。

いや、実際はそんなものじゃなくて、私自身がこの手で「ハドリアヌス」の首をはねることになるのでしょう。恐ろしいことです。しかし、そこまでつきあうのが栽培を始めてしまった者の責任なのかもしれない。

けど、辛い。どうにかして助けてやれないものか……?

悩んだ末、頼ってしまったのは今回も「花形文化通信」の塚村編集長でした。塚村さんにはすでに5月に千成3苗を引き取っていただいていたのですが、もうひと苗、「ハドリアヌス」を引き取っていただけないかと……。「育てるなら千成がいいな。縮緬いぼ瓢はちょっとね」とおっしゃっていたのも覚えていたのですが。

断られても仕方ないと思いつつ、私は大変厚かましいお願いをしました。すると、なんと塚村さんは「いいですよ。月曜に車で引き取りに行きましょう!」と快諾してくださったのです。

ああ、なんと慈悲深い。涙が出ました。ありがとうございます!ありがとうございます!

それにしても。土曜に事が発覚して、2日後の月曜にはもう別れることになるとは。私はあまりの急展開に、頭がパニック状態になってしまいました。

でも、いまならまだ「ハドリアヌス」は子蔓が出始めたばかりです。これ以上うちにおいておくと子蔓がラティスに絡みついて、ベランダから引き剥がすのが難しくなる。即決していただいて、タイミング的にはちょうどよかったのだと気がつきました。

写真①は、別れの日の6月3日に、我が家のベランダで撮影した最後の「ハドリアヌス」です。すでに子蔓が伸び始め、葉の付け根をよく見ると写真②のように、孫蔓か花芽なのか、次の段階への準備も始まっているのがわかります。

写真③は台車に載った「ハドリアヌス」、そして写真④は、迎えに来てもらった車に載る前の「ハドリアヌス」。

蔓を支柱につけたままでは載せられないということがわかったので、巻きひげをはずし、誘引クリップも取り除いてプランターを車の後部へ。しかし、すでにかなり大きくなっている自分の葉の重みで「ハドリアヌス」の蔓はねじれ、傷んでしまいました。

車は、奈良県の塚村さんのご自宅に到着。「ハドリアヌス」のプランターを降ろし、ねじれて傷んでしまった部分にトップジン・ペーストを塗りつけ、誘引クリップを使ってもう一度支柱に這わせました(写真⑤)。栽培予定地に置かせていただき、なんとか落ち着いた状態が写真⑥です。

さらに、軒下の金具とエクステリアを利用してネットを張らせていただいた状態が写真⑦。生家である我が家のベランダなどよりも、立派な環境を整えていただき、「ハドリアヌス」も驚いているように見えました。

さようなら、「ハドリアヌス」。新しいおうちで、可愛がってもらうのだよ……。別れの時、初めての長旅と蔓の傷みによって「ハドリアヌス」は少し元気がないようにも感じました、が……。

翌日、塚村さんから送られてきた写真⑧を見て、私は胸をなでおろしました。

光の中に、すっくと立つ、縮緬いぼ瓢「ハドリアヌス」。

「さあ、これから奈良の邸宅を占領するぞ!大阪の狭いマンションベランダなどよりも、やりがいがあるわい!」

『テルマエ・ロマエ』の市村正親さんの声で、私の耳には「ハドリアヌス」のそんな雄叫びが聞こえました。

(1185日目∞ 6月5日)

  • 丸黄うりほ ライター・編集者。ひょうたんをタネから育て、その実から音の出るものを自作し、演奏する楽団「ヒョウタン総合研究所」立ち上げ所員。ソロで「オール電化ひょうたん」としても活動中。ひょうたん栽培歴は15年ほどになるが、畑がないので毎年マンション(大阪市北区)のベランダでプランター栽培している。「花形文化通信」では、ほかにインタビュー記事を担当。
  • 2024年度ヒョータニスト(ひょうたん栽培&加工に挑戦中のみなさん)
    フェイ・ターンさん(東大阪市瓢箪山)、ヤマミーさん(和泉市)、おーさきさん(小野市)、コンさん(吹田市)、イハリコさん(吹田市)、かよさん(東大阪市瓢箪山)、杉浦こずえさん(大阪市/安城市)、たみさん(守口市)、西山朝子さん(大阪市)、塚村編集長、KFさん(東大阪市)、しまじろうさん(大阪市) ※順次追加していきます。