銭形平次捕物控に『瓢箪供養』という作品があった
by 丸黄うりほ
ご近所に住むデザイナーのIさんが、書道の先生から預かったという本を持ってきてくれました。Iさんの書道の先生というのは、以前この「ひょうたん日記」(913日目)でも紹介したことのある藤村ちゅうら先生です。
本のタイトルは『瓢箪供養』。
Iさんによると、藤村先生はいま自宅の整理をされているそうで、その整理中に出てきた本らしいです。ひょうたん好きでもあったというお父様の蔵書だったのでしょう。
『瓢箪供養』は、野村胡堂の『銭形平次捕物控』の中の一篇で、いただいた本にはおなじみ平次が活躍する物語が九つ収められていました。版元は同光社、発行日は昭和28年になっています。古い本だけあって、ページは茶色くなり、シミもいっぱいついていましたが、この『瓢箪供養』は切れ味のいい文章でとても面白く、30分ほどで読めてしまいました。
物語の始まりはこうです。平次が子分の八五郎をつかまえて言います。「手前、昨日瓢箪供養に行ったっけな」
そこで、八五郎が見てきたことを説明します。瓢箪供養を行ったのは、寺島に住んでいる物持の佐兵衛という男。瓢々斎と名乗り、雑俳などをひねる親父でもあった。この男が長い間の大酒で身体をこわし、酒を断つために、物好きで集めた酒入れのひょうたん36個を向島の土手に埋め、「瓢箪塚」と彫った供養塔を建てて、僧侶にお経までよんでもらったと。
それを聞いて平次は八五郎に告げます。その瓢々斎が、なんと瓢箪供養を行ったその晩に死んでしまったらしい。命が惜しくて瓢箪供養をした人間が、その晩に死んでしまうとはおかしくないか?
そこで平次と八五郎が調査に乗り出す……というストーリーです。
この『瓢箪供養』は、ネット上の「青空文庫」にもあり、誰でも無料で読むことができます。ぜひみなさんも続きを読んでみてください!
私が注目したのは、物語におけるひょうたんの使われ方です。やはり、ひょうたんは酒入れであり、大酒飲みの象徴なのですね。そして、瓢々斎という名前に、おかしみ、軽み、風流なものを感じ取ることもできます。物持だということから、生活にゆとりのある、ちょっとした富裕層のイメージもあります。まあ一言で言うと、「道楽者」という感じでしょうか。
この本を読んで、私が思い出したのは神奈川県の川崎大師にあるひょうたん型の石碑です。この石碑の下に埋められ供養されているのも人ではなく、ひょうたんでした。そして、これを建てた瓢仙さんも俳人でした。「ひょうたん日記」849日目に詳しく書いていますので、ぜひ併せて読んでみてくださいね!
(1066日目∞ 9月27日)