台湾先住民のひょうたん呪術が気になる

by 丸黄うりほ

①台湾で湯浅先生が見かけられた、澤民の大樟の廟の上の赤いひょうたん(撮影:湯浅浩史)

②こちらは五福臨門の大樟の下にあったひょうたん(撮影:湯浅浩史)

③「天理参考館」に展示されていた、台湾プユマ族のひょうたん呪具「タトブック」

「花形文化通信」のインタビューでもおなじみ、世界一ひょうたんに詳しい植物学者の湯浅浩史先生が、6月下旬に台湾に行ってこられ、「澤民の大樟の廟の上や五福臨門の大樟の神木のそばに、作りものですが大きなヒョウタンが飾られていました」とメールで教えてくださいました。

私はそれを読んで、台湾にも日本の神道などによく似た巨木信仰があるのだな。しかし、なぜひょうたんが飾られているのだろうかと疑問に思いました。(後日、湯浅先生が、そのひょうたんの写真をご送付くださいましたので、ここにあげておきます。写真①が「澤民の大樟の廟の上の赤いひょうたん」で、②が「五福臨門の大樟の下にあったひょうたん」だそうです。)

メールを読ませていただき、台湾のひょうたんということで私がふと思い出したのは、奈良県天理市の「天理参考館」で以前見かけた台湾先住民プユマ族のひょうたん呪具のことでした(「ひょうたん日記」935日目)。

そのことを書いて返信したところ、今度は先生が封書を送ってきてくださいました。封筒に入っていたのは、『瀬川孝吉  台湾先住民写真誌  ブヌン篇』と『瀬川孝吉  台湾先住民写真誌  ツオウ篇』(ともに守谷商会)の2冊の表紙と、その2冊からひょうたんに関する記事部分のコピーでした。

この2冊の本は、植物学者で台湾総督府に勤務していた瀬川孝吉氏が1930年代に企画し、台湾先住民の住む現地を何度も訪れて撮影した写真集に、後継者である湯浅浩史先生が民族植物学的な見地から解説と補足写真を加えられ、2000年と2009年に出版されたものです。

現在、台湾に住んでいる人はほとんどが漢民族で、わずか2%ほどの人が漢民族の移住が盛んになる前の17世紀以前から住んでいた先住民だそう。その先住民には政府認定で16もの部族があるそうです。この2冊の本は、そのうちのブヌン族とツオウ族の、現在は失われてしまった習俗、生業、農作物などを伝える貴重な資料であるということです。

『ブヌン篇』は台湾で出版された本で、日本では入手困難であるようですが、『ツオウ篇』のほうはアマゾンにも在庫がありました。分厚い大型本で、価格も8800円と立派。これほどの本を自分が所有できるだろうか、読みこなせるだろうかと思うボリュームです。

しかし、湯浅先生が送ってきてくださったコピー部分を読ませていただいただけでも、ひょうたん呪術や神話が気になる自分としては素通りできない興奮を感じました。

『ブヌン篇』から、そのうちのひとつを紹介してみます。

ブヌンはヒョウタンから祖先が誕生したという創世神話がある。南部の郡社では、直接ヒョウタンの中から誕生した(マスホワル)、砥石(アサハン)が遊んでいてヒョウタンの中に入ったら子供ができ、ブヌンとなった(ブルブル)、天から落ちてきたヒョウタンの中に虫(ソッカル)が入っていて、それが人になった(東埔)などの神話がある

マスホワル、ブルブルはどちらも集落の名前です。また、ブヌン族には、ひょうたんを表す言葉が非常にたくさんあるそうです。

『ツオウ篇』からもひとつ引いてみます。

カナカナブの伝説/ 洪水の後、川でおばあさんが魚をとっていた。網に流木が入った。その木を川に捨て、また魚をとろうとしたら、同じ木が網の中に入っていた。捨てて再び魚をとろうと網ですくったら、またまた同じ木が入った。また捨てるが何度繰り返しても同じ木が網に入るのでついに怒って流木を陸に捨て家に帰ってしまった。しばらく日にちが経ってから捨てた木のところに行ったら木はなくなっていて、そのかわり見知らぬ芋が生えていた。またしばらく経って行ったら、そこにヒョウタンがなっていた。そのヒョウタンを持って帰って燃やそうとしたが、燃えなかった。夕方、家の中の寝るところにおいたら夜、男になった。/タカヌワ社  パウ  アガヤナ

うーん、ひょうたんとはなんと不思議な植物なのでしょう!

そして、この本はなんと面白そうなのでしょう。アマゾンでぽちっとしてしまおうか……。

湯浅先生はこの他に「秘境・辺境の植物を訪ねて」というWeb雑誌『うえの』の記事のコピーも同封してくださっていて、こちらにはブルガリアの民族衣装で着飾ったひょうたん人形の写真も載っていました。(Web雑誌『うえの』2023年6月号「秘境・辺境の植物を訪ねて⑲」

うれしくて、めまいがしております。先生、ありがとうございました!

(1034日目∞ 8月4日)

※次回1035日目は奥田亮「でれろん暮らし」8月7日(月)にアップ。

1036日目は丸黄うりほ「ひょうたん日記」、8月8日(火)にアップします。