欲望と実用のディスタンス
在宅ワークが日常になりつつある今、さぞかしコスメティック業界は苦戦と思いがちですが、意外にも大打撃は受けていないそうです。理由は単純で――女子はメイクしなくともコスメをつい買う――からです。
女子は基本、実用的なものにしかお金を使いません。アニメイトなどに行くと解る。男子がターゲットの作品はやたら関連グッズ(それも高価な)があるけれど、少女漫画は少ない。ドラマCDは売れるけどフィギュアはイマイチ。しかしそれは裏返せば、実用性があれば食指を動かすということであり、コスメ用品はお洋服に増してその強度が高い。なにせ消耗品――という実存が、女子の欲望に購入の言い訳をもたらすようです。
本当に実用を重視するのなら限定色を購入するのはおかしい。だって気に入ったとてリピート出来ないんですよ。ということで、必要なので買った筈のリップやネイルが一度しか使われぬ、または開封されぬまま、どんどんとバニティケースに貯まっていきます。
ジャンルとして確立された感があるプチプラコスメなどもこの女子の心理を巧みに利用してどんどんと市場を大きくしています。千円程度だし試して損はない――と贖いますが、本当は買いたいだけなんですよね。
プチプラコスメは小さいし、可愛いし。バタイユふうにいえば蕩尽、消費はエロスを充足させる為にある。従い、あー、緊急事態宣言でデパートも閉まってる、開いていても今期、お洋服買っても意味ないし……。行き場をなくしたエロスの矛先がドラッグストアのプチプラコスメに向けられる仕組み。最近のドラッグストア系コスメは、一昔前に比べると見た目がハイプラよかそそられますしね。
筆頭はキャンメイクでせう。10代~の若い年齢層をターゲットにしたブランドコンセプトは、2003年に資生堂が立ち上げたマジョリカマジョルカに酷似しますが、どうもデザインを含めそれを越せないチープなキャンメイクの方が、近頃は幅をきかせている。
マジョマジョの大ファンだった僕もここ数年、すっかりキャンメイクにスライドしてしまいました。大人が使っても問題ないのですが、中高校生のニーズをおさえまくっている商品展開がスゴい。935円のシークレットビューティーパウダーは「素肌以上、メイク未満!!」が売り。つまりファンデーションは学校で怒られるけど、これはあくまでパウダーなのでセーフというグレイゾーンを突いてきちゃうのです。クレンジング不要、洗顔料で落とせるアイテムが多いのもティーンには嬉しい。そして53歳、男子の僕にも嬉しい。撮影ならメイクをしますがそこまで頑張らなくていいかという日常、キャンメイクは身だしなみとして非常に有り難いのです。
プチプラとはいえないかもしれませんが、中華コスメの代表、キャットキンの頤和園コラボリップとかも、可愛いですよね。容器に鳳凰の図柄、スティックにもそれが彫刻されている。実用品なのだけど使うと施された彫刻が損なわれるので結局、使えないのよね、アハハ。そういえば、やはり中華コスメのズーシーが出した大英博物館アリス・ドリームランドシリーズのアイシャドウパレットもスゴい。ハートの女王、アリス、桃色フラミンゴと3種類ありますが、パウダーにアリスやハートのシルエットが型押しされているし、これも使えない。たまに紙箱から出して筆箱みたいなデカいパレットの中身を眺めてニコニコするしか用途がない。ですがこれ、発売当初、中国でしか買えないにも拘わらずSNSで話題になり個人輸入に挑戦する女子が続出。何ヶ月も待って届いたらザツな輸送故、パウダーが割れまくっていて悲嘆……という事件が相次ぎました。
僕は実用品であることを口実に所有欲を滾らす対象物となり得るコスメティックにしか興味がありません。昔、スキンケア用品は全てシャネルにしていましたが、それもボトルのデザインが素敵だからに他ならず効能などは二の次でした。
それにしても、丸くて金色で蓋がハート模様のキャンメイクのシークレットビューティーパウダーって、どう考えてもセーラームーンの変身ブローチを想起させるのですよね。セーラームーンの変身アイテムは、もっと精巧なものが沢山発売されているけどそれは只の玩具、大人が買うものでなし……。その点、シークレットビューティーパウダーは化粧品。人に観られ「セーラームーンですか?」訊かれても恥ずかしくない。シークレットなるネーミングもセーラームーンっぽいよなぁ。身だしなみに必要といいつつ、単にセーラームーンへの憧れで僕は使っているのかも。シークレットビューティベースを塗ってからはたくと効果的らしいのだけど、こっちはセーラームーンっぽいデザインではないので興味半減。こんな53歳で構わないのだろうか?
水でもかぶって反省します。
(16/07/21)
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