その名はマダム・ダイヤモンド
シモーヌ深雪
つまりは、ビアズレー、世紀末美術を想像していただければ妥当かもしれない。或いはディバイン、「ピンクフラミンゴ」でも構わない。シモーヌ深雪、異形のシャンソン歌手。関西のクラブシーンに進行形のまま伝説化した「ダイヤモンドナイト」をプロデュースし、諧謔とエロティシズムのレビュー集団「上海ラブシアター」を主宰。ウィッグにつけまつげ、デコラティブでフェテッシュなその姿は、美輪明宏のレプリカとも囁かれるマダム・ダイヤモンド。
「きっかけは、美輪明宏のCDを聴いて、ライブハウスのお客さんにも聴かせてあげたいなと思ったのが最初なんですけど。やっぱりやっていくうちに、違うんですよね、方向性が。彼女は女性として女の語り口で普遍的な愛を歌ってますけど、私の場合は男性として、男性同士の愛を歌っていきたいと思いはじめています」
シャンソンの世界は閉鎖的で、徒弟制度などから新しい波を拒否する体質があるという。「いい曲は昔のものも取り上げていきたいですけど、アレンジは今風にして」。今回の CDは全てシャンソンで統一したが、普段は60年後期から80年初期の歌謡曲も歌う。
「もとは、レビューがやりたかったんです。その中のひとつのパートとしてシャンソンがある、といった感じで。上海ラブシアターにしても、パリのリドやムーランルージュみたいに、ショーとしてきちんとみせていきたいですし。クラブでかけられるようなハウスっぽいものもやりながら、自分のスタイルを持ったシャンソンもひとつの方向としてやっていきたいですけど。それはミックスできない気がするので、分けるほうがいいかと。あまり散漫にならないように気をつけて」クラブ・カルチャーの中で浮上してきた「ドラッグ・クイーン」なる存在。彼はその称号を与えられる、日本では数少ないカルトスターである。
「ドラッグ・クイーンというのは、結果的にオブジェになるというのが正しいと思うんですけど。ショーの踊り子の真似をして、男性がおおげさなメイクや飾りたてでヒーローやヒロインになってクラブで踊るってのが、60年代のN・Yで一時期流行ったんですね。女装をするってことではなくて、クラブ以外でもドラッグ・クイーンは存在しますし…。今、こういうジャンルでこういうことをやっている人がいないので、早くお友達が欲しいんですけど」
クラブシーン、ダイヤモンドナイトヘの興味より、革命的な可能性はシモーヌ深雪にイメージがあるという。ビジュアル面でのシモーヌヘの上海ラブシアターのミックス等、シモーヌ深雪はラフレシアのように巨大な仇花となり、ますますスパンコールの薫りをまき散らすのだろうか。
(インタビュー・構成:嶽本野ばら)
(「花形文化通信」NO.43/1992年12月1日/繁昌花形本舗株式会社 発行)