キ★ガイ音楽ここに極まれり
今世紀最大のスカム・バンド
原始のカーニバルにも似た感動は、もはや神の領域か!
’94年、日本のオルタナティブ・シーンにおいて最も衝撃的な事件は、11月末から12月初頭にかけての、キャロライナー・レインボーの来日であった。サンフランシスコのパラノイア・バンドは、現在8枚のアルバムと3枚のシングルをリリースし、そのジャケットの全てが廃物を材料にしたハンドメイドの一点モノ。メンバーの内1人は精神障害者として保護を受けているともいう。1st.のボックス仕様のジャケットには、日記の断片、意味不明の写真、カビのはえたパンの切れ端や、使用済みのタンポンなどが詰め込まれ、その音はジャケットに負けず劣らずのガラクタ・分裂・スカム・コア。車椅子でステージからダイヴする驚愕のアクトは、ボアダムズも大絶賛。彼らはアメリカ・ツアーのサンフランシスコでキャロライナーとのブッキングをリクエストし、今回の来日でも、自分達のサポート・アクトとして指名した。ブラックライトのみの照明に、草間彌生の作品とティンゲリーの作品とを足したようなカブリモノの衣装と、ステージの装飾。東京ディズニーランドのエレクトリカル・パレードをウィトキンが撮影するようなイリュージョンに、スカスカ、ボヨボヨのカオス・サウンドが融合し、宇宙は逆回転を始める。「メンバーの家には死体標本のコレクションがある」「ネズミの死骸が天井からぶら下がっていた」などとエキセントリックな噂のみが先行し、謎が謎を呼ぶ20世紀最大のカルト・バンド、キャロライナー・レインボー。その実体を究明するため、リーダーであるグラックスにインタビューを試みることにした。
——あなた達の音楽を、ガラクタ音楽と評する人達もいますが……
グラックス 僕達は、カントリー・バンド以外の何者でもないのだ。
——ブラックライトの照明や幻覚的な衣装のために、サイケデリック・バンドの印象もありますが。
グラックス キャロライナーのメンバーは、演奏以外にサイケデリックの経験がない。僕達は、ノー・ドラッグ、ノー・スモーク、ノー・ドリンク、ノー・ミートだ。サイケデリック・バンドに思われるのは、イヤなのだ。
——東宝映画のマタンゴっていうキノコの怪物を思い出しました(笑)。
グラックス 衣装に関しては、20世紀の汚れた精神で、19世紀の精神異常性や幻覚をイメージして作っている。体験したことのない感覚を想像して。
——衣装だけでなく、歌詞も19世紀で統一されてますよね。
グラックス 全ての曲は、19世紀の生活の歌なのだ。『ウィズ・コンセンサス・トリップ』という本があって、その中に麦角菌(ナチュラルなLSDのようなモノ)を食べたら、頭がおかしくなるという話が沢山載っている。19世紀の記録に残っている精神異常の症例、土を食べるとか、太陽を眺めるとか、ひとつのキャビンにこもっていて気が触れるとか。それらが歌詞になる。そこに新しい音楽をつけるだけなのだ。
——何故、19世紀にこだわるのですか。
グラックス いっぱい本を持っているからだ。本によると、昔、キャロライナーという名前の雄牛がいた。その牛は金鉱掘りに使われる牛で、歌を歌っていたのだ。
——その牛は実在したのですか?
グラックス 本に書いてあるのだから、事実だ。
——レコード毎に「キャロライナー………」とスゴク長い名前を変えますよね。一応、「キャロライナー・レインボー」というのが正式名称と受けとっていいのでしょうか?
グラックス 「キャロリング」というのは「歌を歌うこと」。「キャロライナー」とは、「歌を歌う者」という意味なのだ。そして、歌を歌う雄牛の名前。「レインボー」という言葉には、サンフランシスコ辺りでは、ヒッピー的なイメージが強いので、そんなカラフルでバカげた印象を壊すために、後に続く名前としてイロイロと付ける。歌詞からとったりもする。「レインボー」とは、神が太古、嵐を呼んで全てのモノを破壊したという意味もあるのだ。
——アメリカでは、虹は不吉な意味あいがあるんですか?
グラックス 本当はない。しかし、僕達は虹に、破壊の後に現れるものという意味をもたせているのだ。
——キャロライナーは、精神異常者の集団で、特にグラックスは本物のキ○ガイであると一般には思われていますが。
グラックス グラックスなんて人物は、もうバンドにいない。メンバーは精神治療、セラピーのグループのセッションで知り合った仲間なのだ。新しいメンバーも、皆セラピーのセッションで見つけてくるのだ。
——ジャケットは全てハンドメイドなわけですが、今まで8枚のアルバムをリリースしていて、各1000枚のプレスと考えても、8000枚のジャケットを制作していることになります。それだけの労力をかけて、ハンドメイド、一点モノにこだわる理由を教えて下さい。
グラックス 自分達で作るのは、印刷代より安くあがるからだ。人生は出来る限り忙しくなくてはならないのだ。一日に一杯詰め込めば、それだけ本当に生きているという実感がするだろう。オーディエンスがもっとレコードを買ってくれれば、僕達は新しいアルバムをどんどん制作し、もっともっと忙しくなれる。そして、生きる感じを覚えるのだ。
——普段は、どんな仕事をしているのですか。
グラックス 図書館の委員や、ガードマン、老人ホームの看護人、科学者や馬蹄の職人など様々なのだ。僕達が演奏をつけ、老人性痴呆症の患者が歌を歌うクリスマス・ソングも、今年クリスマス・シングルとして発売した。
——プライベートは、どのように過ごしているのですか。
グラックス 打ち身、骨折はライヴでしかしない。家の中では暴れないのだ。皆、家では事故に遭わないように、普通に生活している。
——サンフランシスコでのあなた達の評価はどのようなものでしょう?
グラックス 歴史学者が興味をもっているようだ。セラピーのグループやライオンの調教師にも人気がある。
——日本のオーディエンスについての印象は?
グラックス アメリカの中西部のオーディエンスに似て、余り激しく反応しないのだ。ソルトレイクシティではよくサインを頼まれた。しかし僕達は多重人格だから、誰のサインをするか解らないのだが…。日本ではライヴの後にサインを頼まれることも全くなかった。
——それは、素顔が解らないからじゃないですか。
グラックス あっ、……そうか。
——ボアダムズからのオファーがあったバンドとして、キャロライナーは日本の若いオーディエンスに認知された部分もあるのですが、自分達とボアダムズとの共通点は感じますか?
グラックス ボアダムズは6人組で、僕達は7人組だから、非常に似ている。彼らは現代にのめり込んでいるが、僕達は古い文化が気に入っている。そこが違いなのだ。
——20世紀文明とは、あなた達にとって何なのでしょう。
グラックス 悪臭と頭痛だけなのだ。
(インタビュー:東瀬戸悟/構成:嶽本野ばら/協力:David Hopkins)
(「花形文化通信」NO.68/1995年1月1日/繁昌花形本舗株式会社 発行)