プレスリリース(press release)は企業・団体からの“生の声”です。
新聞社などの「プレス」に向けて直接、配信されていますので、「メディアによる編集作業」という料理がなされる前の素材独特の味わいがあるわけです。
二度と同じネタはやってこないエンドレスな回転寿司のように、次から次へと、流れてくる中からおいしそうなプレスリリースを賞味してみようという「プレスリリース探訪(略称:P探)」、久方ぶりに再開してみます…って、まだ、これまでにまだ1回しかやってないですが、
まず、おいしそうに見えたのが…。
…ですが、その前に気になったタイトルは…。
「手塚治虫原作『バンパイヤ』のトリビュート作品『京獣物語 上巻』発売。京都を舞台に、人外VSサイコパスの生き残りをかけた戦いが始まる」
1960年代生まれの僕にとって「手塚治虫」は条件反射的に食指が動くワードです。
さらに『バンパイヤ』は原作の面白さもさることながらテレビドラマ化された作品が斬新で印象に残っているので、トリビュート作品と聞いては拝見しないわけにはいきません。
何が斬新だったかというと、1968(昭和43)年10月から放送されたテレビドラマ版(全26話)はCG技術もなかった(と思われる)この時代に、実写とアニメを合成するという画期的な手法で制作されていました。たぶん、日本のアニメ史やマンガ史的にも記念碑的な作品だと思います。
水谷豊さん演じる主人公のトッペイは、月を見ると、オオカミに変身してしまう「バンパイヤ」という一族のひとりなんですが、このオオカミがアニメなんです。
水谷さんといえば、懐かしいところでは「傷だらけの天使」や「熱中先生」、最近では「相棒」などのテレビドラマで知られる大御所ですが、ウィキペディアによると、これが「事実上のデビュー作」だそうです。
手塚プロダクションのウェブサイトに当時の動画がありました。同サイトによると「ハリウッドではアニメが実写に絡む、という映画がたまに作られますが、日本のテレビでこの試みはたいへん珍しいものでした。しかも30分のシリーズ物で、これを実現するのは当時の技術では大変なこと」だったそうです。※音楽著作権を考慮し当サイト上で視聴できる範囲は調整しています。
テレビドラマそのものは実写なんですが、変身後のオオカミはアニメで、実写の登場人物と絡むわけです。ストーリーは全然、覚えてないんですが、リアルな世界のなかで、アニメが動きまわる不思議なインパクトに惹きつけられました。その後、小学3、4年くらいに原作を読んで、その面白さに夢中になって何回も読み返しました。
たぶん「革命」っていう漢字を書けるようになったのは、この作品のお蔭です。
そんなことでプレスリリースの「手塚治虫」「バンパイヤ」「京都」がどう関係するのか?―と思ってメールタイトルをクリックしたわけですね。
オオカミには変身しませんが…
すると、
手塚治虫生誕90周年記念書籍『テヅコミ』で好評連載中の『京獣物語』が単行本として発売されたとのこと。
2018年11月3日が「マンガの神様」と呼ばれた手塚治虫先生が生まれて90年目で、この誕生日をはさんだ前後1年を「手塚治虫生誕90周年記念」期間として様々な事業が展開されていることは手塚プロダクションの発表で知っていましたが、この『テヅコミ』というのも、そのひとつのようです
で…。『京獣物語』って、どんな作品なんだろうと読みすすめる前に、つまずきました。
「京獣」。何て読むの。素直に「きょうじゅう」。それとも「きょうけもの」「けいじゅう」。プレスリリースの文字をざーっと追っても出てきません。
版元のマイクロマガジン社さんに問い合わせようと思いました。が、添付されていた『京獣物語』の表紙らしき画像をみてみると…。
メインタイトルのロゴの下に、
「K Y O J Y U – M O N O G A T A R I」の文字が…。
「小さすぎて読めないっ!」
「バンパイヤ」の主人公はオオカミに変身しますが、老眼のオジサンは小さい文字をみると、ハズキルーペの渡辺謙に変身します。いや、ごめんなさい、変身したつもりになります。あっ、いまは松岡修造…。
しかし、問題は解決。「きょうじゅう」と読むのですね。
「原作:手塚治虫」「漫画:ボクテンゴウ」となっており、「あらすじ」は…。
漫画家志望の苦学生・北山亜子は、 アルバイトの帰り道、
狼の頭を持つ少年・ジンと、人外対策機関「狩人」を名乗る武装集団との戦闘に巻き込まれてしまう。
後日、 漫画のネタに困っていた亜子は「誰かに話せば殺す」というジンの忠告を無視し、あの日の事をテーマにした漫画を制作。
あろうことか、 実話として出版社に持ち込んでしまった。
ジンとの接触が獣人族の知るところとなり、 掟に従い亜子は殺されてしまう。
――はずだったのだが…。
獣人族の長が告げた「意外な提案」、その内容とは?
…「京都」という文字は見えませんが、たぶんプレスリリースのタイトル通りに京都が舞台ということなんでしょう。プレスリリースはこちら。
whereはどこへ?
で、「京都」つながりで目を引いたのが次のプレスリリースです。タイトルは…。
「店自体が踊り出す喫茶店・怪奇現象が起こる部屋・景色を変えられる部屋など、異なる11の客室!京都に『不思議な宿』が正式オープン!」
テクノロジーとエンタメと京都らしさを融合させた遊べるゲストハウス「不思議な宿」だそうです。
京都にはたくさんのゲストハウスがありますが、 これまでとは全く趣向の異なる宿泊施設が誕生しました。
プレスリリースによると…。
室内で起こる怪奇現象のレベルを調整できる「怖い部屋」、 壁がスイッチだらけの「多い部屋」、 景色を変えられる「景色の部屋」、 人気ボードゲームが揃った「ボドゲの部屋」など、 不思議な11の客室に宿泊できます。
…とありまして、「京都のどこらへんなのかしらん?」とプレスリリースを上から下へ、2往復しましたが、わかりませんでした。
戦略なのか、それとも冒険?
で、「不思議な宿」の公式サイトと説明のあるURLをクリックして、さらに「行き方」をクリックして、わかりました。京都市下京区橋詰町128で、「宿は、京都駅から歩いて十分ほどで到着します。六条通を右に曲がって、東洞院通を北に上がった右手にあります」と親切に書いてくださっていました。
メールでのプレスリリース配信が定着してきて、外部サイトへのリンクが可能なので、そこへ誘導するためにも、あえて所番地は書かないという戦略なのかもしれませんね。
それはそれで、正解のような気もするのですが、既存の新聞社や雑誌社などの場合、「5W1H」の要素に欠けがあるプレスリリースはボツにする確率が上がりそうな気がするので、冒険ではあります。
プレスリリースの「プレス」は本来は「新聞社」などの報道機関のことでした。
でも最近は誰もがネットを通じて情報発信できて、誰でも「プレス」になれるので、プレスリリースのスタイルや意味も日々、変化していくのは当然だともいえます。
でも、僕がプレスリリースの作成や発信のアドバイスの依頼を受けたら、メイン商品である施設の所番地を省略する勇気は、まだありません。
最後に、出だしで、おいしそうな画像を出したコレ! タイトルは…。
「『KAKI HALLOWEEN Instagram CAMPAIGN』を開催!抽選で100名様に“和歌山が生んだホラー界の巨匠 楳図かずお先生”監修オリジナルデザインTシャツをプレゼント!」
収穫量が日本一の和歌山県産の柿をもっと知ってもらおうという目的で、ハロウィンシールを貼った柿を持って「グワキ!!」とポーズを決めSNSへ投稿する「KAKI HALLOWEEN Instagram CAMPAIGN」を10月10日までやってます、というJAグループ和歌山からのお知らせ。
「KAKI HALLOWEEN」を世界に
抽選で100人に楳図かずお先生監修のオリジナルデザインTシャツが当たる、というのがポイントですが、個人的には1000人くらいにならなかったのか、と残念です。ほしいです。
プレスリリースによると…。
ハロウィンのイメージであるカボチャではなく、 和歌山の柿を新アイコンとした「KAKI HALLOWEEN」を世界に発信すべくスタートしました。
和歌山県出身の楳図かずお先生にご協力頂き、 代表作であるギャグ漫画『まことちゃん』で有名なポーズ”グワシ”にかけ、「グワキ(柿)!!」ポーズで撮影した写真をInstagramに投稿。 みんなでHALLOWEENを盛り上げようというキャンペーンです。
ハロウィンといえば、黄色いカボチャですけど、もう強引に、同系色つながりで、楳図先生の力を借りて柿に引き寄せたわけですね。
「世界に発信」とはいえ、柿は英語で「persimmon」なんで「KAKI」がどれだけ世界で理解してもらえるか、は疑問ではありますが…。
それにしても”グワシ”にかけて「グワキ!!」って…安易すぎて、誰も思いつかない死角をついていて、超新鮮。本当に世界に発信できる気がするから不思議です。和歌山が僕の故郷なので、ひいき目というものかもしれませんが…。
楳図先生も…。
「和歌山の柿は日本一美味しいと思っています。 この和歌山の特産を、ぜひ全国の皆さんに食べて欲しくて、 引き受けました」
「ぜひ『グワキ!!』ポーズでハロウィンを盛り上げてほしいですね!それと、この「グワキ!!Tシャツ」を着れば、 ハロウィンの人気者になること間違いなし!ぜひキャンペーンに応募して、 Tシャツを当ててください!グワキ!!」とおっしゃってます。
ここは「日本一」ではなく「世界一」としてほしいところですが、今年は渋谷の交差点に「グワキ!!Tシャツ」で繰り出すパリピが見られるかも。
応募の詳細などはこちらです。
プレスリリースはニュースのタマゴ。大きな話題が生まれるかもしれませんし、調理次第で、おいしい料理にもなりそうです。
ではでは今回はこれくらいで。(岡崎秀俊)