ギターを周波数同調機にして、街の片隅で出会ったふたり。ゴンチチの曲は、頭に窓を開けてくれる。今、風に乗って、世界じゅうに音楽がとどき始めた。
気軽に音楽をして、気楽な音楽をとどけてくれる2人組、GONTITI。地球一番快適音楽と称せられる彼らの音楽はしかし、気楽、快適など表層的な言葉とはうらはらに、深く胸に心に入り込んで、広がって困ってしまうほどである。「リズム極道」ゴンザレス三上、「メロディ坊や」のチチ松村。アルバム『デボニアン ボーイズ』を完成させ、楽しいパレードを繰り広げている。
——そもそもお二人のなれそめは?
チチ 友達が連れて来たんです。「ギターのうまい三上さんだ」ってイキナリ入って来て。「ちょっと二人でやってみましょか」って演ってビックリしましたね。
——ウッとかオッとか思ったんですか?
チチ ウッもオッもないですね。すごかったですね。ギョッかガァッかグェッか。
ゴン 僕は帰りたかったです。松村さんの家の前とか、犬がよく通ったりするんで、フンとか落ちてたりしたから。でも演ってて楽しいなって思いました。
——その時、既にお二人ともサラリーマンだったんですよね。三上さんは今、横須賀で、松村さんは大阪で。離れてて支障はないんですか?
ゴン ぜんぜんないです。近くにいても、近いからって別に会わないでしょ。
チチ 出会ったころは練習するのが面白くてよく会ってたんです。もう今はね、会わなくてもいい。たまに会って演った方が新鮮なんです。
—— 三上さんのゴンザレスっていうのはなぜ、そんな名前になったんですか?
ゴン ゴンザレスって強そうでしょ。僕、気が弱いんです。そんな名前つけたら直るかと思って。全然直りませんけど。でも他の人が、「どんなデカイ人かな」てイメージ持ってくれるだけで、自分も強くなれるというか、そういう雰囲気にノれるんじゃないかなと思って。
チチ チチっていうのは、チャーリー・パーカーの曲から。ほんとはCHICHIなんだけど、TITIにして。その二人の名前が、ダイマル&ラケットがダイラケになるみたいに、ゴンチチになった。
——名前の響きもいいですけど曲はもちろん、曲名もまたいい響きですよね。曲ができてから曲名をつけるんですか?
チチ 最初に曲名があって、その曲作ることはできないんです。できた曲を聴いてからいろんなイメージが広がって、それでつけるんですけど。自分達でも曲をひとつのイメージでとらえずにいろんな風にとらえてます。
——曲名みたら、「あー、そうなのかあ」と思うんですけどね、『風の国』とかね。
チチ あれはね、どこの国かわからないけど、国歌がね、風に乗って聴こえてくるような感じだな、と。人によって全然違うようにとられても、全然イイです。
ゴン 言葉の響きと曲の中のトーンが不協和音になったら困るけど。
チチ 三上さんは芸術一般にウルサイから、いろんなストックがあって、それをうまく出してきたりするんですよ。
——じゃあ『アスタリスク』っていうのは?
ゴン これは星印のこと。あの記号の。英語で星印(「*」)のこと。ナナメ線(「/」)はスラッシュとかいうでしょ。寸断するとかザブっと切るとか悪いイメージあるでしょ。あったかいけど、でも記号っていうの、ないかなと思って。それで星印。
——チチさんの『ピピエンス パレンス』は?
チチ アカイエ蚊。
ゴン 曲とバッチシ。血イ吸いバッタみたいなのが、ひっついてピシューって感じ。ジャズのとことか。
チチ そのわりに響きはキレイでカワイイでしょ。アカイエ蚊って日本脳炎を運ぶ悪いヤツ。茶色っぽい蚊ね。
——『アドミナブル エキシビショニズム』は?
ゴン エキシビショニズムは、露出癖とか自己宣伝欲とか。アドミナブルはおどろくべき。
——アルバムは『デボニアン ボーイズ』デボニアンってストックしてあった言葉なんですか?
ゴン デボニアンってデボン紀のことなんだけど、デボン紀っていうよりもっと軽い感じ。そんな考えないでつけた。
チチ でも日本語にするとカッコイイでしょ。デボン紀の少年って。いないワケだから、実際に人類なんて。それが面白いな。デボン紀って魚類が栄えた時期で昆虫の最初のヤツもでてきた頃みたい。
ゴン 僕は三葉虫が好き。気色悪いヤツはあるけど、ポコッとまるいヤツとか造型が好きで。でもデボン紀ってそいつらが衰退してくる黄昏時みたいな時で、それよりも魚類の曙って感じが強い。
チチ 板皮(ばんぴ)類って、鎧をかぶってるみたいな魚がいたんです。上野博物館で飾ってあるの見たけど、メチャでっかい!面白いことに、デボン紀が終るころ絶滅するんですね。
——チチさんと三上さんって、領域が少し違うんですよね。曲名も、チチさんは『チャイニーズ ベルフラワー』とか『トーチ』とか、あったかい感じがする。けど三上さんは理知的で無機質な感じ。
チチ 三上さんは、わりと学術的ですよね。僕はヘンなものが好きなだけでね。三上さんは大人が好きなもの。僕は子どもが好きなもの。
——チチさんはいつもシアワセな感じがしますけど、三上さんはどんな時がシアワセなんでしょう?
ゴン 気持ちいいのは好きですけど、シアワセってよくわからないです。
チチ 僕なんか、こうしてビール飲んでるだけでシアワセだから、大層に考えなければ、ね。シアワセだらけですよ。不幸とか悩みとか好きじゃないんです。他の人がものすごく不幸だと思ってることもシアワセと思ってるだけでね。
——チチさんはサラリーマンお辞めになりましたけど、三上さんは辞めないんですか?
ゴン 辞められないんですよ。仕事大キライですよ、仕事ってつくものは。音楽でも仕事となると絶対イヤです。イヤで仕方ないんですけど好きなことばっかりやってるのもアカンアカンってね。すごく不安になってくるんです。自分に全然自信がないというか……。枠の中にいないと絶対ダメみたいな。好きなことでもできないんです。それだから会社にいるってワケでもないですけど。
——じゃ、あんまりシアワセな状態じゃないですね。
ゴン 音楽と仕事と両方いいとこ取りでまん中くらいに在て、ちょうどいい時あったんですよ。松村さんのいうようなシアワセな状態。それが両方とも忙しくなってきたから。神経マヒしてますよ。でもね、レコードつくる時、せかされないことあるでしょ。そしたらね、気合い入らないってことあるんです。他の人がやってくれっていって、イヤイヤやってても、その期間までにやらないと、と思うとちゃんとやったりとか。あんまり自由ばっかりっていうのは、僕に合ってないのかも知れない。
チチ それは一緒ですけどね。僕も一番充実してる時間は「何してもいい」っていわれてる時より、何時かに出て行かなきゃいけない5分前とかってことあります。
——自由ってなーんにもないのがスバラシイってイメージありますけど、ね。
ゴン 僕、NTT入る前、なんにもしてない時期があったんです。その時、不規則な生活になって音楽なんて全然できなかった。
チチ それはやりたい音楽やってなかったからじゃないかな。
ゴン そうかも知れないけど、出てくるものがなかった。抑圧されてなかったから出てこなかったかもわからない。
——今、音楽したいからって、会社やめてるコも結構多いですよね。
ゴン それは根性あるからですよ。思いきりいいからですよね。
チチ でもね、大層に考えすぎじゃないかな?結局仕事しながらでも、自分の好きな音楽だったら絶対時間作ってやるはず。それを「オレはプロになる」とか「プロにならなかったら音楽やめる」とか、どうして大層に音楽を考えるのかな。僕らなんかでも、最初から「仕事やりながらする」とか「音楽やるために仕事やめる」とか決めずに、自然にやってるから。音楽がすきだからやってるだけで、たまたま仕事もやってたという感じでね。
——気楽にやれ、と。
チチ ミュージシャンの型にはまらないと安心できないのかな、とも思うけど。僕なんかいろんなことに興味あるし、路上観察とか、博物学とか。気楽に考えたらいいんじゃないかな。僕は目的とかないからね。一生いい方へ流れていったらいいから。風に流されるってヤツ、風流ですね。世の中を浮き草のように流れていきたい。三上さんは、緻密にいろんなこと考えてると思うけど。僕が1(イチ)考えてたら1000(セン)考えてますね。
ゴン 考えてない、考えてない!
(インタビュー・構成:塚村真美/写真:浅田トモシゲ)
(「花形文化通信」NO.12/1990年5月1日/繁昌花形本舗株式会社 発行)
※2019年7月6日に開催の「花形文化通信ウェブ復刊記念の集い」に、チチ松村さんがゲストで出演してくださいます。詳しくはこちら。