text by 東瀬戸悟(フォーエバー・レコード)
今年初頭、某音楽誌のアンケートで、ソニック・ユースのサーストン・ムーアが“1993年は大阪のアンダーグラウンド・シーンが世界を制覇する”と言っていた。93年も残り少ない、今の時点で何か大きな変化でもあっただろうか? まあ、皆ぼちぼち元気に、マイペースで動いてはいた。ボアダムスと少年ナイフはメジャーの中でも健闘したし、知名度は国内でも国外でも飛躍的に上がったと思う。
しかし、一昨日ベアーズで見たマゾンナとソルマニアのライブは、関係者を除くと観客はたったの3人しかいなかった。両者ともに現在、海外では高い評価を得ており、11月末には非常階段とアメリカ公演を行う予定であるが、“世界を制覇する”と予言された、大阪のアンダーグラウンド・シーンの実状はこんなものだったりする。もちろん観客動員数と音楽の質が一致するものでないことはわかっている。“燈台もと暗し”の例え通り、日本にいるとかえって足元にあるものに気がつかないのだ。むしろ、実態の見えない海外であるからこそ、その音楽の本質が見える場合がある。最近、アルケミーやヴァニラ・レーベル等、とくにノイズ系アーティスト達のCDは、国内より国外での方が評価も高く、売り上げも良いといった例が増えてきた。この事実は、海外からの熱い視線を何よりも裏付けるものだろう。
こういった現象は、決して戦略的に企てられたものでなく、自然な成り行きと、世間の流れと無関係に自分達の面白がれるものだけを出すというインディペンデント・レーベルがあればこそ成し得たものだ。古くは70年代の関西フォークを支えたURCからはじまり、バンク・ムーヴメント以後に生まれたアンバランス、ヴァニティ、アルケミー、ゼロ等、関西のレーベルは総じて個性的と言うよりアクが強いものが多い。“東京なんか関係ないやん”と口では言いつつ、雑誌やTV、ラジオ等のメディアの集中する東京に対する微妙なコンプレックスと地元に対するプライドを常に抱かえる関西人としての性が、このアクの強さを支えているのだろう。実際には、大阪で活動する連中だって、東京で、つまりは全国区で認められたいだろうし、雑誌やTVにだって出たい。大阪には、彼らを取り上げてくれるメディアすらない。あったとしても極限られた範囲でしか機能しない。結果的にメディアの生み出す、東京発のムーヴメントとは異なる、もう一つのオルタネイティヴな世界を築き上げざるを得なかっただけなのだ。
ノイズに限らず、メインストリームと隔絶された場所で活動する関西のアーティストやレーベルにとって、東京は海の向こうにあるのかもしれない。多分フォッサマグナあたりに海峡がある、というのは冗談としても物理的な距離でなく、心理的な距離でなら、東京はNYやロンドンと同じようなものだ。東京/日本をすっ飛ばして、いきなり海外でダイレクトに受け入れられるパターンがボアダムスと少年ナイフという関西のグループによって成し遂げられたということは象徴的である。彼らに次ぐのは誰か?などと考えるのは野暮な、メジャー業界人にでも任せといて、地下に潜入したまま、自分達の感性を研ぎ澄まし、やりたいようにやれば良い。その内に道も開けるだろう。これが正しい関西アンダーグラウンド人の考え方というものやね。
◆想い出波上場/CD 「ブラック・ハワイ」
▲「アルケミー」非常階段JOJO広重主宰の老舗インディ・レーベル。ノイズ、ハードコア、サイケデリック等アンターグラウンドなハミ出し者達のルツボ。
◆捕虜収容所/CD「GREAT COCK HITS」
▲「FALL」雑誌G―スコープ発行のガシジー石原主宰のイロモノ・レーベル。漫談家テントのEPや捕虜収容所など、どうしようもないものばかりをリリース。
◆V.A/CD「カム・アゲインⅡ」
▲「ヴァニラ」京都のノイズ専門レーベル。海外との交流も活発で、米サイレントとの共同リリース「カム・アゲインⅡ」を先日リリース。
◆UFO OR DIE/CD
「Unlimited Freak Out or Die」
▲「タイムボム」アメリカ村のレコード店・タイムボムによるレーベル。サーストン・ムーア、フガジ等の日本公演も行っている。
◆シモーヌ深雪/CD「美と犯罪」
▲「ブロン」UFO OR DIEに、シモーヌ深雪、カナダのニムロッドなどをリリース。地味ではあるが、関西のアクの強さは充分。
◆山崎マゾ編集V.A/カセット
「GOMI-AKTA」
▲ 「COQUETTE」マゾンナ山崎の個人レーベル。大量の自宅録音作を次々にリリース。カセット・レーベルはコストも安価なので、アーティスト個人単位で星の数程乱立する。
(「花形文化通信」NO.55/1993年12月1日/繁昌花形本舗株式会社 発行)