捨てるべき残りかすを、僕は集めている。

 

缶ジュースのボディには必ずといってよいほど「あき缶はくずかごへ」というフレーズが書かれている。つまり缶は捨てられることが大前提として生まれてくるのだ。それを集める。そこに深いものがある、とジュースの缶蒐集家・石川浩司さんは言う。

所沢市有楽町。石川さんの住まう町。招き入れられた玄関には「まぬけなラムネ展」と題してジュースのあき缶が並べられている。ラムネびんの柄の、缶だ。ラムネってのはあのびんのイメージ以外あまり無くて柄にしにくかったのね、という感じで、のっけから奇妙なあき缶たちに迎えられてしまった。「コーラのいろいろ展」「スポーツドリンクのいろいろ展」などと、彼は二ケ月毎テーマを変え、展覧会を開き続けている。

 

そもそもジュースの缶の蒐集は3年前、和歌山を訪れた折、偶然手にした〝掛布オレンジ〟に端を発する。元阪神タイガースの掛布選手がオレンジを打とうとしている、衝撃的にケッタイな柄の缶であった。以来、貪欲なまでに買い集め、現在種類は3000にのぼっている。旅行に出れば100本でも買い、一度カバンのヒモが切れた経験から宅配使で送ることも習慣となった。同じ商品でも1年程で缶デザインが変わることが多いから、リスト表を持ってマメに自動販売機のチェックにもいく。こうして集めた缶は必ず自分で飲み、いつ、どこで、いくらで買ったか等ノートにつけてから、赤・青・緑・黒・黄のシールを種類に応じて貼る。そして庭に建てた専用の簡易物置の中に整然と片付けるのだ。

日々こうしてたゆまぬ努力をする彼の夢は「缶飲料私設博物館」を作ること。缶飲料というのは酒類とちがって、中規模スーパーのオリジナルジュース、地方自治体の「おいしい水」、宗教法人による宗教ドリンクに至るまで、各々勝手に製造販売することができる。市場の状況を把握している所がナイ。だから缶飲料を体系的にとらえた博物館が作りたいというのである。

一本一本自分で飲む。リストをつける。整理する。そして新種を発見した時の喜び。これぞコレクター、これぞ「趣味」たるものであろう。

ちなみに彼は、へんてこなるバンド〝たま〟のパーカッショニスト。山下清然とした風貌でオケやクッキー缶などで作った打楽器をたたき、また歌う。

取材・文・写真 勝本嘉津枝

(「花形文化通信」NO.02/1989年6月26日/繁昌花形本舗株式会社 発行)