好子ちゃんがコマを回しているのは、そろばん教室の床です。年季が入っています。
好子ちゃんはそろばん教室の先生です。
大学を卒業してから数年のあいだ、プログラマーの仕事をしていましたが、お見合いして結婚。嫁ぎ先のお義父さまが、そろばん教室を開いておられ、先生をされていましたが、最近、引退されたので、嫁の好子ちゃんが現在、先生をしているというわけです。
嫁に行った先がそろばん教室だとして、誰にでも先生が務まるわけではありません。私にはとてもとても。
「好子ちゃん、そろばんやってたん?」
「大学のとき、珠算部やってん。知らんかった?」
そういえばそんな気もしますが、すっかり忘れています。中学で陸上部だったことは憶えています。
好子ちゃんとは幼なじみで、小中学校は同じ。高校は好子ちゃんが1ランク上の学校に行き、大学は好子ちゃんが滑り止めで入った私立大学に、私は一浪の第1志望で入学しました。大学1年次は一般教養の授業の取り方を、どの先生が通りやすいとか試験が楽とか、いろいろ教えてもらって大助かりでした。
走るのは速いし、勉強はできるし、真面目だし。好子ちゃんの弱点といえば、そのネーミングでしょうか。ヨシコといえば、「魔法使いサリー」のよっちゃん、初代林家三平の「ヨシコさん♪」など、当時から、ちょっとコミカルで、ちょっと懐かしい響きがする名前でした。
小学校のとき、自分の名前の由来を調べるというような宿題が出され、好子ちゃんは衝撃の事実を知ることになります。
好子ちゃんは生まれてから一週間ほどは、ヒロコちゃんと呼ばれていたのです。好子ちゃんは本当はヒロコちゃんだったのです。なぜそんなことになったのかというと、それは、好子ちゃんのお父様が役所に出生届を出しにいったのですが、ヒロコという名前を忘れてしまったらしく、「好子」と届けて帰ってきたのでした。で、家に帰ったら、みんなヒロコちゃんと呼ぶので、その名前を思い出したものの、なかなか「好子」と届けたことを言い出せず、一週間ほどして、そのことを家族に告げたそうです。ちなみにヒロコは「浩子」だったとか。浩宮の浩、歳がわかりますね。
好子ちゃんは、よりによって「好」なんて!ほかにも漢字はあるのに、と怒っていましたが、そのお父様も昨年他界され、好子ちゃんも、もう怒っていないと思います。
それにしても、ウールの5本指ソックスって、動物みたいでおもしろい。
by 塚村真美