多田多恵子 文と写真『身近なしぜん再発見2 旅するタネの図鑑』文一総合出版2022年10月30日刊

みのりの季節、草木には実がなってタネができます。この秋、植物生態学者・多田多恵子さんの文と写真による図鑑『旅するタネの図鑑』が出版されました。

この図鑑は《身近なしぜん再発見!》シリーズの2冊目で、版元の文一総合出版はバードウオッチング雑誌や自然関連の専門書などで知られています。1冊目は『似ているけれどちがう生きもの図鑑』なので、目線を変えて見てみたら新しい発見があるよ、という図鑑のようです。

さて、『旅するタネの図鑑』は、みずからは動けない植物が命をつなぐため、タネを遠くへ旅立たせる工夫について、丁寧に解説されています。「翼(よく)をもつタネ」「綿毛をもつタネ」「風に散る小さなタネ」「はじけて飛ぶタネ」など、工夫別に約230種のタネが次々に紹介されていきます。

が、その前に。目次につづいて巻頭に4ページが設けられています。まず1ページ目でタネが旅をする理由が語られ、2ページ目で用語の解説がなされます。小学生も読めるようにか総ルビですが、「気根(きこん)」とか「鋸歯(きょし)」とか「胎生種子(たいせいしゅし)」とか「閉鎖花(へいさか)」とか、容赦なく漢字が並んでいます。3ページ目は「花から実へ」として写真による花と実の解説、そして4ページ目は「旅するタネの工夫」で、本編の構成と対応してさまざまな特徴が表組みで紹介されています。

本編に入る前の、この「花から実へ」というところを見ていたら、あたりまえのことなのですが、「花」がゴールではなく、それはまだ途中で、「実」を結んでようやく、できあがり!なんだなあと思いました。ここでは、タマサンゴ、サクラの仲間、キツネノボタン、ヒマワリの4種の花と実の写真が並べてあり、それぞれの実の部分についても引き出し線で解説してあります。またしても、総苞片(そうほうへん)だの舌状花(ぜつじょうか)だの、容赦ない説明が脳を刺激します。

本編へ入ると……。「翼をもつタネ」って、カエデとかツクバネでしょうと思ったけれども、ほかにもこんなに!という調子で、どのページを開いても知らない植物のタネが続々登場。

「綿毛をもつタネ」では、タンポポ以外にもこんなにあったのね……。ツワブキ、シュウメイギクは花は知っていたけれど、タネは綿毛だったのか。ボタンヅル、ガガイモってどんな植物?など、見開きで21種の綿毛のタネが紹介されています。そして白い綿毛がよく見えるよう、綿毛の見開きはバックが黒になっています。冠毛(かんもう)とか種髪(しゅはつ)というのも知らない言葉でした。

そして、旅するタネといえば、「ひっつき虫」。私が子どもだった頃、ひっつき虫といえば、オナモミでしたが、大人になってからは、三角形のひっつき虫や、鬼みたいな二本ツノのひっつき虫くらいしか、ひっつかなくなりました。三角形のはアレチヌスビトハギ、鬼みたいなのはアメリカセンダングサというのも知りました。そして、どの部分がどんな形になっているからひっつくのかも、拡大写真が掲載されています。

「ひっつき虫」は上の見本ページの次のページにも掲載されています。そのほか、びっくりするような世界のタネも面白い!巻末には、実とタネの関係についての解説も。

植物図鑑といえば、多田さんのヒット作『美しき小さな雑草の花図鑑』のように、ため息の出るようなそれはきれいなお花の写真が掲載されていて、紅茶をいただきながらページをめくりたくなりますが、この『旅するタネの図鑑』は、だいたいが茶色なので、苦いコーヒーとか濃いココアが似合います。茶色いおかずがよく味がしみておいしいように、このタネの図鑑も噛みごたえたっぷりで味わい深い本になっています。

by 塚村真美

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身近なしぜん再発見2 旅するタネの図鑑
文と写真:多田多恵子
発行年月日:2022年10月30日
定価:2,200円
判型:B5判 上製
ページ数:48ページ
電子版:2023年2月リリース予定
発行所:文一総合出版(東京・新宿)
文一総合出版サイト:https://www.bun-ichi.co.jp/