上:HANS REICHEL ハンス・ライヒェル『YUXO A NEW DAXOPHONE OPERETTA』Innocent Record 下:内橋和久『Singing Daxophone』 イノセントレコード

 

「ダクソフォンのダックスは、ドイツ語でアナグマっていう意味なんです。なんで彼がアナグマを選んだかっていうとね、アナグマってすごい面白い鳴き方するんだって」と、ギタリストでダクソフォン奏者の内橋和久さんに、ダクソフォンを発明した“彼”、ハンス・ライヒェルHans Reichelさんの話を聞いてから、アナグマ、ドイツ語でdachsの鳴き声がとても気になっていました。

ちょっと時間ができたので、さて動物園にでも行ってみるか、と一番近い「天王寺動物園」を調べたら、ニホンアナグマ(学名Meles anakuma)しかいませんでした。日本のアナグマは茶色くてタヌキみたい。神戸か京都の動物園にいるのかなと思ったら、日本動物園水族館協会の「飼育動物検索」というのがあったので、みたら、ニホンアナグマはけっこうあちこちの動物園にいるのに、ヨーロッパのアナグマ(学名Meles meles)は「愛媛県立とべ動物園」が1件だけヒットして、とべ動物園の動物紹介ページには見当たらなく、どうやら日本の動物園にはdachsはいないようです。

そういえば内橋さんは、Hans Reichelさんにヴッパータール動物園に連れていってもらった話もしていたので、ヴッパータール動物園のサイト内で検索してみたのですがいない。Hans Reichelさんはハーゲン生まれで、ヴッパタールに住んでいたので、その辺り(ノルトライン=ヴェストファーレン州)で調べたら、NABU(ドイツ自然保護連盟)のページが出てきました。

州の狩猟法で捕ってよいことになってるようです。動物園で飼育する動物ではなくて、その辺で見かける野生の動物だから、わざわざ動物園には入っていないのか、入っているけど、紹介するほどではないのか。

しかし、YouTubeで鳴き声は聞けました。まあいろいろありました。わざと鳴かせたり、信憑性に欠けるものもあり、見た中ではこの番組がしっかり撮影と録音をしていました。Dachsの生態もよくわかります。スイスの公共放送の番組です。声は27:08から聞けます。

それから、もう一つ。コヨーテの声も気になって仕方ありませんでした。それは、ヨーゼフ・ボイスJoseph Beuysの展覧会に行ったからです。とてもよい展覧会で、驚きました。気がつくと3時間以上も滞在してしまいました。まず、入ったところでいきなり《ユーラシアの杖》が展示されていて、それだけでつかまれました。空間を再現するようなスペースで映像が目の前の壁に映し出され、もちろん実物の作品もあり、追体験できるような展示。ベンチに座って一部始終を見て、もうこれだけで満足というくらいで、次に進みましたが、またしても《I Like America and America Likes Me》の前で立ち止まることに。ボイスもですが、コヨーテのパフォーマンスも素晴らしかった。パフォーマンスといって、コヨーテは演技しているわけではありません、ボイスだってそうでしょう。で、苦手な映像も引きぎみに見ながら進んでいくと、もう終わりかというところで出てきたのが《コヨーテIII》、1984年に草月会館で行われたパフォーマンスです。1時間近くあるからもういいかと横目で見始めたら、はまってしまいました。

ボイスはずっとコヨーテの鳴き真似と思われる声で歌っていました。歌といってもボイスパフォーマンス、即興の歌。OOIOOのyoshimiちゃんみたいな感じです。コヨーテの声なんか聞いたことがないので、私にはダクソフォンの音のようにも聞こえ、コヨーテとアナグマと決闘かと思ったり、ナムジュン・パイクも愉しそうにピアノを弾いていて、二人とも遊んでいました、徹底的に。あー、面白かった。

コヨーテも日本の動物園検索では見つかりませんでした。天王寺動物園にいたようですが、公式ページに2016年の3月16日にコヨーテの飼育が終わったとありました。死亡していました。

コヨーテは北米原産ですが、最近は数が増えているらしく、『ナショナルジオグラフィック』のニュースには「コヨーテはなぜNYのバーの屋根に上ったのか~都市部が肉食動物をますます引き寄せる理由―2015.04.06」とか、「コヨーテの生息域が40%も拡大、南米大陸が目前に~年間40万匹以上が殺処分されても増加の一途、どこまでいくのか?―2019.12.06」とか。コヨーテとオオカミの雑種もすでに増えているようでした。ほかにも「レア動画 まるで童話、アナグマとコヨーテの友情~米カリフォルニア州の高速道路下で、捕食動物同士の不思議な絆が撮影された―2020.02.10」というのも。このアナグマはタヌキみたい、と思ったら、アメリカアナグマというヨーロッパのとは別の種類でした。

Hans Reichelさんが好きだったヨーロッパのアナグマも、Joseph Beuyが好きだったアメリカのコヨーテも、困るくらいたくさんいるようですが、日本にいてその鳴き声をライブで聞くのはなかなかできなさそうです。

by 塚村真美