“天界”という題のピープショー・カードです。2003年にイラストレーターで絵本作家の吉田稔美さんからいただいたものです。

ピープショーは、のぞいて楽しむ、しかけ絵本といったところ。立体の飛び出す絵本とはちがって、奥行きに吸いこまれる感覚が面白い、紙製の視覚玩具です。

ピープショーという物を吉田さんが初めて見たのは、1996年に東京都写真美術館で行われた「映像工夫館展テーマⅢ 3D―ステレオを超えて」展だったといいます。たぶん私も一緒に展示を見てまわったような気がします。その後、2001年から吉田さんはインクジェットプリントで刷った、オリジナルのピープショーを作り、展覧会で発表し始めました。

それから20年。今年の秋、吉田さんからプレゼントが届きました。著書を送ってくださったのです。その名も『紙絵遊びの文化 ピープショー のぞきからくり』(玉川大学出版部)。

吉田稔美 著『ピープショー のぞきからくり』(玉川大学出版部はこちら

 ピープショーのしくみや歴史のほか、ステレオ写真、見世物ののぞきからくり、組み上げ絵(立て版古)、アートブック、美術作品など、ピープショーに接点のある、視覚装置の仲間たちもたくさん紹介されています。

ピープショーと聞いて、エロティックなのぞきショーを思い浮かべる人もいるかも知れませんが、視覚玩具に興味がある人がまず思い浮かべるのは、「クラシックピープショー」と分類される、19世紀に最盛期を迎えた風景画のピープショーでしょう。吉田さんの本にも、フランス製「チュイレリー公園」や、ドイツ製「ヴィクトリア女王の戴冠式の行列」、イギリス製「ロンドン万国博覧会開会式」の図版が紹介されており、どれもこれも覗いてみたくなります。

吉田さんが最初に出会ったのも、クラシックなもので、細密な線画に彩色が施され、精巧に切り抜かれており、確かな遠近法で深い奥行きをもつピープショーでした。その時のことを本にはこう書いてあります。「たよりないジャバラのおどけたような外観とクラシックで端正な絵柄、そしてのぞきこむと不思議な深い奥行き感があり、目も心も魅了され〈はるか遠くつれていかれてしまった〉のである。」

そして、お手製のピープショー・カードをもらった私は、あれ、ちょっと違う、と思ったのでした。それは、視覚装置というより、絵本だったからです。つまり、物語がある。物語といっても文字が書かれているわけではないのですが、のぞいてみると、風景の中に登場人物が浮かんでいて、奥行きの中に詩情が漂っていました。

2001年にお手製のピープショーを作った吉田さん。2008年からは、オフセット印刷でピープショーをいくつか出版されました。久しぶりに、インクジェットのピープショーを見てみると、これがいい雰囲気なのです。当時はちゃんと印刷できるようになるといいね、などと思っていたのですが、インクジェットのにじみが、水彩画用紙のような紙と相性もよく、天使の羽根のモチーフともよく合っています。

クリスマスイブ、17年ぶりに箱を開けたら、また新しいプレゼントをもらったような気がしました。

by 塚村真美

 

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