きょうの二上山:10月9日(金)雨

二上山に霧がかかっているのが見えたので、ちょっと遠回りしてみました。谷に霧がたまると二上山の麓にも小さい山がぽこぽこあるのがわかります。ワイパーの真ん中あたりのちょっと奥にあるのが麻呂子山で、その麓に當麻寺があります。

雄岳と雌岳で二上山。「にじょうざん」とか「にじょうさん」とか呼ばれていますが、本居宣長なら大和心で「ふたかみやま」と読みます。大津皇子が葬られたとされ、姉の大来皇女が詠んだ歌が知られています。折口信夫の「死者の書」でも有名で、恵心僧都が考案したとされる山越阿弥陀図の原風景ともいわれます。

「死者の書」は名著ですが、地元ではよい評判を聞きません。ともかく私にはすこぶる印象が悪い。「ああおれは、死んでいる」、ゾンビ小説です。やめてください、と大来皇女が生きていたら言うでしょう、どうかな、私は言います。あの本のせいで、二上山のイメージはすっかりおどろおどろしたものになってしまいました。

個人的な二上山のイメージは、お弁当を持って登る遠足の山です。いたって健康的。雄岳から登って雌岳へ、麻呂子山から當麻寺に着いたらゴール。小学校高学年コースです。

さて、秋の大和路の道路沿いには、景観植物のコスモスがあちこちで咲いています。コスモスといえば薄紅色で、百恵ちゃんが歌ってすっかり短調なイメージの花となりましたが、ここ最近はキバナコスモスが人気のようです。キバナコスモス、どうですか、あの黄色というかオレンジ色。ご陽気なコスモスです。

薄紅色のコスモスは、メキシコ原産ということを忘れてしまうほど、やまとごころで「秋桜」などと書かれ、田や畑に似合い、洋館はもちろん、黒や青の瓦屋根をのせた昭和の家にも似合います。しかし、黄色とかオレンジ色となると、原産地メキシコを思い起こさせてくれるようでもあり、「無印の家」には似合いそうです。サクラとはイメージがつながらず、キバナを黄花と書いてもコスモスを秋桜と書こうなどとは思いません。なんかしっくりこない、気にくわないコスモスです。

チョコレート色のコスモスは、鉢花や切り花で人気ですが、景観植物としては見ないなあと思ったら、種子が採れないようです。栄養繁殖で殖やした苗を購入するとなるとお高くつくので、大量にタネまきをする景観植物には向いていないわけです。

チョコレートコスモスの育種家、奥隆善さんによると、メキシコでは、コスモスは標高1600メートル以上の高原地帯で咲いている(『NHK趣味の園芸』2014年10月号より/NHK出版 NHKテキストView )らしく、それより低いつまり温度の高い所で近縁種のキバナコスモスが咲いているそうです。

自生地ではっきり住み分けているのを、日本では色とりどりに咲かせたいものだから、同じ場所にタネをまくことになります。すると、暑い早い時期から咲くキバナコスモスの方が、生育も旺盛でより多く咲くようです。すでに道路脇に逃げて野生化しているキバナコスモスも見かけます。

ああ、そうです。気にくわないのは、キバナコスモスがあの「特定外来生物」に似ているからです。「特定外来生物」というレッテルを貼られるともう、悪者にしか見えない。その悪者にそっくりだから、なんか悪いイメージで見てしまうのかもしれません。悪者とはオオキンケイギクです。90年代に流行ったワイルドフラワーとしてあちこちにタネまきされましたが、あまりに強靱すぎたのです。黄色い花が線路脇に群生しているのをよく見かけました。(国立環境研究所「侵入生物データベース」オオキンケイギク

イメージなどいいかげんで、固まっているかと思えばすぐ何かに引っ張られてしまいます。意外と、二上山にはキバナコスモスがよく似合う、のかもしれません。

by 塚村真美