「海洋の状況(2020年7月)太平洋赤道域の海面水温は東部で平年より低い」出典:気象庁ホームページ(https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/elnino/kanshi_joho/kanshi_joho3.html

 

8月11日のこと。高速道路を走っているとカーラジオから、今年は「ラニーニャ現象」が発生する可能性が高いというニュースが流れてきました。ラニーニャ現象は、南米ペルー沖の赤道付近の東太平洋で、海面水温が平年より低くなる現象のことで、日本では秋の初めまで気温が高くなるらしく、冬は寒くなるそうです。冬のことまではとても考えられず、9月も暑さが続くのか、とため息が出ました。

そして、あれ?「ラニーニャ」の反対ってなんていうんだったかな?と、単語が出てきません。ラニーニャよりもそっちの方が有名なのに。えーっと。とすぐ思い出せると思ったのに出てこない。え?なんで! なぜ私はこの“重要な”単語を忘れてしまったのか。これはたいへん!一大事!焦りました。「カタルーニャ」でもなく「カンパーニュ」でも「カイピリーニャ」でもなく、「パエーリャ」でもなく「セニョリータ」でもなく、えー!!!

答えは「エルニーニョ」です。高速道路を降りて二つめの信号で止まる時にふっと出てきました。「思い出せた」とほっとすると同時に、おそろしく老化していることに愕然としました。この単語をなぜ私は重要ととらえ、忘れてえらく焦ったのには、理由があります。それは、いまから何年前かもすでに忘れていますが、はっきりしているのは「あやや」が人気を博している時分のことです。

友達とふたりでテレビを見ていて、あややの名前が言えないという現象が起こりました。若いタレントさんの名前は覚えられないねーとかいいながら、「松」が付いていたと、「松下」だ「松宮」だ「松島」だとか言ってるうちに「松浦」にたどり着きました。あー、人の名前が出てこないというのは、こういうことなのか、と脳の老化に気づいた初めの出来事だったのです。

松浦亜弥が出てきた後も、まだおしゃべりは続き、なんか気の利いたことだか下らないシャレだかを言おうとして「エルニーニョ」と言いたいところなのに、その「エルニーニョ」が出てこない。それからふたりして、思い出そうとしても忘れられないポテチンとか言いながら、どうしても思い出せずにいたのだけれど、夜遅くになって、ふっと「エルニーニョ」ということを思い出せたので、以来、私は単語が出てこなくなることを「エルニーニョ現象」と呼ぶことにしたのでした。

エルニーニョ現象はそれ以降たびたび起こって、私は単語が出てこないことにだんだん慣れていきました。そして、いちいちエルニーニョが起こっているとも思わなくなり、あろうことか、再び同じあやまちを繰り返してしまった。しかもそれだけではない。忘れるという言葉を忘れるというような、忘却の彼方の深遠なるを見てしまったのです。

それから3日後、別の友人からメールで、80年代に京都で出てた大判のフリーペーパーって何て名前だった?と聞かれて、ああ、二十一世紀社から出てた、羽良多平吉さんがデザインしてた、というのは出てきたのに、とっさに名前が出てこず、あーまたエルニーニョかと、うろうろして、あきらめながらお風呂に入ろうとしたら、あ「はい・から」やん、と思い出して、お返事しました。

ついでに「はいから」「フリーペーパー」で検索すると、ぜんぜんちがう「シニア(高齢者)ライフの応援サイト」というのがヒットします。紙の「アクティブシニア向けフリーペーパー」もあるみたい。なんじゃこりゃあ?あの超絶カッコイイhi-cA ra tとはえらい違い。

しかしまあ、まあこの「花形文化通信」もアクティブ(かどうか?)シニアの応援(してるんだかされてるんだか?)サイトとして、シニアの心のよりどころとなればよいなあ、と思いを新たにした次第。

by 塚村真美