自家栽培ひょうたん楽器ってなんだか奇跡のよう

by 奥田亮

すっかり丸見えになった「雪の下ひょうたん」

金沢21世紀美術館「愛についての100の物語」展(2009年)

先週後半は予報通り全国的に大雪が降り、中南信地方は道路が閉鎖されたりと大変だったようですが、この辺りは心配されるほど降らず、雪質も水分を多く含んでいたため、すぐに解けて積もることはありませんでした。ということで、雪の下ひょうたんは完全に全身丸見え状態。中に水が溜まって雪の下とは言い難い状態になっていました。もうこれは雪に埋めておいてもあまり意味がなさそうなので、近々引き揚げて陰干ししようと思います。まあ、やる前からわかっていたような気もしないでもないですが。

さて先週は、丸黄さんのお声がけによって、ひょうたんで新しい楽器を作り始めた方々のことを拝見して、これまでの活動を振り返りながら感慨にふけっておったのですが、懐古ついでに一つまた思い出したことがありました。2009年に開催された金沢21世紀美術館の開館5周年記念展「愛についての100の物語」に出展させていただいた時のことです。(HOP金沢21[ひょうたん楽器コンサート」概要はこちら)

21世紀美術館とは、デザインの仕事等で関わらせていただいていたのですが、出展については、当時の学芸課長のFさんが私のプライベートな活動である「ひょうたんオーケストラプロジェクト」に興味を示され、ご依頼くださったのでした。美術館の中庭でひょうたんを栽培し、収穫して楽器を作って演奏するというある意味壮大なイベントとなったのですが、企画の伏線として金沢市内に実在する瓢箪町という町の人たちを中心に栽培のお手伝いから参加してもらうという市民参加型の作品を想定してもいたのでした。会期中の8月8日ひょうたんの日には、大阪から丸黄さんたちひょうたん仲間をお呼びして、演奏を披露したりと楽しい思い出もたくさんありますが、それはまた機会があればお伝えしたいと思います。

じつはこの出展については、Fさんにもう一つの伏線があったということをあとで教えていただきました。それはこんなお話でした。Fさんがスペイン(だったと思います)に行かれた時、どこかの国の難民のミュージシャンに会ったのだそうです。その人たちはほとんど何も持たずに身ひとつで祖国から逃れてきて、当然楽器も何も持っていなかったのですが、「俺たちはここにひょうたんを植えた、このひょうたんで楽器を作ってまた音楽をやるんだ。楽器があればどこででも音楽はできる」というようなことを言ったのが今も心に残っていて、私の活動を聞いてそのことを思い出したのだ、ということだったのです。

ひょうたんを栽培して楽器を作るなんて呑気で酔狂なことだと思っていたのですが、状況によっては切実で命懸けなことにもなるのだと思うと、ちょっと気持ちが引き締められたのでした。今はお金さえあれば何でも買えてしまいますが、自分で作ろうと思えば作れるという気持ちと、拙くても多少の技能を持っていることは、楽しく生きる助けになるのだと思います。タネが一粒あれば音楽ができる。そう考えると、自家栽培ひょうたん楽器ってなんだか奇跡のようですね。でれろん。

(927日目∞ 2月13日)