ひょうたんで顔を隠した能楽師『犬王』
by 丸黄うりほ
「アニメーション『犬王』の主人公がひょうたんのお面を被っているよ!」と、私に最初に教えてくださったのは、イラストレーターの吉田稔美さんでした。それが今年3月のことで、「5月28日公開、まだちょっと先だね」と思っていたら、あっという間に6月下旬!というわけで慌てて行ってまいりました。
『犬王』の原作は、古川日出男の『平家物語 犬王の巻』という小説で、お話自体はフィクションなのですが、主人公の犬王という能楽師は実在の人物らしいのです。観阿弥・世阿弥の同時代に、そんな人がいたんだと思いました。
この物語のなかで、猿楽の一座に生まれた異形の子である犬王は、その醜い顔を隠すためにいつもひょうたんの面をつけている、という設定になっています。顔が、というよりもアニメでは手足のバランスがおかしく、手足が伸びたり縮んだりするし、異形というよりももはや怪物なんだけど、盲目の琵琶法師である友魚には犬王の姿は見えないため、怖がったり差別したりせずに友情を育て、二人は素晴らしい音楽と舞のコラボレーションを生み出していきます。
犬王の異形ぶりがここまで徹底していると、見ているうちに実在の人物かどうかはどうでもよくなりました。なんでロックミュージカル?とか、都の人たち京都弁しゃべってないし……などという細かいツッコミは吹き飛び、私は最大の関心事であるひょうたんのお面に意識を集中することができました。
ひょうたんのお面には、犬王の目のあるらしいところに穴がふたつ空いています(図2)。この穴の位置が、アニメではひょうたんの上のふくらみの向かって左と、下のふくらみの右あたりにあります。犬王の目ってどうなっているんだろう?と思うとともに、ときどき犬王目線の、二つの穴から覗いた世界が見えてすごく面白かったです。
しかし、この位置が絵によって違っていることに気がつきました。たとえば、小説の表紙ではひょうたんの下のふくらみに穴が二つ並んでいます(図3)。映画館で購入したクラフトファイルに描かれたひょうたん面の場合は、上のふくらみに左右サイズの異なる穴が横並びで空いていました(写真4)。
うーむ、これはいったい……?
私の推理では、おそらく犬王はひょうたんの面を何種類か持っているのです。そして犬王の目の位置は、時と場合によって変わるのです。手足が伸び縮みするくらいですから、目の位置だって変えられるはずです。
ごめんなさい。お話の筋とはあまり関係なく、ひょうたんにばかり注目していたためニッチな感想になってしまいました。しかし、私などがいうまでもないことですが、この作品はすごいです。監督が湯浅政明、脚本が野木亜紀子、キャラクター原案が松本大洋、音楽が大友良英。主人公の犬王の声が女王蜂のアヴちゃん、そのバディとなる琵琶法師・友魚の声が森山未來。ここに連なる名前を見ただけで、おおっと思いますよね。
6月20日に発売されたばかりの公式書籍『劇場アニメーション「犬王」誕生の巻』(松本大洋・湯浅政明/河出書房新社)も、原作の『平家物語 犬王』(古川日出男/河出文庫)も、書店でみかけたら手にとってみようと思います。
アニメをまだ見てない方は、ぜひ犬王のひょうたん面に注目して鑑賞してみてくださいね!
(775日目∞ 6月24日)
PR TIMES 映画「犬王」公式書籍リリース(2022年5月27日 09時00分)はこちら
※次回776日目は奥田亮「でれろん暮らし」、6月27日(月)にアップ。
777日目は丸黄うりほ「ひょうたん日記」、6月28日(火)にアップします。