市村明久先生宅のひょうたん

by 奥田亮

市村明久先生宅。塀に大きな飛鳥美人。

先週の続きです。前号でお伝えしたように、小布施町在住の書家、故 市村明久先生が、じつはひょうたん愛好家だったということがわかり、静かに歓喜しておりました。先生は残念ながら今年3月に84歳で逝去され、遺作展となってしまった「しんきんギャラリー」での展示が、6月いっぱい行われています。先生の書や篆刻は、甲骨文、金文、篆書、隷書など比較的古い時代の書体に依りながらも、ユーモアと力強さのある独特の筆致で、見飽きることがありません。ぜひお近くの方には一度ご覧いただきたいと思います。前号でもお知らせしましたが、インスタグラムで作品の紹介をされていますので、遠くの方もぜひ。特に圧巻なのが、スワロー亭の斜め向かい、西永寺さんの御座敷の襖いっぱいに書かれた大書。許されるなら畳に寝そべりながら日がな観ていたい。

さて、展示の打ち合わせのために過日スワロー亭に来られた姪っ子さんから、ご自宅には、まだまだひょうたんがたくさんあるとお聞きして、へぇそうなんですね、とクールにポーカーフェイスで返答しましたが、「このあと行きますけど、一緒に来られますか」と言われ、「え、いいんですか⁉︎」と応えた声は、喜びで少し裏返っていたかもしれません。

じつはこの姪っ子さんというのは、一昨年、IPUの栽培のことでお世話になったユウコさん(でれろん暮らし24)。ご夫婦で自家焙煎珈琲のお店「マルテ珈琲焙煎所」を営みながら、フラダンスの教室を開かれたりと多才な方です。またまたひょうたんのご縁をいただけるなんて、ありがたいことです。

扁額の下に、色とりどりの百成ひょうたん。

玄関にも六瓢。室内にはさらにたくさんのひょうたんが。

さて、先生のご自宅は、普段よく通る車道に面したところにありました。え?こちらだったんだと驚きとともによく見ると、早速ひょうたんのお出ましです。道に面した塀に優雅な姿をした大きな飛鳥美人。いやー今まで全く気づきませんでした。さらにお宅の入り口には、木の根っこで作られた怪しげな扁額に何やら読めない文字が彫り込まれ、そこに色とりどりに彩色された百成ひょうたんがぶら下がっています。一歩門を潜ると車の音も街の喧騒も消え、鬱蒼とした木立のお庭。

いおりを結んで人郷に在り
而も車馬のかまびすしき無し

思わず陶淵明の詩を思い出させます。陶淵明といえば酒、酒といえばひょうたん。先生がお酒を嗜まれたのかどうかは存じ上げませんが、勝手に連想は繋がります。

お庭の先にある玄関にも、何かの道具か建材の古材を使った扁額に、やはりひょうたんが6つ。そういえば入り口のひょうたんも6つ。無病(六瓢)息災の願いを込めておられたのでしょうか。そして写真には写っていませんが、壁にも大きな長瓢が下がっておりました。玄関の上がり口に、さらにたくさんのひょうたんがぶら下がっていたのはいうまでもありません。聞けば栽培もしておられたことがあったとか。こんな方が近くにおられたなんて……。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

(766日目∞ 6月13日)