あわてなくていいよ!イプとマランカと千成と
by 丸黄うりほ
私事ですが、4月はものすごく忙しかった。太宰府天満宮の「厄晴れ 厄除け ひょうたん祭り」が見たくて福岡旅行もしましたし、ひょうたん楽器によるライブも日程が偶然重なって月に3回もさせていただきました。久々に重量のある仕事も舞い込んできて、ありがたい反面しんどく、3月末に実家から運び込んだ大量の荷物は部屋に積み上がったまま。そんなこんなで細かいところに手が回らず、気持ちだけが焦るという状態でした。
4月5日の日記で、ようやく水から引き上げて乾燥に入ったことを報告していたイプ「ドミティアヌス」の後成りの実も10日ほどで完全に乾いていたのですが、写真を撮る余裕もなく、そのまま放ったらかしていました。
というわけで、ようやくの報告です。写真①が2021年、我が家のベランダで頑張ってくれた「ドミティアヌス」のすべての収穫です。
大きいもので高さ30センチあります。右に写っている皮の茶色い4個が先成り、左の色の薄い3個が後成りです。先成りと後成りは色が違うだけでなく、質感が全然違う仕上がりになりました。先成りは皮が非常にかたくて頑丈で、ずしりと重い。中にタネがたくさん残っているせいかもしれません。振るとかなり大きな音がガラガラと鳴ります。
後成りは、ふわっと軽くて叩くとすごくいい音がします。なんの加工もしていないのに、「ぽわんぽわん」とエフェクトをかけたような反響音がする。とくに、お尻のほうに穴をあけたひょうたん(写真②)が、たまらなくいい音!自ら楽器になってくれたという感じです。
収穫もその後の水つけ加工もずいぶん遅くなってしまいましたが、「ドミティアヌス」はのんびりと気長に楽しませてくれました。ありがとう、ありがとう。
ひょうたんの一生って、蔓がぐんぐん伸びて花が咲く時期だけはとてもスピーディーに変化するんですが、それ以外は「あわてなくていいよ!」というのがデフォルトのような気がします。
受粉してからしっかりした実になるまで。タネから苗になって独り立ちするまで……。急いては事を仕損ずる。
それなのに、ああ。私はやってしまいました……。
珍ひょうたん・マランカが一向に発芽しないので、気温が低すぎるせいかもしれないと思い、連休前にヒーターマットを購入しました。しかし、その後もマランカには何の変化も起こりません。仕方なく、5月6日にピンチヒッターとして千成ひょうたんのタネをまきました(740日目)。
もう5月だし、ヒーターも入れていることだし、千成はおそらく1週間、もしかしたら3日かそこらで発芽するだろう。マランカのせいで1カ月も栽培に遅れをとってしまったが、ここからはピッチを上げていかなくちゃ。……私は、なんだか忙しい自分の日々と重ねて、ひょうたんに対してもそんなふうに焦っていたのです。
ところが1週間たっても千成はまったく発芽してきません。なぜだろう?私はなにか間違ったことをしているのだろうか?去年と同じやり方をしているのに?
そのとき、ふと気がつきました。去年とほかは同じだけどヒーターを使ったことだけが今年は違う……もしかしたら、温度が高いほど発芽が早まるというのは間違い?
そんなわけで、あわてて園芸本やネットを調べ直してみました。すると、ひょうたんの発芽温度は25℃から30℃ということで、ほとんどの資料が一致。25℃より低いとなかなか発芽しないけど、30℃を超える高温でも発芽しにくくなるということがわかりました。
私はタネ袋に残していたタネを再び濡らしたキッチンペーパーに包み、新たなタッパー(水色)を作りました。そして、ヒーターとタッパー入りの箱の間に本をはさんでワンクッション置き、箱の温度が30℃を超えないぬるさに調節。ときどき、そこからも離してヒーターなしの時間帯も作ることにしました(写真③)。
すると、ちょうど3日たった今朝。新たにまいたタネが、たった1つだけですが発芽しているのを見つけました!
早く発芽させようとあわてて、ヒーターを入れて、ひょうたんの尻を叩いていた自分が急に恥ずかしくなりました。
ひょうたんにはひょうたんのペースがある。焦りとエゴは禁物。生命のペースを見守り、そっと助けること。残りのタネも早く発芽してほしいけれど、あわてない……。あわてない……。
(747日目∞ 5月17日)