つるつるした夜は、とてもあたたかでした
by 丸黄うりほ
この「ひょうたん日記」にたびたび登場するヒョータニストのふじっこさんは、箏奏者でもあるモリカワさんと私の三人で組んでいる「ヒョウタン総合研究所」のメンバーでもあります。
「ヒョウタン総合研究所」というのは、メンバー全員がひょうたんを栽培し、その実から楽器(のようなもの)を制作し、演奏会を行うことを目的としたユニット。ひょうたん栽培から楽器になるまで約1年もかかるので、手間はかかっているのですが、そのわりにしょぼい音しか出ないひょうたん楽器を頑張って演奏する。その姿を笑っていただき、楽しんでいただくことができたらよいなぁと思って続けております。
先週末、「ヒョウタン総合研究所」は約半年ぶりにライブを行いました。会場は大阪・阿波座にある「シェ・ドゥーブル」。「シェ・ドゥーブル」でひょうたんがライブをすることになったと言うと、「デイリーちくわ」の児嶋佐織さんから「えっ?ひょうたんがあの耽美な空間で?」という鋭いツッコミが入りました。
そうなんです、「シェ・ドゥーブル」はおしゃれなフレンチとスイーツがいただけて、奥にはギャラリー空間もある、とっても雰囲気のいいカフェ。でも、店長さんはアート系の人なので、変なモノにも耐性がある。いや、そんな言い方はいけませんね、懐が深い方なので、ひょうたんのような珍アイテムでも受け入れてくださる(はず)。
イベントタイトルは「キュート地獄 〜つるつるした夜〜」としたのですが、つるつるというのは磨いてツルツルという意味ではなくて、蔓蔓のこと。
蔓植物のひょうたんと一緒に出ていただいたのは、モジュラーシンセを操るソロアーティストのMINEさん。モジュラーシンセは写真①のような楽器で、複雑に、ぐにゃぐにゃと蔓がはりめぐらされている……のが特徴であります。そう、モジュラーシンセとひょうたんは、蔓仲間であるというわけなんですね!
いささか強引に仲間と言い切りましたが、MINEさんのシンセサイザー演奏は、いつも繊細かつ驚きにみちていて、私たちの憧れ。
今回出演をご快諾いだきましたが、仲間扱いなんかして本当に申し訳なかったです。音が流れ出すと、その場の温度がかわり、色がかわってしまうよう。音の粒たちが脳の奥に沈み込んでいき、瞑想に導かれ、時間の流れがかわってしまうような……。そんな素晴らしい演奏でした。ほぼ満席になるほど集まってくださったお客様たちも、MINEさんの蔓演奏にうっとりされていました。
さて、私たち「ヒョウタン総合研究所」の今回のライブの目玉は、ふじっこさんがぞくぞくと作り続けている新しいひょうたん楽器を、みなさまの前ではじめて披露するということに尽きると思います。モリカワさんや私の楽器は、もう何年も前につくったものがほとんどですが、ふじっこさんの楽器は1年以内につくったものばかり。
写真③をご覧ください。向かって左、ふじっこさんが吹いているのは昨年自分の畑で栽培し収穫した長ひょうたんから作ったディジュリドゥ「ひょジュリドゥ」です。ひょうたんとは思えない、なかなか良い低音を響かせてくれました。
その横にあるのが、この「ひょうたん日記」でも詳しく紹介したダクソフォン「ダクソ瓢ォン」です。おじいさんのうめき声を思わせる不気味可愛い音が、お客様にも大ウケ。
足元あたりにあるのが「ひょうたミン」、ひょうたんのテルミンです。端っこに写っているカラフルなのはひょうたんのウクレレ「ひょうレレ」。その横にある大きいのは「ひょうたんカホン」です。
クラフトワークのカバー、ふじっこさん作曲のブルースなどいろんな曲をやらせていただきましたが、ラスト曲はアンビエントのつもりのオリジナル曲。地味に淡々と演奏する二人の横で、猿のような奇声を発しながら踊りまくるふじっこさん……!
最後の曲についてお客様からは「あれはアンビエントじゃないわ……」という批評をいただきましたが、ふじっこさんのはじけ方は大好評でした。
お客様があたたかな方ばかりで本当によかったです。MINEさんも、「シェ・ドゥーブル」さんも、みんなひょうたんをあたたかく見守ってくださいました。お店の外に出るとまだ肌寒い春の夜でしたが、そこだけはぽかぽかと陽が差し込むサンルームのようでした。
(731日目∞ 4月19日)