収穫した3個の実をじっくりと鑑賞する
by 丸黄うりほ
先週ようやく収穫したイプの「ドミティアヌス」の後成りの実たち。薄い緑色をした実の造形美が存分に楽しめるのは今だけ。毎日眺め回しては美しいなぁとためいきをついている日々なのですが、もう3月ということで暖かくなってきたせいか、この状態でおいておくのに限界を感じます。名残惜しいけれど、緑色の実ともお別れです。
まずは写真①をご覧ください。3個の実を濃紺の布地の上に並べてみました。この状態で見るのが最もひょうたんの肌の美しさを感じることができると思うのです。まるで翡翠のようだと思いませんか? さわってみるとすべすべ、ひんやりとしていてとても気持ちがいい。
ひとつずつ観察していきましょう。写真②③は、その名の通り5番目に実った「ド実5号」です。高さ26センチ、胴回り48センチ。ベランダの北側、フェンスの外にできたため栽培中はあまりよく観察することができませんでした。
後成りの3個のなかでは最も白っぽく仕上がりましたが、1月くらいに腹に10円玉大の班ができてしまいました。この班は収穫して室内に取り込んでからさらに大きくなってきました。放っておくとここから腐っていくでしょう。
班の上に写っている傷はベランダの桟に当たっていたためにできたもの。③の口部からついているタテの筋は、裂果になりかけていたためにできたものだと思います。このように、「ド実5号」は傷が多くて、一般的にはあまりいい実とはいえないんだろうなと思います。しかし、そういう価値観をはずして、単純に美として観察してみると、タテの裂にも味わいがあります。ベランダの桟による傷が面白みを増幅させているともいえましょう。
続いて写真④「ド実7号」です。高さ24センチ、胴回り48センチ。プランターにお尻を置いた状態で成長しました。薄い緑色の表皮に、白っぽいモザイク状の班が観察できます。この班は「ド実8号」にもありますが、「ド実1号」から「5号」までの実にはありませんでした。同じ苗にできた実なのに、この違いはなんなのでしょうか?
白班は日本や中国のひょうたんにはあまり見られず、アメリカ瓢や台湾瓢によく見られる特徴です。イプはハワイのひょうたんですから、このあたりに異国情緒を感じずにはいられません。
「ド実7号」は涙型をしたフォルムも美しく、大きな傷もありません。ただ、よく見るとタテに細いひっかき傷のようなのがあり、この実にも裂果の兆しがあったことがわかります。裂果は実が急激に大きくなるときに起こるといわれていて、水のやり過ぎ、肥料のやり過ぎが原因らしい。
最後に、写真⑤は「ド実8号」です。高さ29センチ、胴回り50センチ。「ドミティアヌス」の7個の実のなかで最大です。しかも、全体にまるまるとしていていて大変存在感があります。
最後にできた実は「末成りひょうたん」という言葉があるように、一般的には小さくて貧弱で、いつまでも青いことが多いのです。私も長年ひょうたん栽培をしてきましたが、本当にその言葉通りになるものだなと思っていました。
ところが、「ド実8号」は違う。末成りの実が最も大きく、たくましく育つということもあるのですね。ただ、コンクリートの地面についたまま育ったために、お尻が黒ずんでしまいました。収穫し室内に取り込むとさらに黒い部分が広がってきたようなので、本当に限界です。さっさと水漬け加工に入らねば……。
(704日目 ∞ 3月1日)
丸黄うりほ ライター・編集者。ひょうたんをタネから育て、その実から音の出るものを自作し、演奏する楽団「ヒョウタン総合研究所」立ち上げ所員。ソロで「オール電化ひょうたん」としても活動中。ひょうたん栽培歴は15年ほどになるが、畑がないので毎年マンション(大阪市北区)のベランダでプランター栽培している。2021年はイプ「ドミティアヌス」を栽培。「花形文化通信」では、ほかにインタビュー記事を担当。